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黄金色の涙 1945 himawari  作者: 日南田 ウヲ
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後編⑩

 梅田をまるで覆いかぶせるようにかかる歩道橋。

 近松は帽子を被り、扇子で仰ぎながらシャツの襟首を少し広げ、JR大阪駅から歩道伝いに警察署へ向かっている。

 途中阪神百貨店に入り、地下へと下る。下ればそのまま地下街へ出た。

 地下街を少し歩けば曽根崎警察である。今朝自宅にいると電話が鳴った。手に取ると壇吉だった。

 内容は「自分の脈に引っかかった田川洋子と浦部進の件で伝えたいことがある」との事だった。それで壇吉が午前、曽根崎警察署に寄るとのことだったので署内で待ち合わせをすることにした。

 署に入ると通りすがる若い係官に「壇吉来とる?」と聞いた。すると資料室で待ってるという返事があり、急ぎそこへ向かった。

 資料室のドアが見え、開くとそこに短い体躯を丸めるようにしてパイプ椅子に腰を掛けている男が見えた。

「壇吉ぃ」

 近松が言葉尻を上げて声をかける。

 それに反応して猪首を少し後ろに曲げて、壇吉が振り返る。

「おう、松ちゃん」

 手にした手帳を閉める。

「すまんな。忙しいのに」

 壇吉が金縁の眼鏡に付着する汗を取り出したハンカチで拭きながら、向かいのパイプ椅子に腰かけた。

「いや、ええんや。こっちもなぁちょっと調べることがあったんや」

「ほう?ここでか?」

 眼鏡のグラスに息をはぁとかけて近が壇吉に聞いた。

「せや」

 壇吉が答えると手帳を広げて壇吉に向き合う。

「また直ぐ出て行かなあかんから手短に言うわ」

「おぅ…」

 近松が上着の内側を手探り、手帳とペンを取り出す。それを見てから壇吉が話し出した。

「田川洋子と浦部進やけどな。まず…洋子なんやけど。彼女色んな店を転々としてたみたいなんや。せやから新地のスパイダーに来る前からの贔屓がおるんや」

「スパイダーでの贔屓は新島幸雄やったな。それ以外にもいたのか」

「そう」

 壇吉が頷く。

「それ以前からの長い付き合いがおるんや」

「誰?」

 近松の目が細くなる、何か直感が騒いだ。

「そうそう…、それがこいつ」

 壇吉が手帳から写真を取り出す。それを指に挟んで近松が見つめる。思わず「ほぉ…」と声を上げる。

「どや?」

「どやと思ってもな」

 近松が笑う。しかしながら写真に写る男の顔をまじまじと見る。写真は男と田川洋子が腕を組んで街を歩いているところだった。新地では見られない場所だった。

「鶴橋付近やな」

 壇吉が言う。

「鶴橋?」

 目線を近松が上げて壇吉を見る。

「そう…、ちょっとしたスナックビルがあるんや。会員制のな。その写真は当時こいつをつけていたある週刊誌から手にしたんや。なんでも若手政治家の何とやらを記事にしたろう思ってたらしいけどな」

「危ないことするな」

 近松が苦笑する。

「まぁそう言うことや。担当者はその出版社を辞めて今はどこぞに消えてもうてるけどな。まぁフリーランスやったみたい」

 丸めていた背を伸ばしながら、手帳を捲る。

「すごい。良く見つけた」

 近松が破顔する。

「政治家はスキャンダル、ゴシップまみれや。まず週刊誌を当たるっちゅうことやね。あとはあれちゃう?」

「何や?」

「まぁ普段から人間大事、人脈大事を心がけてるし、日ごろの行いがいいからやね」

 壇吉が自分の顔を指差して思わずぷっと笑う。

「ほんまやな!!」

 近松も思わず指差す。

「それでなぁ、松ちゃん。うちの捜査員が田川洋子の過去を調べているうちにそこにぶつかってな。それでそこに出向いたら、こいつの名前が出て来た…」

 そこで何か思いだしたように身体を急に近松の方へせり出す。

「あ、せや、せや!」

 驚いて近松がのけぞる。

「なんや、壇吉?」

「そうそう、ついでやから言っとくわ。ほら前言ってたあの画家何て言うてたかな。参考人の…」

「ああ、…水野、水野静」

「そうそう、そいつ」

 近松が「ん?」という顔をする。

「そいつ、天満の方へ越す前、その会員制のビルの空いてるところで仕事をしていたらしいな。そこでもそいつを見たことがある言うてたわ」

 壇吉の言葉に近松は記憶を探る。

(…そうや、確か、あの水野先生、田川洋子とは鶴橋の雑居ビルで初めて会った言うてたな…)

 自然と手が動く。今自分の頭をめぐる言葉や単語を素早く手帳に記入した。

「まぁそれはたまたま偶然でぶつかったことや。それよりもこいつは鶴橋からの馴染みらしい。スパイダーにはあまり顔を出さなかったみたいやな。まぁ同じ親分の息子の贔屓には手を出さんほうが身の為やということやろう。政治家っちゅうのはいつの時代も保身が得意やからな」

 壇吉が笑う。近松も釣られて微笑する。

「それで次は浦部の事やけど」

 咳払いをする。

「浦部のパチンコ店が国道43号沿いにあるんやけど。そこの店長で玉田っちゅうのがいるんや、それでこちらが玉田の所に出向いてあの日の事を聞いたんや」

「それで?」

 壇吉が頷く。

「浦部が見知らぬ奴の車に乗り込んだらしんや、で、その時、偶然車に乗り込むとき落ちた名刺を持っていてな…」

 壇吉がそれを近松に差し出す。近松はそれを手に取ると文字を忘れぬような眼でにじり見る。

「…おう、これは新島の名刺」

「そう」

「これで浦部と新島が繋がるんやな」

「実はそれだけちゃうで」

 顔を上げて壇吉を見る。壇吉がへっへっと笑いながらにやついている。

(何や、得意げやな)

 近松が目尻を下げる。

「壇吉、何掴んだんや?目尻が下がって得意げやんけ」

 唇を少しとがらせて、近松が壇吉に聞いた。

「そう、そう。松ちゃん。そうなんや」

 壇吉が手帳を捲る。

「あの浦部が事故に遭った日、あの新島の所にはもうひとり客が居たんや」

「客?誰や」

 壇吉が目を動かす。その視線が動いて写真へと動く。

「あの事故があった日、どうもこいつも新島新平のとこに居ったらしい」

「何?」

 思わず近松が眉間を険しくする。

「ほんまか?」

 確認を壇吉にする。

「間違いない。こいつんとこに探りをいれたらな。そういう予定やった」

「壇吉、いきなりこいつを調べたんか?」

 それには壇吉が首を振る。

「松ちゃん、実は今日ここで調べることがあるっちゅういうたやろ?」

 言うや、或る資料を机の上に置いた。数ページ捲り、開いたまま近松に見せる。

「これは昔俺がまだ暴力団関係を担当していた時な扱っていた事件の束や」

「それがどうした?」

 近松の問いかけに答えるように壇吉の太い指が動いて、資料の或るところで止った。

「これや」

 金縁のフレームを触り、近松が注視する。それは新世界で起きた傷害事件の資料だった。

「なんや古い事件やな」

「そう、その事件でひっぱったやつがおるんや」

「そいつが何か関係あるんか?」

「あるもなにも今はこいつのボディガードみたいなことをしてんねん」

 写真をコツコツと叩く。

 壇吉の指が叩く音が近松の何かを呼び覚ましてゆく。

 近松の切れ長の細い目がしなやかな猫科の動物のように細くなる。まるで獲物を見つけた時のように。

「つまり…」

 近松の勘が騒ぐ。

「その時、こいつもおったちゅうことか?」

 それに壇吉が頷く。

「そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


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