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答え合わせ

バッドを持った白髪はその場ゆっくりと歩き出すととある部屋の前に止まった。

カメラは彼女を追うように階段を降りると102号室の前でバットを扉に向けて思いっきり振った。

ベコリという音を立てて扉のドアノブが下方向に曲がった。

千穂達が止める間もなく彼女は再びバットを振るうとドアノブは「ベキッ」と音を立てて曲がった。

「何やってんの!!茶髪の至極当然な驚きが混じった怒声に対して白髪は答える。

「だから答え合わせだよ!!!」そう言いながらバットを扉の前で再び振ると「バコッ」という音を立ててドアノブは落っこちた。

「居るんだろ!!入るからな!!」扉に怒声を吐く白髪は言いながらドアノブが取れた事によって穴が開いた状態になっているドアを弄ると「ガチリ」という音とともに扉を開けた。

「なんだいこの音は!!」二階から声が聞こえてきたのでカメラを向けると201号室の住人である老婆がこちらを驚いた表情で見つめている。

「ああ、おばあさん。丁度よかった。来てください。彼女を今から救いますよ。」場の雰囲気に似つかわしくない優しい笑顔を向ける白髪に唖然としていた老婆だがやがて階段を降りてきた。

カメラを102号室に向けると玄関には何もない。白髪は靴のまま部屋の中に進んでいくのでそれに着いていくと扉を開けた先の部屋で一人の男が背中をこちらに向けた状態で座っている。

男の前方にはいくつもの機械やモニタが置いてあり薄暗い部屋の中で鈍い光を放っており映像から察するに誰かの部屋が映っている。

モニタに映っている部屋には見覚えがある。布団の色やはだけ方。部屋に設置されている物。全てが先ほどまでいた部屋と一致している。

「あっ。」千穂が思わず小さな悲鳴に似た声をあげると、それに共鳴するように依頼人も映像に映っている部屋に気が付いたのか「ひぃ!」と悲鳴をあげた。

悲鳴に反応したのか背中を向けていた男はゆっくりと顔を動かし横目でこちらを見つめる。整った鼻立ちや皺の少ない顔、潤っている肌から判断するに20代前半だろう。

男はこちらをじっと睨みつけると体ごと動かしこちらの方を向いた。

やはり顔や腕の皺等から察するに20代前半の男性だ。何を考えているのか読み取れない目がじっとこちらを見ている。

「要件はわかるだろう?お前がこの裏野ハイツで起こしている出来事について話を聞きに来たんだよ。」白髪は笑いながら言うが、男はじっとこちらを睨んだまま動かない。

口を動かさない男にしびれを切らしたのか白髪は突如バットを振り上げて男の左腕めがけて振り落とした。

「あぁぁぁぁぁああぁあ!!!」ベキリと鈍い音を立てた後男は痛みを誤魔化すように大声で叫び始めた。バットが当たった二の腕部分は異常な方向に曲がってまっている。

「ちょっと何やっているんですか!!」依頼人は白髪を制止させる為に起こした異常行為を叱るがそんな言葉は無視して白髪は笑いながら話を再開する。

「まず、そこに設置されているモニタ!お前全部屋に隠しカメラでも設置して監視してるだろ?」白髪の質問に対して唖然とする依頼者達に対して男は大きく口で呼吸をして痛みを紛らわそうとしている。

「次、203号室で発生していた音の正体ってお前が起こしただろ?」白髪の質問に対して男は答えない。

「次、20年前お前はかつて上にいた住人を食べたな?」男はその言葉に反応し呼吸を一瞬止めたがすぐに大きく呼吸を開始した。

「おい、痛いのはわかるが耐えられるだろ?演技臭いんだよお前。」そう言って再びバットを振り上げて男の右腕めがけて振り落とした。

「っぐぎゃあああぁぁああぁああぁあ!!!」男の悲鳴に気持ち悪くなったのか依頼者は目を反らして泣きそうになっている。

「言わないなら私が言おうか?まず音の正体からでも説明するか。203号室で発生していた外から誰かが叩く様な音。まずおかしいと思ったのはおばあちゃんの部屋ではこんな現象が起きていないということだ。なぁおばあちゃん?」白髪の言葉に対してカメラの裏に居る老婆は答える。

「…あぁ、外から何かを叩く音なんて今まで聞いた事もない。私が見るのはあの子に首から噛まれて殺される夢だけだ。」説明している老婆のいる方にカメラを動かし、説明を終えると再びカメラの方向を白髪や男の居る方向に戻した。

「音なんて聞いた事がないってよ。なんでおばあちゃんの部屋には音を鳴らす機械を設置しなかったのかな?そしてそのモニタの監視映像。おばあちゃんの部屋はないよな?なんでおばあちゃんの部屋は監視していないんだろうな?」白髪はわざとらしい口調で男に言葉をぶつけるが反応は無い。

「監視していたお前ならわかるだろうが私の眼は特殊でな、霊と人の繋がりとかが見えてしまうんだよ。」白髪は自分の目を指さして話を続ける。

「霊である女性が住んでいた202号室。この部屋は彼女が住む契約をしたからエネルギーが残っている。だがそのエネルギーは両隣の部屋に一本の糸を放っているがそれ以上に沢山の禍々しい黒い糸を下の102号室にむかって放っているんだ。お前を見て確信したよ。糸が例えば冷蔵庫や床に向かっていたら死体を隠しているんだろうって、だが糸はお前に引っ付いている。それはお前が女性の一部と混ざっているからだ?違うか?」白髪の答え合わせに対して男はいつの間にか大きな呼吸を止めて口を開いた。

「なぜ私は監視をしていると言うのだ?」

「驚かす等をして住民の心を摩耗させる為。そしてこの家と契約を解いた人間を吸収している。」

「どうして契約している際は吸収しない?」

「契約をしている間にその力を使うと、吸収した際にこの家と契約している人間を繋ぐエネルギーがお前を消すかもしれないからな。」

「吸収とはそもそもなんだ?」

「元住民の生気を吸収する事により自分の形状管理と肉体の老化を防ぎ若さを保つ事。」

「なぜ私は吸収を行っている?」

「お前がの体には女性の肉体が食べたことにより混じった。それによって他人の生気を吸収する力を身につけたと共に、生きている者の生気を吸収しておかないとエネルギーが無くなり霊から自分の身を守れない体になった。現在は生気を三か月ほど前に吸い取った為、力は有り余っているだろうし肉体に彼女が混じっていても彼女事態を屈服させ他人に夢を見せたりする事が出来る。」

「なぜ吸収するほどの力を持つのに203の音を外から道具を使ってたてていたと言うのだ?」

「それは貴方が狙えるのは人間であって建物ではない。建物にそんな事を行ったら建物とも契約しているお前の身に何かが起きる可能性があるから。」

「契約とは?」

「家に住むという書類契約には儀式の役割もある。それを第三者が無理矢理破ろうとすると第三者に罰が下る。夢を見せるということは霊に罰が下っている。彼女は肉体も無いせいで寒さを感じながら生きている。そこにお前の命令で他人に自分の死んだ際の記憶を改ざんしたものを見せているんだから寒さなんてもんじゃないだろうな。苦しみだよ。地獄より苦しみを感じて彼女はお前に従っているんだろうな。」形式上に会話が続くせいで、わざとらしさすら感じる。

「というよりお前の折れた腕なんて沢山の人間から吸い取った生気を使えば簡単に治せるだろ?わざわざ下手糞な演技をするなよ。」白髪の言葉に対して男は口を歪めた後、折れた両腕の肩が溶けたチーズの様に下に落っこちていき、肉体と完全に離れるとその場でいびつな形になっていた腕は鰹節の様な色になって固まってしまった。

「ふふ、私は彼女を見たときに全身から稲妻が走ったよ。これが恋だと思ったね。でも彼女と私は他人。話し掛けようとしても彼女は夫を失ったばかりだった。絶対私の方になど気にも留めない。そんな事はわかっていた。わかっていたから彼女と一つになりたかったんだ。」男はトロンと快楽に包まれて思考が働かない顔をしながら話すと体から突然ズブリと音をたてて両腕を生やした。

「なぁ、それで彼女を犯して、食べて、この世界に縛り続けているというのか?」白髪は淡々と男に聞く。

「これは愛だよ。私が彼女にした愛情表現だよ。夫は死んだのかもしれないけれど私が居るよ!っていうさ。」男は笑顔でそんな言葉を言うと白髪は大きく溜息を吐き言った。

「じゃあそのお前の独りよがりの愛も今日でおしまいだ。白髪はそう言った後、先ほどとは違うがやはり常人では認識できない言葉を唱えている。

白髪が意味不明な呪文を唱えていると男の真上に黒い穴が現れた。

「音を羅列して何か」言葉ではなく音に近い何かを発し続ける白髪が発生させた黒い穴からギチギチと虫の羽音に似た気味の悪い音が聞こえ始めた。

さすがに男は危機感を感じたのかその場から逃げようと体に力を入れるが、全身が震えるだけで動けずにいた。

「音を羅列した何か」白髪に共鳴するように黒い穴からは歪な音を立てながら人の腕の形を保たせて焦がしたようなものがいくつも顔を見せ男の方に向かっていく。

「ひっ。」先ほどまでの余裕はどこに行ったのか男は全身から粘り気のある汗をじっとりと流しながら動きを止めている。

ゆっくりと動く穴から出てきた腕の様なものの先端が触れると高熱になった金属の上に水を掛けた際に鳴る音に近い音が響き、男の触れられた所から全身に広がるようにチーズの様な穴が男の全身から出てきた。

スカスカに穴が全身に空いた男は声も発する事も出来ないままその場で開いている瞳から涙を流している。その顔を覆うように腕は蛇の動きの様にゆっくりと動き、顔を覆うと腕達は男ごと黒い穴にゆっくりと戻っていった。

「――――――――――――――――――――――」男の弱々しい声が微かに聞こえているが、それも黒い穴に顔が収まっていった頃には聞こえなくなり足まで黒い穴に吸い込まれると穴から野球ボールほどの肉塊が地面に向かって落っこち「ベッ」という音を立てて床にへばり付いた。

穴が消えた数秒後「ふっ」と風を切るような音をたてた白髪は、こちらを振り向き笑顔で言った。

「終わったぁ。疲れた。」ここでビデオカメラの電源は消えた。


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