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黄金色の涙 1945 himawari  作者: 日南田 ウヲ
33/54

後編㉘

 

 にじり寄る影が倒れた水野の上で中腰になった。なるとその体を抱えて、今水野が出て来た部屋へと水の身体を抱えて、悟られぬような素振りも見せず、非常に堂々とした歩みで歩き出し、やがて見つけたソファへ進み、そこで水野身体を投げ出すように置いた。水野が起きないと言う絶対の自信が無ければできない行動だが、それでも水野が投げ出されてソファに身体にぶつけた時に漏らした声には、振り返った。

 だが、それは数秒。

 水野が起きないことを確認すると、影は部屋を一瞥する。それから何かを探す様に色んな所を見たが探し物が無いのか舌打ちをして別の部屋へと潜った。それから薄暗い部屋で目を凝らすと右手の壁に何かを見つけたのか、静かに手を滑らすと押した。

 部屋に明かりが点灯する。明かりが点けば影は男の姿になった。背が高く、背の筋肉が流々としている男。もしここに近松と壇吉が居ればこの男の顔形を見て、直ぐに言った筈だ。警察の資料室で確信めいて言ったあの台詞を思い出しながら。


 ――そう、鬼頭竜二とこいつがあの日、あそこに居ったんや


 男はそんな思いなど気にする風もなくポケットから何かを取り出した。それは小さなカメラだった。

 それから先程と同じように部屋を一瞥する。

「…何も、ねぇな…」

 この部屋には画材道具以外には何も無かったが、しかし何か布が掛けられたものを見つけると男は眉を潜めた。そして部屋の中をつかつかと歩き出し、布が掛けられたイーゼルの前に立つと掛かってあった布を勢いよく剥ぎ取った。

 剥ぎ取られた布向うで向日葵が見えた。

「……!!」

 その瞬間、一瞬だが男の心に波が立ったのか気配が消え去った。

 だがそれは数秒ほどの時間で男の成すべき機能を蘇らせたのか、目を細めるとやがてカメラのシャッターを切った。切ると後は布を荒々しくもとのジョイ唄いに戻し、それから部屋を見回した。

「…あそこか」

 男が見つけたのは電話だった。その電話を取ると番号を暗記しているのか、電話を掛けた。

 数秒、電話向うで沈黙が有ったがやがて、男の声がした。

「――先生。大先生」

 男が相手に言う。

 電話向うでは躊躇ない叱咤が飛んできた。

「おい、野島。馬鹿野郎、電話でそう言うんじゃないと言ったろうが!!」

 その叱咤する声は酷く低く、まるで老人の様だった。

 男は慌てる風もなく堂々と言う。

「…まぁ、私には大先生ですから仕方ないことです」

 電話向うで間が空く。その間にどんな意味があると言うのか。今度は電話向うから声がした。

「…それで野島、どうだ?天満の画家のとこは?何か見つけたか?」

 それに男がやや首を傾げる。

「…それがてんで何も。洋子の何かがあるのかと思いましたがね、何もない。

 だた…」

「唯?」

 鸚鵡返しの様に電話向うで声がした。

「いえ、向日葵の絵がありました。ただ、それだけです」

 それを聞いた電話向うで僅かな沈黙が有ったがやがて強き口調で声が聞こえた。

「…まぁいい。野島、とりあえず、その向日葵の絵は写真に撮っておけ。いいな。では電話を切るぞ。そこに長居をするな。誰かに見られたら面倒だ」

 電話が切れると男は受話器を置いて、部屋の外へと歩き出し、電気のスイッチに手を触れて部屋の照明を消そうとした。そのその時、一瞬後ろを振り返ると布が被さった向日葵を思い出した。


 ――あれは、確か…


 だが、男かそこで思いを切るように照明を切った。それからソファで倒れて気絶している水野の顔を一瞥すると、やがて部屋をまるで饂飩屋から出る様な身軽さで出て行った。


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