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犯すんだよ

 ビデオカメラに少し釣り目気味の顔が整っている白髪の女性が映りこみ話を始める。

 「まず、私は依頼を受けるにあたって現象の発生から解決にかけての過程を保存しています。なので、この依頼を受けている間こちらのビデオカメラで貴方を撮影しますが了承していただけるでしょうか?」ビデオカメラは白髪が話すのと同時に動き、長髪黒髪の野暮ったい黒メガネの奥に隈が出来た女性を映す。

 「は、はい。」白髪女性の言葉にうろたえながら女性が同意をすると隣にいたポニーテール茶髪の女性にビデオカメラの映像が映る。

 茶髪の女性はカメラがこちらに向けられている事に苛立ちを感じたのか視線を外に向けて一言も話さずにいる。

 「ではまず貴方が今回相談する内容について話してください。」声から察するに先ほど移りこんでいた白髪の女性だろう。声の後にカメラは先ほどの黒髪女性に向くと黒髪女性は話を始めた。

 「え、えっと。まず4カ月前から一人暮らしをする事になった私は、現在住んでいる裏野ハイツの203号室に住む事になりました。…階層とかって説明した方がいいのでしょうか?」

 「お願いします。後一応一人暮らしをし始めた理由も説明して下さい。」黒髪の質問に対してカメラ外にいる白髪が答えると黒髪は大きく呼吸をして話を始める。

 「解りました。えーと、まず一人暮らしを始めるきっかけですよね。母親が再婚しまして…。それにあたって私は邪魔かなって思い一人暮らしを始めたんですよね。」女性は話しにくそうに左人差し指で自分の頬を軽く書きながら固い笑顔を浮かべながら話を続ける。

 「裏野ハイツで住むことになった理由は家賃が他の場所に比べて安かったからなんですよね。それで、えーと、階層は二階層で一階ごとに三戸全部で六戸。そこの203号室に一人で住んでいます。引っ越しをした私はここ最近までは特に何も問題なく生活してきました。おかしな現象が起こり始めたのはたしか二週間ほど前からです。夜になると誰かが窓を叩く音が聞こえてくるんです。最初は子供が叩くような小さな音だったんですけど段々と音が大きくなっていっているんです。それがずっと続いていて、昨日勇気をだして大声でうるさいって叫んだら音が止んだんです。それで安心した私は眠ってしまいました…。」黒髪はそこで言葉を止め、下を向いてしまった。

 「夢をみたんだ?」カメラ外から白髪が優しく問いかけると黒髪は顔を下に向けたまま頷くと話を再開する。

 「そうですモノクロの夢を見ました。夢の中で私の目の前に扉がありました。それを開くと、私の部屋と同じ間取りだったのですぐにここは裏野ハイツだと気が付きました。そこで中に入ると扉がひとりで勝手に閉まったので驚いた私は扉の方を向きドアノブを何度も回しました。何度回しても扉は開きません。途中で後ろから気配を感じました。その気配を感じて私は後ろを向くことができませんでした。何か見たら恐ろしい事になるような気がしたのです。何分間動けずにいたかはわかりません。もしかしたら一瞬だったもしれませんが私の中では永遠の様に感じました。一瞬です。首が抉られるような痛みに襲われた私はそのまま倒れてしまいました。目に映るのは顔の青白い女です。血の流れている私の首を噛み千切った女は次々と私の体を食べていきました。目で見て意識が消えると分かるほどの出血をしても私の意識は消えないばかりか食べられている感覚まで…。」ここで黒髪は荒い息を吐きながら話すのを止めてしまった。

 「ああ、わかりました。わかりました。もう止めましょう。とりあえず大体話は理解できました。それで、その夢を見たのは初めてですか?」白髪が聞くと黒髪は小さな声で答えた。

 「…いえ、毎日です。」

 「毎日?」白髪の声の後、黒髪は答える。

 「はい、毎日あの夢をみて私は目が覚めます。夢の中の私は初めての出来事の様に毎回同じ事を行いますが目を覚ますとこれが何度もあった事だと思い出すのです。」黒髪は質問に対して答えると夢での出来事を思い出したのか少し震えている。

 ずっと外を見ていた茶髪女性が隣にいた黒髪の肩を撫でながら「落ち着いて」と何度も言い黒髪を落ち着かせようとしている。

 それを邪魔するように白髪の声が聞こえる。

 「で、この子を助けてほしいって連絡だったけれどさ千穂。私に頼むとろくな事にならないよ。それはあなたが一番理解しているだろうし、それでいいなら私は彼女を助けてあげるけどさ?」白髪の言葉に茶髪は黒髪を慰める事を中断してカメラの方を向いた。

 「でも、貴方しか頼れないの。お願いします。」そう言って千穂は頭を下げた。

 しばらくの沈黙の後白髪は新しいおもちゃを得た子供の様に嬉しそうな声で言う。

 「じゃあ今から実行だ。依頼の報酬は考えているからお金の心配はしないでいいよ。ふふ、楽しみだな。ついでにやりたかった事もやろう。」楽しそうに語る白髪に恐怖心を感じたのか震えが止んでいた黒髪はカメラの方を見て質問をした。

 「やりたかった事とは…。」黒髪の質問に対して嬉しそうに白髪は答えた。

 「幽霊を犯すんだよ。」


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