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黄金色の涙 1945 himawari  作者: 日南田 ウヲ
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後編㊻

 バイクは都会の灯りを背に受けながら進んでいたが、やがて淀川を渡り終えると今度は背に闇を抱えて速度を上げた。

 闇を背負ったバイクが進む先。


 それは…、


 対向車のヘッドライトをバイザーで受けたライダーの友は沈黙の中を夏の夜香を含んだ風。

 その風を切るシャツ音が聞こえる。

 聞こえると水野はアクセルを吹かせた。吹かせて彼は再び風を切る。

 数刻前、水野はバイクに乗り込む前に公衆電話でLEONに掛けた。

 電話口に出たのは権田。

 水野は権田に自分が後をつけられている事を話し、そこに近松が居るかどうか訊いた。

 訊くと返事の代わりに本人が電話に出た。

「なんや、先生。俺をいつまで此処に待たすんや」

 腕時計を見れば七時があと少しだ。

「今からそちらに行く。だから早くても八時ぐらいだ、いや寄るところがあるから九時ぐらいだ」

「九時やと?それまで待つんかい!!なんで直ぐそこで出らんかったや!!」

「…つけられていた。制服の若い男二人」

「何?」

 そこで近松は沈黙する。沈黙して近松は一言漏らした。

「…サツやな」

 近松の舌打ちの後に水野は頷く。

「それでどうした?」

 近松に水野が答える。

「巻いた」

「巻いた?」

 少し驚いて声を近松が上げた。

「京橋のラブホテル街に誘い込み、まぁ、俺はホテルに飛び込んだが、上手く巻けた様だ。

 思わぬ言葉に近松は舌を巻いた。

 結果としてはそれで良いが、しかしながら水野の側には警察が隠れていることを忘れてはならないと感じたと同時に、水野の意外さ、つまり何というか行動性に驚いた。

 巻いたとはいえ、相手は捜査官なのだ。

 余程心理的にも頭脳的にも明晰な人物だと近松は水野の声を聞いて相手を評価しなくてはならなかった。

「…それで、近松さん」

 ん?

 と無言に電話口で反応する。

「玲子さんの病院を教えてくれ」

「何?」

 思わず声が高くなる。

「先生、あんたこれから身を隠すんやぞ、それにつけられてるんや。見つかればあの子にまで警察が寄り付くやないか?分からんのか?」

「大丈夫だ。俺に巻かれるような奴には俺は追えない。それに…」

「それに、何や?」

 言い淀む水野に近松が言う。

「俺は彼女に伝える事がある。あの向日葵の事についてだ」

「向日葵やと」

 思わず近松が後ろのソファに座る権田を見る。水野が言った向日葵は今LEONに在る。


 ――その向日葵について


 水野はそう近松に言った。近松は眉を細めて金縁の眼鏡越しに見えぬ水野に向かって鋭い口調で言う。

「先生、俺はあの玲子嬢ちゃんの私立探偵やぞ。全ては俺が聞いてからでええやないか?違うか?」

 電話口の向こうで水野は首を振った。

「駄目だ。その件だけは俺が彼女に訊く。そう、悪いがこれは秘密を知り得た俺だけが訊かなきゃならない。だから教えてくれ。どうせ、これから世に隠れるんだ。あんたには彼女に話してから伝える。だから信じろ」

 無言で耳を傾ける近松に続ける水野が続ける。

「だってそうだろう?あの向日葵の絵を描けと言った依頼者は彼女だ。そして彼女はあの向日葵については他言無用、そして秘密を守ることを俺に約束させた。それはつまり俺が得た「秘密」もまた彼女の所有物という事に他ならない。それは彼女がまずはどうすべきか考えることだ」

 近松は心の中でほぅと唸った。

(――成程、向日葵の「秘密」もまた彼女の所有物…か…) 

 沈黙の鋭い刃が近松の何かを切った。だから次の瞬間、聞こえた水野の声に近松は逆らうことが出来なかった。

「教えてくれ、近松さん、彼女の病院を」

 そう、

 水野のバイクが向かう場所。

 それは玲子が入院している三宮の総合病院だった。


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