【6】
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私が、植物を育ててみようと思えた事も、成長の一つなのかもしれない。少なくとも、今までの私なら、自分よりも弱い生き物を、自分の手で育ててみようという発想すらわかなかった。
植物に限らず、『何か』を育てるという事をしてみようと思えてなかったのだから、一歩だけ前に進めていると確信を持ててはいる。
他人によっては、それは、自分の欲求を植物を育てる事で逃げているだけなのだと言う人もいるだろう。それでも、いつか、私が社会人と呼ばれる立場になって、これが正しいのか、これでよかったのかという不安と格闘しながらも、誠実に後輩と向きあって、育てる立場になってしまう事もあるのかもしれない。
「どう?」
いつもの喫茶店で、後輩指導の経験のあるルカに作った曲を聴いてもらった。
「曲は、正直なところ…荒削りだと感じる箇所がところどころある」
「うん、それは自覚している。具体的にどこをどうしたらいいのか、習ってないから分からないけど」
黒鍵を使用していなくて、和音に忠実につくっているから、不自然さがあってもおかしくないかもしれない。
「詞も荒削りだけど、短い言葉の中に感情が凝縮されているから、俺は、好きだな、こういうの。書かれていない部分の詳細が気になるけどな。…何か、心境の変化があったか?」
「うん、『育てること』を意識してみようかと思って」
「そうか」
それだけで、私の感情を悟ったのだと思う。いつもは、質問攻めにしてくるのに、それ以上は何も訊ねてくる事はなかった。
「ルカってさ…実は、頭の回転が早いよね」
「『実は』は、余計だ」
「否定しないの?」
「最近、誉め言葉は素直に受け取る事にした」
「そうなんだ。その方がいいと思うよ、私も。たぶん、夏美に言われたんでしょ?」
「よく分かったな」
「なんとなく、そんな気がしたから」
当てられた事に対して、満足げに笑みを浮かべる。
ルカの誉め言葉を言葉のまま受け取れない部分に気づいて、指摘する人がいるとするなら、それは夏美しかいない気がした。そんな相手と付き合えている事が羨ましく感じて、珈琲のほろ苦い味が美味しいと感じた。
「美空はさ、もっと、他に視野を広げてみたらいいんじゃないか?」
「がっかりするだけ、だよ」
「気休めの言葉にしかならないから、恋人として付き合いたいと思っている人がいるとは言えない。だけど、人を想えるようになりつつある美空の事を、好きになる人が出て来てもおかしくないと思うぞ」
「そうだと、いいな」
もしも、それが現実になったならば、とても幸福で充たされた気持ちに包まれるのだろうなと感じた。
「もうすぐ、クリスマスだしな…人によっては、行動しそうだな」
「そういえば、そうだったっけ?」
確かにカレンダー上では、一ヶ月をきっている。
言われてみれば、街がイルミネーションで飾られていたような? 年々、早めに飾りつけをしているから、当日が当日なのだと実感がうすれてしまっている。
「……プレゼント欲しい」
「もらえるといいな、プレゼント」
いつもよりも優しくルカが笑みを浮かべていた。




