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黄金色の涙 1945 himawari  作者: 日南田 ウヲ
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後編㊱

 

 水野は近松の背を追う様に歩いてゆく。自然と二人の足取りは天神橋筋商店街を抜け、天満駅へと向かっている。

 見ればアーケドの至る所に細い縄の下で白い紙垂が垂れ下がり、吹き込んでくる夏風に揺れている。それを見ると水野は思わないではいられない。

(そういえば、もうすぐ天神祭だな…)

 夏の大阪を彩る天神祭の息吹を水野は感じないではいられなかった。だが今は垂れた前髪の隙間から颯爽と肩を揺らすように歩く近松を追う。彼が自分を昼間から誘う場所は何処なのか。

「…先生、天満駅の側にええ立ち呑み見つけてな」

 言ってから近松が顔を逸らすように振り返る。それから軽く両肩を上げて、背を丸めると「こっちや」と言いながら進んでゆく。

 雑踏の中、肩をすれる様に歩く二人。その互いの 

 視線の先に暖簾が見える。


 ――呑み何処


 近松が暖簾を潜る。潜れば直線の細長い店内と壁に所狭しに書かれたお品書きが見える。天井には幾つかの扇風機が音を立ててて唸るように首を回し、店内へ冷気をめい一杯運ぼうと唸りを立てて動かしている。

「奥、行こか」

 近松の声に自然に頷く自分に驚く。何故そうさせるのか?それは自分自身が分かっている。それは自分に起きた奇妙な事象を説明たるには警察上がりのこの男しかいないと言う思いからだろう。だから相手が向かうべきところに座り、話すしかないという自分自身へ精神的抑制がそうさせている。

 今は素直に成すべき感情に身を回せるべきだ。

 水野は近松が腰掛けるとその前に座った。そこに店員がやって来た注文を取る。

「先生」

 水野が顔を上げる。

「昼間やけど、酒飲むか?」

 水野が頷く。

「…ああ、ほんならネェちゃん。瓶呉れる?グラス二つで。後は…せなや、卵焼き、あ、これは塩入れね。あとは赤ウインナーとか適当に持ってきて」

 それで店員が去り、後は二人になった。二人になると近松は顔を寄せて言った。

「…先生」

 それに僅かに顔を上げる。

「あんた?何か酷い目に()うたな?違うか」

 水野はうんともいいえとも答えない。何故ならそれははっきりとした確証が無いからだ。それが近松の問いかけに対して顔に出ている。

「…成程。まるで狐に化かされた、そんな面持ちやな」

 それには頷いた。そこで近松ははっきりと断定的に言った。

「先生。ここは人間の生きる大都会や。残飯を漁るイタチは居るかもしれんが、人間を化かす様な狐なんぞ…」

 一拍の間を置いて近松は言う。

「おらん…」

 水野は頷いた。

(勿論だ、そんな事)

 思わず反発する気持ちが唇を噛ませる。

「…せや、当たり前やな。人間を化かすのは…人間や」

 近松が金縁のサングラス越しに目を細めて自分を見つめているのが分かる。そしてその意味を痛い程に。それに水野は答える。

「分かってるさ、それぐらい」

 そう答えた時、テーブルに瓶ビールとグラスが置かれた。ちらりと目配せると店員は何事もなく去ってゆく。水野のその仕草を見て、近松はにやりとする。

「何も、スパイじゃないさ」

 言って、瓶ビールを手に取り水野のグラスに注ぐ。コポコポと音を立てながらグラスにビールが注がれる。それが満たされると近松は自分のグラスに注ぐ。注ぐとそれを一気に喉に注ぐ込んだ。

「ぷはぁ、うまいは。やっぱ昼の酒は」

 言って唇を手の甲で拭く。それを見て水野も何故か一気に喉奥へと流し込んだ。喉が渇いてしょうがない自分を慰めるために。

「なんや、先生。あんたも一気飲みかい!」

 笑いながら近松はビールを水野のグラスに注ぎ込む。

 コポコポという音が響く。

 ビールが満たされると近松は言った。

「ほんで、先生。何が遭った?察するに…どうやら誰かがあんたの側にまで忍び込んできて何か悪さでもしたように思うが、違うか?」


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