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幽星の輝き  作者: 芥流水
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黒島大佐の提案

架空戦記創作大会2017冬参加作品です。期間中に終わりそうに無いかもです。

 昭和一七年、六月五日七時二二分、ミッドウェイ沖南方二○○浬


「敵急降下!」

 空母『加賀』見張り員がそう叫んだ時には既に手遅れであった。


 直掩の零戦は直前に現れていた雷撃機迎撃の為に低空迄舞い降りていた。又、対空砲火が放たれる前に敵機は爆撃を仕掛けていた。


 三機の投弾した一○○○ポンド爆弾が『加賀』に命中し、その内一つが艦橋の根元に命中。『加賀』は音信不通と成った。


 その後矢継ぎ早に到来する敵爆撃機に『蒼龍』『赤城』迄もが被弾、戦闘能力を失った。


 特に『蒼龍』の被害は顕著で有り、みるみる内に沈んで行った。『赤城』『加賀』も、艦内の爆弾が誘爆を起こし、助かる見込み無しとして、駆逐艦による雷撃処分が行われた。


 この三隻の唯一の救いと云えば、艦内にいた優秀な搭乗員の過半が助かったことであった。


 一方『飛龍』はと云うと、先程の雷撃機から放たれた魚雷の回避運動の為に北方へとそれていたことが幸いし艦爆からの攻撃は受けなかった。


 だが『飛龍』に乗艦しているのは猛将と名の高い山口多聞中将であった。山口中将は即座に『飛龍』艦上機による反撃を意図し、敵機動部隊へと向かい、東進した。


 『飛龍』は第一派攻撃隊を放った後、ミッドウェイ諸島攻撃隊を収容し、それを即座に第二派攻撃隊として放った。第二派攻撃隊は見事空母『ヨークタウン』を撃破した。


 山口中将は、空母一隻を撃破したものの、攻撃隊の損害も大きく、第三派攻撃は無理であると判断した。その意向を南雲中将率いる第一航空戦隊司令部に伝え、その後は一転して西進した。


 帰路途中に、敵艦爆が三度に渡り攻撃を仕掛けて来たが、数が少なく護衛の戦闘機もいなかった為、全て直掩の零戦に阻止されていた。




 この報告を聞いた連合艦隊司令長官山本五十六大将は、ミッドウェイ攻略作戦の中止を決定し、陸戦隊を乗せた本隊も一転帰路に着いた。


 山本大将が自身の辞職を仄めかしてまで、行ったミッドウェイ攻略作戦は莫大な重油と、空母三隻と云う被害に対し敵空母一隻撃沈-『伊一六八』が『ヨークタウン』に止めを刺した-という割に合わない結果となって仕舞ったのであった。




「しかし、ここ迄やられるとはな……」

 『大和』には、連合艦隊司令長官と参謀の面々が顔を付き合わせていた。一様に顔は暗く、何処か陰気な雰囲気が漂っている。


「併し、まだ完全にやられた訳では有りません」

 山本大将の声に反応したのは連合艦隊先任参謀黒島亀人大佐であった。


「先任参謀の言う通りです。『飛龍』及び翔鶴型は沈んでませんし、この『大和』も有るではないですか」

 参謀長宇垣纒中将もそれに続く。


「うむ。併し、もう米本土爆撃は無理であろうな……」

 山本大将の声はそれでも弱々しかった。


 このミッドウェイ海戦の敗北は彼の対米戦争の計画を完全に突き崩す物であった。彼はミッドウェイ攻略の暁にはハワイをも攻略し、その後米本土爆撃を脅しに講話に繋げようとしていた。


 それを知っていた参謀の面々は何も言うことが出来なかった。有る一人を除いては。

「いえ、策は有ります」

 そう言ったのは黒島大佐であった。


「何っ⁉︎どういうことだ?」

 山本大将が思わず聞き返すと、黒島大佐はニヤリと微笑んだ。


「気球爆弾と言うのですが、日本から爆弾を括り付けた気球を米本土へ飛ばそうというものです」

「併し、そんな物が本当に出来るのか?」

 山本大将の疑問に黒島大佐はコクリと頷いた。

「日本から太平洋にかけての上空には強い西風が吹いています。これを使って米本土へと気球を送るのです」


「ほう……」

 黒島大佐の言葉に山本大将は眉をピクリと動かした。


「だが、それは無差別爆撃となるであろう。それでは、講話を考えた場合に米国が応じない可能性も高くなるが」

「いえ、奴らには帝都爆撃の前科が有ります。あれこそが無差別爆撃!されば、その報復とでもすれば如何な物でしょうか」

 黒島大佐としても、その疑問は承知の上であったようで、スラスラと答える。山本大将は暫く沈黙した。


「して、実現出来るのか?」

「はい。理論上は可能です」

 山本大将の言葉は、気球爆弾を肯定するものであった。その言葉に黒島大佐は頷く。


「では今年中に完成させてくれ。航空本部にも惜しみない努力をさせよう。軍令部と海軍省は……まあ大筋は彼らの思っている通りになるのだし頷くだろうな」

 山本大将の脳裏には、空を埋め尽くすほどの気球爆弾が米本土を攻撃する様が浮かんでいた。




 昭和一七年九月五日

「気球兵器だと?それに帝都爆撃への米国への抗議を⁉︎」

 海軍大臣嶋田繁太郎大将は山本大将の言葉に鸚鵡返しで答えた。現在室内には二人以外の人間はいない。


「ああ。その通りだ。先の帝都爆撃を理由に気球爆弾の攻撃を行う。それと、開発に関して、嶋田君の方から陸さんに声を掛けてくれないかね?」

「それは構わんが……何故だ?海軍内でも研究は進んでおろう」

「それが今年中には出来んそうでな……。そこで今年中に気球爆弾を完成出来るように陸さんの技術が必要なのだ」


 嶋田大将は最初又山本の博打か……と思った。だが、山本大将の目を見て、それは違うと悟った。その目はそれ迄の一種の自暴自棄な瞳では無く、何かを決心した目で有った。


「分かった。俺も出来ることはするが、協力を得るのは無理かもしれん。陸軍の力を借りても今年中に終わらんということも有り得る。それでも良いか?」

「はい。感謝しますよ、嶋田海軍大臣殿」

 山本大将が笑って敬礼すると、嶋田大将も返礼をした。併し、その後真顔に戻る。


「山本。貴様何か隠して無いか?」

「いや、何も無いが……」

 嶋田大将は釈然とせぬままも、山本大将との会話を終えた。



 昭和一七年一二月二四日

「何とか今年中に完成したか……」

 山本大将の目の前には気球爆弾の設計図があった。気球爆弾の名前は『幽星』と決まっている。『幽星』の開発へ特に貢献したのは陸軍の登戸研究所であったらしくて、それが無ければ、開発は二年は遅れていたかもしれないということであった。


 『幽星』

 直径:一○米

 全長:二五米

 総重量:二○五瓩

 搭載爆弾量:一五瓩一発乃至五瓩四発

 飛行高度:標準一○粁 最大一二粁

 飛行能力:七○時間


 材質には和紙が使われ、糊には蒟蒻が使われている。気球内には水素ガスを充填している。又、高度を一定に保つ為に、気圧の変化を察知して、高度が下がると電熱線に電流が流れ、重りをぶら下げている麻紐が焼き切れ仕組みと成っている。




 一般的には、新兵器には様々な試験が必要なのだが、山本大将がいち早くの量産化を望んでいた為、年内に正式採用と成ったのであった。

 これにより、全国各地の工場で二式気球の製造が行われることとなった。それと同時に、海軍内でも戦略の見直しを余儀無くされて行くのであった。

前回と同様に『帝国の矛』は期間中-平成二九年二月-は連載停止します。その後は此方が終わりそうなら此方優先、そうで無いなら交互に更新して行くことになるかと思います。

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