もしも超絶勘違いハンサム新米英語教師が私立女子高等学園に赴任したら。
深夜テンション最高っ!!
肩の力を抜いて見てくれれば嬉しいです。
ーーーこの学園には敵しかいないのか!!!
いやそうにちがいない、うんうんと首を大きく上下させる。
職員下駄箱の前で若い男は可愛らしくハートで栓をされた手紙を親の仇のように睨みつけていた。
はたから見れば異様な姿だが、彼の知るところではない。彼は一人思索に耽ける。
今時珍獣ほど珍しい、お嬢様が多く通う私立女子高等学園で英語教師として教壇に立ち始めて、はや3ヶ月。
梅雨が明け、さあ夏だというこの季節にも関わらず、新米教師の和人は悩みに悩んでいた。
思えばそう、兆候は船出とも言える初授業からあったのだ。
「先生って、お..お付き合いされている方は...いるんですか.......?」
和人が自己紹介を完璧にこなし、先生としての威厳を示せたことに満足していると、突然質問が飛んできたのだ。質問した女子生徒は頰を上気させ、人生で一番勇気を振り絞ったかのような声色だが、彼は気づかない。
ーーー教師が質問を許可していないのにけしからん。叱らねば......
と思う和人だが、120点の自己紹介に気分がいい彼は寛容さを持って自分の偉大さを知らしめることにした。
「生まれてこのかた、一度もいない!」
決まった、と和人は確信した。身の潔白さと貞操の堅持に勤しんできた彼の誇りであった。
彼の予想通り、クラスが一斉にどよめく。
そうだろう、そうだろう、と和人は頷く。
ーーー今時、私ほどに己を大切に生きている真の男はなかなかいない、驚くのも無理はないな、
と納得する。
女子生徒が
「え...嘘、あんなにかっこいいのに」
「私、チャレンジしてもいいかな.......」
などと口々に発しているが、耳が絶望的に悪い和人には決して届かない。
できる教師和人はベテラン教師のように容赦無く授業に入ろうとする。
彼には懐で温めていた、一つのすとらてじーがあった。
それは、女子生徒を1日目から地獄のふるい落としにかけることだった。
ーーー己の世界トップクラスの授業についてこられるツワモノがこのゆとりお嬢様の中に何人いるのか。
じっくりとクラスの女子生徒を一人一人丹念に見回すが、ことごとく目をそらし、頰を染める。
ーーーなるほど、この私の目ヂカラにみな屈したか。
無理もないと思う。これまでの豊富な24年の人生で己と初対面の人間はみな同じ反応をした。
特に女性の100パーセントはそうだったし、男性も50パーセントはそうだった。
そうした経験から、女性は目ヂカラに弱いという隙のない結論にいたっていた。
「では、まずは中学校で習った英文法のおさらいから入ります。」
ーーーさあ、この中から何人生きて帰れるかな。
一ヶ月後、学年共通のオリエンテーションテストで驚きの結果が出る。
和人が入った2つのクラスだけ、英語の平均点が学年平均の64点を大きく上回る89点を叩き出したのだ。
職員室の誰も彼もが和人を褒めちぎる。特に、同じ学年を担当している女性教師は憧れのアイドルを生で見たかのようなとろけた眼差しを彼に向けていた。
だが、和人の明瞭な思考は教師たちの賛美に隠された巧妙なトラップに気づいていた。
ーーー大方、次回のより重要な全国模試で勝つために今回わざと点数が落ちるよう小細工をしたに違いない。
見抜いたぞっ!と、形のいい目をくわっと見開く。
「あの......私にも何かアドバイスをもらえませんか。できれば、今夜食事でもいただきながら......」
先ほど、こちらを瞬きを一回もせずに凝視してきた怪しい同僚が声をかけてきた。いくらか緊張をしているようだ。
「ええ、構いませんが.....」
ーーーまさかっっ!!
思わず、和人は承諾してしまったことに頭を抱えたくなった。
彼の高速回転する脳が彼女の言動からはじき出した答えは、毒盛りだった。
和人が条件反射のように目を見開いたのを彼女は看破したに違いなかった。
そうすれば、残る手段でもっとも効果的な方法は毒しかない。少なくとも彼の頭のなかではそうだった。
間断なく、和人は力強い言い訳をでっち上げる。
「実は私は人前で食事をすると死んでしまうのです。」
我ながら素晴らしい出来だと思うが、彼女はなお食らいついてくる。
「そ...そうなのですか......」
「ええ!そうなのです!」
ーーーこの場ではことなきを得たが、彼女はなかなかの危険人物だ。
ーーー危険人物でいえば、クラスの女子生徒みんなそうだ。
と一人和人は眉間にしわを寄せる。
2日目の授業のことだ。
脱落者を数えるのを楽しみにしていた和人はクラスにスキップで入場するが、そこには想像を絶する光景が待っていた。
なんと、全員出席であった。
そればかりか、どこか女生徒たちは楽しみに和人を待っていた節さえある。
ーーーつまり、これは私に対する挑戦か......
血で血を洗う末法の世を見せてやろうと盛大に決意表明する。
それから授業の質、量共に最大限あげるが、生徒たちは
「とってもわかりやすいので英語が面白いです。」
「もっともっと勉強して将来は先生みたいな英語教師になりたいです。....そしたら一緒に.....」
などと、こちらをしきりに挑発してくる次第だった。
果てには、こちらを上目遣いで睨みつけ、
「あのっ、授業後、校舎裏で待ってるのできてくださいっ!!」
とタイマンを持ちかけられるようになった。
走り去る後ろ姿には大きな仕事を成し遂げたかのような様子が窺えたから、相当溜まっていたのだろう。
だが、その手に乗る和人ではなかった。
ーーー相手の設定した土俵で戦うのは二流!私は行かないっ!
と、華麗にすっぽかした。
代わりに先回りして、将来が楽しみだ、と強者の余裕を感じさせる書き置きを残した。
女子生徒の間でキャーキャーと嬌声が響いたのに気づく和人ではない。
思えば、それから急激にタイマンの申し込みが増えた。
今だってそうだ。
帰り際に、自分の職員下駄箱に入っていたピンク色の果たし状をつまみながら、大きくため息をつく。
だがここで折れる和人ではない。
ーーー私は負けない、勝つのだ!
そして、大きく息を吸って声をあげる。
「この学園には敵しかいないのか!!!」
律儀に返事を書きながら、新米英語教師は今日も受難の日々を送る。
最後まで、読んでくださりありがとうございました。
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