【1】
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私は、彼女を完全に手放してしまう事ができなかった。
本当に彼女の事を考えるのならば、その気持ちに答える事ができないのならば、完全に会わない方がいい事ぐらい分かっているし、わがままだという自覚もある。それでも、私にとっての彼女の存在は、完全にバイバイと軽く手をふってしまえるような、軽いものでは、いつのまにかなくなっていた。
最初の人を好きになる気持ちと恋愛感情の境界線は、ひどく曖昧で、生きていく間に曖昧な線を明確にしていくものだと実感した。
「それで? あの詞をそのまま彼女に送って、感想を求めた、と…」
黙って頷くと、隣に座っている夏美さんは盛大にため息を吐き出す。
「ダメ、だった?」
「……結論から言えば、ダメ」
ルカの家でお茶をしながら話していると、作品を送り感想を求めたという話題になっていた。
「なんでだろう、ルカよりも人たらしになっている気がする」
「あそこまでホストじゃない」
「全然、欠片も自覚がないだけ、美空の方がたちが悪い」
「えぇー」
不満そうにそう言えば、それは認められないという表情をされてしまう。
「正直な話、どっちもどっちじゃないの?」
幸来がそう言えば、それを言ってしまったらおしまいだというため息を、深めに夏美さんは吐き出した。
「…でもさ、それって、結局のところ夏美はルカの事が好きだから、肩を持つような事を言っているじゃない?」
幸来がたたみかけるようにそう言った。
私もそう思っていたけど、あえてそれを口にしようとは思えなかったので、口に出して言わなかったので、チャレンジャーだなと感じた。
図星だったらしく、ジロっと睨まれてしまう。
「……。完全には、否定できない」
「否定できないんだ」
笑いながら、そう言えば悔しそうな表情を浮かべているけど、それすらも羨ましいと感じた。否定できないという事は、それだけ相手の事を想っていられているからだ。
「いいなぁ、良い意味で、以前より表情豊かになっている」
「そう、かな?」
「うん、ますます綺麗になって、美人に磨きがかかっている」
感じたままを口にすると、そのまま視線を隣の幸来に視線を向ける。
「……。隣の人、この人どうにかして」
「無理、これが美空だから。もう慣れた」
「慣れたんだ」
夏美さんは、『これ以上何も言えない』という苦笑を浮かべた。
いつも気まぐれな子供っぽい感じがすると言われ続けているし、否定する事もできない。けれど、これでもその人に対して言っていい事と絶対言ってはいけないという部分は見分けているつもりだ。断言できないところが、自分でもなんとも言えないが、それが現実なので断言をする事はできない。
「でも、美空が羨ましい…素直に自分の感情を表に出す事ができて。私は、なかなか、表に出す事ができないから。上手く甘える事もできないし」
「甘えればいいのに…何もそんな、『それができれな苦労はしない』的な表情で返さなくても」
「できていたら、悩まないって」
「はぁ」
ぽりぽりと私は頭の後ろを手でかく。
ルカの事だから、今の話をこの場で聞いていたら、
『度をこす事をしないかぎり、変な気遣いは必要ない』
と言って苦笑を浮かべているところだろう。もし、私が似たような状況におかれたなら、そう言うだろうなと感じる。正直なところ、そんなに甘えられないから悩む、なんて事は今まで感じた事すらない。自分ではどうしようもないと判断した場合には、頼れるのなら、頼る事は私にとって普通の事だ。だから、甘えられなくて悩む理由が思い当たらない。
「そうだよね」
と、幸来も同意して頷いている。
「まぁ、美空だから、甘えられるよね」
「どういう意味?」
目を半分眇めて言うが、今までの友人付き合いから、含まれている文章くらい推測する事はできる。
『幼い雰囲気の美空だから、甘える事が許されて特に困ったと感じた事もない。一言で言うのなら、子供』
推測する事ができるのに、言葉に出して言ったのは反射だった。
精神年齢が子供だと言われる事には慣れているし、事実、そうなんだろうなと周囲を見ていて感じている。けれど、毎回そうだと言われてしまうのも、正直なところイラつく時もある。許されている全部の理由が、子供っぽいから許されるというのも違うのだと言い返したくなって、反射でそう返してしまっていた。
「そのままの意味だけど?」
「…そうだよね」
こういう時、優香なら上手く話題を変えてくれるのに。
ふと、そう思ってしまって、私は苦笑を浮かべる。
子供っぽいと言われる私だって、誰かを本気で愛する事だってある。
9月下旬まで、不定期更新になります。
全部で【8】まで、で完結する予定でいます。




