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黄金色の涙 1945 himawari  作者: 日南田 ウヲ
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後編㊹

 

 洋一郎はミラノへ戻る車内に居る。

 昨晩はボザーリ家のささやかな夕食にも招かれた。

 息子のアントニオはドイツに居り合うことは出来なかったが、代わりに隠居したとはいえ前当主だったトニオ・ボザーリは十分までの気品と若さを保ち、またあらゆる物事に通じた見識で洋一郎をワインと共に歓待した。

 特に戦後の話は洋一郎の興味をそそった。

 彼は大戦時、イタリアの空軍に属して飛行機を整備していた。

 それは小さい頃から物作りが好きだった性格が高じて名家の息子という身を顧みることなく長じて整備工になったのだが、しかしながら大戦においてイタリアは降伏。彼は失業した。

 しかしその後、彼は自分で身につけた技術とボザーリ家の財力を元手に小さなトランスミッションを作る会社を作った。それは戦後、自動車の発展と共に多くの企業で必要とされ、やがて次第に身上を大きくし、今やホテル事業も複数経営するグループ企業になった。

 そして息子のアントニオもまた父の職人気質を血統の中に引き継いだのか、彼自身は船舶等に利用される電動機企業を立ち上げ、それを今はグループ経営の柱として軌道に乗せている。

 戦後から現代まで続くその成り立ちを聞きながら洋一郎が思ったのは父の憲介の事だった。

 父もまた戦後、必死に企業を立て直した。その父の意思と理念は今、自分の心の中に在る。

 いや、それは父だけではない、戦後と言う時代を生きようとした人々の様々な想いもだ。

 それを思えば、自らの心は少年の頃に戻る。そう、少年の眼差しの中で見た人々の表情と思いを探る自分が居るのだ。そしてその思いが自分を今日まで走らせ続けているのだ。

 思うと手を握りしめた。握りしめた手にはホテルで受け取ったメモがあった。

 そのメモには唯、簡潔に一文が書かれていた。

 それは、


 ――日本の新聞を見られたら連絡を。

 田林


 何かが起きているのだと、洋一郎は思っている。そう自分の身辺を騒がせている娘の誘拐だけではなく、もっと違う何かが。

 洋一郎は過ぎ行く車窓の向こうに風景から視線を外すと静かに瞼を閉じた。

 ミラノまでの数時間で自分に何が出来るというのか分からないが、昨日見たあのボザーリ家秘蔵の素描画を思い描きながら、少しでも何か考えたいと思った。


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