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老婆

 古臭い二階建ての建物。前方から見ると真ん中に二階に続く階段があり、どの扉にも表札みたいなものは無い。

 「これは凄いや。」カメラの外から白髪の声が聞こえた後、千穂が白髪に対して質問をした。

 「何か見えるの?」質問に対して白髪が答える。

 「二階の真ん中の部屋から凄まじいのがでているよ。というか千穂見えなくなったんだっけ?」白髪はカメラを千穂の方に向けると怒りがこもった表情で答えた。

 「忘れたとは言わせないぞ糞女。お前のせいで私はこんな事になっているんだ。」怒っている千穂を映しながら白髪は楽しそうに話をする。

 「忘れるわけはないだろう。君の友達は本当に勇敢だったぞ。ただ、それだけは言える。だが、あれから何も感じないのか?」

 「そうだよ。だから私はこういう話は関わらないようにしてきたしこれからも関わらないで生きていこうと思っていた。」

 「だけど彼女に頼まれたから私に連絡をしたという事か。」数秒間白髪は黙っていたがすぐに「だけど。」と言って話を続けた。

 「お前らがこういう人助けを自己満足で行っていた時点でもうあっち側からは逃げられなくなってんだよ。」白髪は子供を叱る大人みたいな強い口調で言うと千穂はそれきり黙ってしまった。

 「えっと、私のせいでその、すいません先輩…。」カメラは依頼主である黒髪の方に向いた数秒後千穂は黒髪の方に近づき頭を撫でながら話しをする。

 「安西にお願いされなくても他の人間が私を頼っていただろうし、逃げていてもこういう心霊現象に結局関わる身にはなっていたんだ。だからお前は気にするな。このムカつく女が助けてくれる。」そう言いながら頭を撫でると黒髪は泣きそうに鼻声で千穂の胸に抱き付いた。

 「せんばい!!ありがどうございます!」言葉になっていないお礼を言いながら黒髪は肩を震わせながら涙を流している。それを優しく包み込むような形で千穂は頭を撫でている。

 「いい雰囲気なのはいいんだけどさ、涙で化粧ぐっちゃぐっちゃになるよ。」白髪の声がカメラ外から声を出すとそれに千穂は答えた。

 「じゃあこの子の部屋で何をするか話合おうか。」泣いている黒髪は彼女の言葉に従うように裏野ハイツに近づいていき階段を上っていった。

 千穂が階段を上り扉の前で鍵を探すそぶりを見せるとカメラ外からしがれた声が聞こえた。

 「なにやってんだいあんた達。」声が聞こえた後カメラは声が聞こえた方向を向くと腰の曲がった老婆が怪しいものを見る目でこちらを睨んでいた。

 「初めまして。私達大学の心霊研究部と言う者達で…。」白髪が言うと老婆の眉間の皴が深くなり怒鳴り出した。

 「そんな罰当たりな事やめときな!!心霊研究なんてそんな無駄な事、第一ここにはそんな現象起こりやしないよ!」

 「おばあさん。そんなに強く怒るってことは何かあるんですよね?私達は彼女に相談されてここにやってきたんです。」

 「ないよ!カメラなんて持って髪を白く染めてなんだいあんたは?栄子ちゃんに優しい言葉を言って楽しもうとしているだけだろ?そうやって興味本位でここを詮索するのはやめなさい!!」

 「…おばあさん。私に霊感があるっていったら信じる?」白髪の言葉に唖然とした老婆を畳み掛けるように話を続ける。

 「この真ん中の部屋から3つの部屋に向かって黒い糸のようなものが繋がっているのがみえるんだよ。それも恨みと悲しみの混ざった糸がさ、私ならここの問題を解決できるかもしれない。」そう言ってカメラを持っていた白髪は老婆に名刺を渡した。

 渡された名刺をじっと見つめた老婆は呟いた。

 「心霊研究家?」

 「そうだ、私は苦しんでいる霊を成仏させる為に調査しに来たんだ。なにか知っていたら教えてくれないか。」優しげな声でお願いをした白髪に対して老婆はしばらく名刺を眺めてからゆっくりと言った。

 「私の知っている事を話すよ。」そう言って自分の部屋の方に彼女達を連れていった。

 

 室内はお世辞にも新しいものとは言えない古臭い雰囲気に漂っていた。オバサン臭いカーテンの柄、古びた青年が映っている写真立て。ブラウン管のテレビの上にはデジタル放送対応にするアンテナがくっついている。

 老婆の指示に従って渋い花柄の座布団に座ると、机を挟んで正面にいる形で老婆も座布団に座りえ桜庭は質問をした。

 「他の子達は来なくて良かったのかい?」老婆の質問に対して白髪は答えた。

 「彼女は203号室の調査をしてもらう為と依頼者の護衛を頼んでいるので大丈夫です。それよりも実は彼女からほとんどこの裏野ハイツについて教えてもらえてないので知っている事を全部教えてくれませんか?」白髪の言葉に唖然とした後じっとカメラを睨みつけた老婆は言った。

 「まずあんたから見てこの住宅がどの様に見えるかと、この部屋がどういう風に教えてくれよ。」老婆の言葉に従って白髪は説明をする。

 「さっきの説明を補足しますと、隣の部屋『202号室』から貴方の『201号室』私の依頼人である日野元さんの住む『203号室』そして『102号室』に向かって黒い糸の様な物が見えるんですよね。この黒い糸って言うのは恨み、悲しみ等の『負の感情』と呼ばれる物が強いとその太さも変わるんですけど…。」説明途中の白髪を遮る形で老婆は慌てながら質問をしてきた。

 「わ、わたしはどうなっている?恨まれておるのか?」急ぎ気味で何かにおびえる様な表情で質問してきた老婆に返答する。

 「…うーん。恨まれているのかはわかりませんが黒い線が一番太いのは102号室なんですよね。その次に貴方の部屋。貴方の部屋というよりそこに存在する写真に集中して黒い糸が蜘蛛の糸みたく壁を突き抜けてへばりついてますね。」白髪はいくつも存在する青年の移った写真立てを指さしながら言うと老婆は全身の力を抜け放心してしまい「そうか。」とだけ呟いた。

 「ただ、あなたの体にも一本の黒い糸が左胸に向かって付いてますよ。」淡々と言う白髪に対して老婆はその言葉を聞いて「ひっ」と小さな悲鳴をあげると付いた蜘蛛の糸を取るように自分の体を強く手で払った。

 「私が見えるのはこれくらいです。日野本さんはあなたと同じように体に一本細い糸が付いています。たぶんこれはこの家にいる何かのマーキングでしょう。きっと何か条件を満たすと霊に食べられてしまう…。お願いです。知っている事を教えていただけないでしょうか。」言いながらカメラはコトリと机に置いた音をたてると、その横から白髪が老婆にお辞儀をするような形で顔だけ映った。

 しばらくの静寂の後、老婆は静かに語り始めた。

 「私はここに住み始めてかれこれ20年程経つ。ここに住む前には夫と二人でゆったりと暮らしていたよ。」ここで話すのを止め、空を見つめながら続きを語った。

 「息子がな、居たんだよ。その息子が久しぶりに連絡をよこしたと思ったら婚約者を紹介すると言って連れてきたんだ。それは綺麗な女性だったよ。愛想もよくて美人だった。二人は幸せに暮らしていたんだよ。だがな、息子と私の夫が車の事故で死んでしまったんだ。女性は葬式で泣いていたよ。私も泣いたさ。それでその女性は一人暮らしを始めた。それがここ裏野ハイツ。だが、ある日を境に行方が分からなくなってしまった。私がここに引っ越したのは彼女が行方不明になった原因を知ろうとしたんだ。だが、それが間違いだった。」老婆は涙を流しながら語った。

 「息子という縁が切れてしまったらもうただの他人だとわかっていたんだけどねぇ…。ただ、あの子は夫を亡くした私を慰めてくれたんだよ。自分だって辛いのに涙を流しながらね…。だがそんな優しい子がここで消えてしまったんだ。少しでも何か情報が得られればいいと思ってここに引っ越した。だが、何も情報は得られなかった。私は彼女の行方がわかるかもしれないというありもしない幻想を抱きながらずっとここで暮らしているんだ…。」それから下をじっと見つめると「やっぱりここに居たんだね」と呟いた。

 しばらくの静寂。老婆は再び語り始めた。

 「今この建物に人が居るのは3部屋だけだ。」老婆はどこからか取り出した煙草を口に含むとその先端に火をつけた。

 「201、203、102その住人のみだ。203はお前さんの依頼者。201は私。102は…わからん。」

 「わからない?」白髪が聞くと老婆は煙草を吸いながら答える。

 「あぁ、私より前に住んでいるが見たことがない。私の睡眠が早いせいかわからんが下の住人の姿はわからない。」

 「20年住んでいるのに?」

 「あぁ、そうだ。20年間住んでいるが住人を見たことがない。だが、そこには一人の男が私より前に住み続けているらしい。」

 「へぇ…。」

 「私はずっとあの102の住人が怪しいと思っていた。だが確証がもてなったがお前の話を聞いて確信したよ。あいつは何かを知っている。私よりその黒い糸が濃く繋がっているんだろう?」

 「え、ええ。」

 「じゃあ何か知っているに決まっている。知っているならドアを壊してでも中に入るしかない。なぁそうだろ?」老婆の焦点の合っていない目を見ながら白髪は止める。

 「待ってくださいよ。その決めつけは良くないですよ。私が嘘をついている場合もありますし、なによりおばあさんより長く住んでいるからこの家が住人を狙っている可能性があるでしょうし…。」白髪が言うと老婆は怪しむようにカメラを覗き込む。

 「まぁ、話を聞く程度なら大丈夫だと思いますけどおばあさんのその感じだと今にも殺しに行きそうなんですもの。安心してください。私が責任を持って調べます。」

 そう言うと老婆に何かを書いた紙を渡した。

 「何か起こったらここに連絡してください。基本24時間対応していこうと思いますので。」白髪の対応に唖然としている老婆に対して質問を再びした。

 「一階の端の部屋は何時ごろから空きました?」

 「たしか3か月ぐらい前じゃな。両方とも何かから逃げるように引っ越したよ。」

 「逃げるように?」

 「あぁ、あの子の夢でも見たのだろうな。私だって怖いと思うのだから普通の人は逃げるはずだ。」

 「あと、おばあさんの部屋ではどんな現象が起きているのでしょうか?」

 「たぶんあの少女と同じ夢だよ。」老婆の言葉に納得をしたのか白髪は「ありがとうございました。」と言って部屋を出た。

ここでカメラの映像は止まった。


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