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後編㊶
――グランファム
鼓膜奥に響く医師の声。
「これが現在抱えられている癌細胞への効果を抑える薬になります。唯…これはまだ承認が受けておらず、それに治験と言っても…投与された例は数少ないものですが、癌の進行を抑える効果があったのは事実です。但し、その効果は極めて五分と五分。現在の治療薬で進めてゆくか、それとも…この奥様自身を治験対象として投薬するかは、ご親族の方、並びにご本人の意思にかかっています」
医師の眼差しは酷く冷静で感情の幅が見えない。それは死を目前とする患者にとっては来るべき世界の門の鍵を握る番人に見えた。
まるで
生きるも
死ぬも
あなた次第。
その鍵だけを手にしている。
医師とは本来そう言うものかもしれない。
そしてその医師を見つめる眼差しは何人であろうか。
やがて細く白い指が動いた。
それはいかなる世界への鍵を選択するのか。
鍵は医師の手から拾い上げられ、やがてするりと音も無く床に落ちた。




