表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金色の涙 1945 himawari  作者: 日南田 ウヲ
35/54

後編㉚

 

「知っていることだと…?」

 浦部は眦を動かして近松を見た。近松の金縁の眼鏡奥で自分を見つめている視線と自分の視線が合う。

「…じゃぁ、こちらから聞くが」

 浦部は目線を外さず問いかける。

「おっさん、あんたは何が知りたいんや。沢山の事を知ってもそれが余計捜査を混乱させるものなら知りたくない筈や。単純明快に結論へ行ける情報(ネタ)こそがあんたら刑事の欲しいもんだろう」

 浦部はふぅと息を吐

「言いな、おっさん。直球で。まどろっこしいフォーク、カーブは面倒や」

 それを聞いて近松はにぃと笑った。

「まぁそう言う事やな。そんなら…」

 言って近松が浦部に顔を寄せた。

「聞く」

 そこで強く鋭い口調になった。

「お前があの日新島のとこに行ったあの日、あそこには誰が居た?」

「新島や」

 浦部が素早く答える。

「他には?」

「他か?」

「ああ、そうだ。いただろう。あいつが?」

「あいつ?」

 浦部が目を動かす。

「そうだ。目つきの鋭い…まるで鷲のような男」

 浦部が瞼を閉じた。何かをもい出そうとしている。過去の記憶の中に居た誰かを手繰り寄せているのか眉が動いている。近松は沈黙している。あの日の光景を引き寄せようとしている浦部の眉の動きが止まるまで。

 やがて眉を寄せる額が動きを止めた。

「…ああ…」

 酷く低い声だった。

「あの日、確か…新島の玄関先で誰かが居たのを覚えている。それは…黒いスーツを着ていた男だ。誰かは知らないが、横に背の高い目つきの悪い貌の男が立っていた…だが、俺は新島の取り巻き達と直ぐに奥の部屋に入って行った…」

「思い出したか?そして間違いないか?鷲のような目つきをした男だと言うのは」

 浦部は大きく息を吐いた。

「…ああ、間違いない。俺はその時一瞬だけそいつの方を振り向いたんだ」

 そこで浦部がポケットから写真を取り出した。それを浦部の前に突き出す。

「見ろ、浦部。こいつ等で間違いないか?」

 目をじろりと動かすと、暫く何も言わず写真を見ていたがやがて浦部ははっきりと断定的に言った。

「間違いない」

 近松はそれで満足そうに頷いた。その頷く近松を見て浦部が言った。

「一体、誰なんだ。そいつらは」

 近松は写真をしまうと白い帽子を整えながら、立ち上がった。それから歩き出すと病室のドアに手を掛けた。それを見て浦部が慌てて言う。

「おっさん、待て。それが誰だか聞いてるんや!!おい!!」

 近松はやや首を捻ると浦部を見た。

「浦部、まぁそれはお前には不要な情報(ネタ)や。まぁ後はそのまま休め。新しくできたパチンコ店の事も気になるだろうが、今は休むんだな」

「なんや?おっさん、店の事まで心配してくれるんかい」

 近松はそれからドアを開けると、背を向けて浦部に言った。

「もうひとつ聞く」

 それは声音が変わって浦部の鼓膜に響いた。

「なんや?」

 浦部が思わずこちらも声音が変わり答える。

「オマェ…」 

 やや、間が空いた

「どうして曽根崎に来たんや。本当に芦屋の向日葵を取り戻そうとしてか?それとも…ひょっとして、それはお前自身の為にしたんじゃないのか?」

 それから浦部を振り返る。

「お前、実は田川洋子の本当の姿を知っていて、サツに来たんじゃないか?つまりサツに洋子の身辺を探らせるために…」

 その瞬間、浦部の気配が一瞬にして消えた。

「つまりだ…本当はお前達は客と常連という以外の何か繋がりが在って、つまり洋子自身をサツに調べさせるために、お前は動いたんじゃないのか?」

 そう言うと近松はドアを閉めた。

 浦部はドアの閉まる音を聞きながら、心の底から近松に対して心の底から不気味さを感じた。

 何故ならばそれは、まさに語っていない真実だったからだ。

 だからこそ近松が思わず、話し出した瞬間、ぎょっとして心の動きが止まり気配すら消す程の細心を払ってしまった。

(洋子の本当の姿…)

 それこそ、まさに隠している秘密であるがあの近松はいきなり土足で力強く踏みこんできたのだ。

 それを既に知っているかのように。

 しかしながらである。如何にその事をあの刑事は何処で知り得たと言うのだろう。そう思うと浦部は首を戻しながらギブスの肌触りのなかで冷たさを感じた。

(あの刑事の事を俺はポンコツと言ったが、しかしそれを撤回祖無ければならない、 やはりアイツは根っからの刑事だ)

 浦部は思った。

 猫科の猛獣の如く、どこからかに潜んで獲物を一気に追う。

 いつ近松は田川洋子の本当の姿を嗅ぎ分けたのだろう。

 浦部はそう思うと、掌にじわりと浮かぶ汗を握りしめ、自分を囲む精密機器を見つめ瞼を閉じた。

 それは浦部にとって彼女の死に対する小さな黙祷だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ