閑話 ある猫が見たもの
ナーニアさんが、あの化け物に追いかけられていったのを私は情けなくもその場でしばらくポカンとしていたわ。
しばらくして、ここから離れて家に帰らなければ、と私の猫の本能が私に言ってきたの。
あんな化け物に私は敵わない。家にいた方がいい。私は本能に従って家路へと急いだ。
家に向かって走っていると何度も
ナーニアのことが頭の中を駆け巡る。
あの化け物を相手に向かっていったのだ。
ボス猫の私ですら、怖くて動けなかったのに
ナーニアは、、、
思えばナーニアは変な猫だったわ。
3年前の今頃、三階建の屋根の上にいるナーニアを初めて見た時は綺麗な猫で首輪もついていたから、私と同じような飼い猫かなと思って話しかけに言ったの。
けど私は塀から話しかけたから、屋根の上にいたあの子は聞こえなかったのかそれを無視して行っちゃった。その時は私の声が届いてなかったのかなと思っていた。
しばらくして私がボス猫としてパトロールしていた時は首輪をしてなくて、毛に艶がなく、ところどころ埃に汚れて路地裏の隅で丸くなっていた。苦しそうに寝ていた。
『もしかして、あなた、捨て猫?』
最初に会ったときに無視された恨みもあってあの時私は結構失礼なことを
ナーニアに向かって言った。その時にナーニアは目を開けた。
そして、
また目を閉じた。
私はまた無視されたと思い、
こんどは、優しくネコパンチをしてみた。
ナーニアはまた私の方を見て
「ニャア」
と弱々しく鳴いたの。
その時に私は気がついた。
この猫は猫の言葉が喋れないと、私たち猫は人間に養ってもらうためにかわいい声で鳴く。その声とは別に猫同士で話す言葉があるがあの子はそれが出来ていなかったの。
この子は世間知らずな猫だったわ。
私は他の猫を呼んでこの子にご飯をあげたり、舐めたりして介抱した。
3日くらいたった時ナーニアはわたしに話しかけてきた。
猫の言葉ではなく、人間の言葉で話しかけてきたの。
あの場にいたのがわたしでよかった。
人間の言葉がわかるのは私くらいしかいないから。
多分寝言だったのかしら、
「わたしを置いていかないで。」
そんなことを言っていた。
それを聞いてしまった私は応えた。
人間の言葉は話せないから猫の言葉でだけど、
『大丈夫、あなたを置いていったりはしないから』
応えた後に寝言に返事をしてはいけないことを思い出し、急いで起こした。
起きたあの子は何事かという表情で私を見て
「ニャア」と鳴いた。
私はそれに「ニャア」と応えた。
て言っていたのに、逆にあの子に私が置いていかれちゃったなー
そう思い出しているうちに家に着いた。
猫用のドアから入り、この家の2階にある
ユリカちゃんの部屋に行った。
【それじゃー、いくよー
マジカルチェンジ♪レボリューション☆】
案の定あのイラつく声が聞こえてくる。
私はわざと音を立ててドアを開けた。
バタン!
「ミャーン♡」
そして、語尾にハートをつける鳴き声を出して中に入ってやった。
案の定、飼い主家族の一員であるユリカちゃんがここ一ヶ月見慣れた白を基調としたフリル満載の服を着て肩に元凶を乗せて窓から外に出ようとしている。
ドアと鳴き声で気づいたのか私の方を見る。
「ミケコ、お帰り!よかった無事で!」
ユリカちゃんが私に抱きつこうとした時、
【ミルキーキャンディ!早くエネミーを
倒さないと街の人たちが危ないよ!
早く行こう!】
と元凶がユリカちゃんに向かって言う。
「あ、そうだったわね。シロニャン!
ミケコごめん。また後で!」
そう言って、ユリカちゃんは元凶を肩に乗せて、窓から外に出て行ってしまった。
一人残された私はここ一ヶ月前ユリカちゃんが元凶、(まあ正しい名前はシロニャンらしいがユリカちゃんに構ってもらえないこの状況を作り出している元凶だから元凶と私は呼んでいる。)を家に連れてきた時から家の居心地が悪くなってしまった。
今日もユリカちゃんを外に連れて行って危ないことをさせるのだろう。
辞めさせたいのだが、あいにく私は人間の言葉がわかるだけのただの猫だ。
ユリカちゃんに何も言えないのがうらめしい。
私は窓から出て屋根の上に登る。
エミリちゃんは確か北のほうにある大橋に行ったはず。
そう思い大橋を見ると、
私の耳が拾ったシャララランというどこか気が抜けた音が聞こえ、大橋が吹っ飛んだ。
その時に私はまた心に誓った。
あの元凶、いつか絶対自分の縄張りから絶対追い出すと。