依頼人の部屋
カメラの電源が入ると先ほどの老婆の家と同じような間取りの部屋に二人の女性が座った状態で映り込んでいる。
「うーん。あの部屋に住んでいるおばあちゃんと似たような情報だな。」カメラ外から聞こえる白髪の声は残念そう等という感情は籠っておらず、むしろ予想通りといった余裕さを感じる。
「えー現在時刻は20時ちょうど。午後八時を示しております。」白髪が気の抜けた声で時刻を言うと依頼人が質問をしてきた。
「あの、本当に大丈夫でしょうか?」
「何が?」
「本当に解決できるのでしょうか?」黒髪の不安げな表情と声に対して白髪は能天気な口調で答える。
「うーん。この家から必要以上に離れなければ大丈夫だと思うよ。」白髪の言葉に対し千穂が反論をした。
「その根拠は何だよ。」怒り気味に言う千穂に対して、白髪は答える。
「あのおばあちゃんの話もあるけど、過去の住人について調べてみたら引っ越しをするまでの間は怪我や変な病気になってはいないんだ。あのおばあちゃんの話からこの建物に出てくる霊は約20年前から居てこの現象が起きている。それで過去の住人を調べたけれど、一番最近までいた101,103号室の住人なんだけど…。」そういうと一瞬間があってから話を続けた。
「行方不明になっていたよ。」白髪の言葉の後に茶髪と依頼人は唖然とした表情をした。
「101の住人は下着泥棒をして逮捕された後一時的に釈放後行方不明。103は夫婦とその間に生まれた子供は引っ越し先で数日間過ごした姿が最後に目撃されている。ある日を境に家族全員が行方不明になっている。」
「他にも過去の住人はこの建物から出て行ってからいつの間にか行方が分からなくなっている。でもあのおばあちゃんは無事なんだから出ていかないで心霊現象さえ我慢すれば大丈夫でしょ。」
そう言って白髪は呑気に笑った。
「いや、やめてくださいよ。じゃあ私はこの現象に耐えないといけないじゃないということですか?」呑気に笑う白髪に対して依頼者はヒステリックに怒りをぶつける。
「そうなるね。」
「じゃあ貴方に依頼した意味無かったじゃないですか!!」泣きそうになりながら言う依頼者に対してようやくまじめな口調で言った
「安心しな。帰ってきたら解決してやるさ。」そう言って白髪はカメラを茶髪に渡した。
「ちょっと除霊用の道具とか取ってくるからこのカメラで部屋撮っておいて。何かあったら私に連絡してくれればいいし。」そう言うとカメラは動き撮影者が千穂に変わった。
「私が居ない間頼みましたよ長官。」カメラに映った白髪はふざけた口調で軽い敬礼のポージングをした後部屋から出て行った。
カメラは回るが撮影者が千穂の為カメラに映る人物は不安そうな表情をしている依頼者だけになった。
白髪が部屋を出て行った後その場で力が抜け倒れこんだ依頼者は数秒間その場で呆然とするとゆっくりと立ち上がりおぼつかない足で部屋の端っこで寝ころんだ。
カメラが回り続けている中、依頼者は壁のほうを向きながら動かない。
だが千穂も話し掛けづらい為何も話さない。
気まずい雰囲気が部屋に充満する。方や絶望する者、方やどう接すれば良いのかわからない者。
結局二人とも何も言葉を発せず数分が過ぎた。
「…コツン。」小さく小石をぶつけた様な音が聞こえたのと共に動かずにいた依頼者は体を震わせた。
「…これです。」依頼者は震えた声で言うと、その言葉の後に再び音がした。
「…コツン。」カメラは周囲を確認するがどこから音がするのかがわからない。
「…コツン。」小さい音がまた聞こえた。それから数秒カメラを動かすが何も起きらず音もしなくなった。
カメラの横で何かを漁るような音が聞こえ千穂の声が聞こえた。
「もしもし。起こった!!部屋で何かが外から叩く様な音がしてた!早く戻って来て!!」千穂の焦った声に対して白髪の声は携帯電話のスピーカーによって部屋中に響く。
『起こった?じゃあ今は起きてないんだな。』
「そう!30秒前くらいに起きてたけど、もしかしたらまた起こるかもしれない。」
『とりあえず依頼者の保護が優先だ。千穂は彼女に携帯を渡して手を繋いでいろ!』白髪に言われた通り遠藤は倒れた状態で震えている依頼人に携帯を渡し、手を握った後安心させるように言った。
「大丈夫だから。私が守るから。」その言葉に対して依頼人は千穂に手を引っ張ってもらい立ち上がると小さく頷いた。
『とりあえずそこに待機してろ。絶対に手を離すなよ!手を離した途端向こうにやられる場合があるんだからな!!』白髪の命令に従って茶髪はカメラを持っていない手で依頼人の手を強く握った。
『とりあえず携帯の電源は切るなよ。もし切れたら外に出ろ。』そう言った後携帯から呪文のような声が聞こえ始めた。
『なんと言っているかわからない為、執筆不可』白髪は念仏か呪文かわからないが、外来語を聞く日本人の様に常人では理解のできない言葉を言い続けると止んでいた何かが叩く様な音がどこからか再び聞こえ始めた。
「…コツン。ダン!!!!ドン!!!ドン!!」小さかった音は白髪の呪文に対抗するように音を大きくなっていく。
「ひっ…。」小さく悲鳴をあげる依頼人の言葉をかき消すように大声で白髪は叫んだ。
『……ハァ!!!』大声と同時に音は止んだ。
しばらくの沈黙の後、白髪の声が聞こえてきた。
『二人とも。外に出てきて。』彼女の指示に従って外に出ると、裏野ハイツの目の前にバットを持った白髪が立っていた。
「あ、あんた居たならなんで来なかったのよ!!」携帯電話を切った依頼人の悲鳴交じりの怒声を無視して白髪はポツリと一言。
「答え合わせをするか。」