一貴族の食事風景?!
食堂に招かれたロウジ。
そこで色々と気付かされます。
「し、しつれいします」
ざわっ
ドアを開けて貰ってるのでそんなに悩む暇もなく緊張して挨拶しながら食堂に入った俺を迎えたのはビクッとした後に変なモノを見たかのような館の人達の好奇の視線だった。
ひえっメイドさん達と執事さんが一斉にこっちを見たよ
そんな目で見ないで欲しいなぁ
それにメイドさんばかりかと思ってたらやっぱりちゃんと執事さんも居たんだね。
結構鋭い目をしたお爺さん?全銀髪だけどいってて50代かな?なんか。うん。見るからに執事〜って感じの人で怒らせたら怖そうだ。気を付けて接しよう。
「はっはっは。礼儀正しいな。だが、そんなに緊張しなくとも良いではないか。ここは食事の場だ。しかも我ら家族での食事の場だ。もう少し力を抜いてくれないとこちらとしても困る。むしろ客分として扱うと通達してあるねだからもう少し堂々しているくらいが丁度良い。」
一番奥の正面席に座っているバートさんが軽く笑って言ってくるが・・・・それを聞いて更に(しまったあぁ〜!!)と内心では余計に緊張が高まってしまったんだよね。
和食や精進なんかのマナーは分かるけど洋食のテーブルマナーが分からない〜。
嫌な汗が出てきましたよ。
「ロウジ様のお席はこちらになります」
アンさんがアンジェリカさんの正面の席に案内してくれるけどギクシャクとした動きで席に着く。
奥の正面にバートさん、向かって右側奥に奥さんのハイネスタさん、隣にアンジェリカさん。向かって左側ハイネスタさんの正面が空いていてその隣、アンジェリカさんの正面に俺。という4人だけが座っている状態。
長いテーブルに左右6人ずつ座れるようになっているようだけどアンジェリカさんには兄妹とか居ないのかな?
ともあれそんな大きなテーブルに着いている人間よりも周りに控えている人間の数の方が多いというのがね、(貴族ですよ、正に貴族みたいな食事風景ですよ)、と緊張から内心変にテンション上がってたりするけどそんな事は外面には出さない。・・・・出てないと良いなぁ。でも指摘を受けたという事は無理ということなんだろうなぁ。
でも仕方ないじゃないかぁ、ウチは代々日本食なんだからさぁ、とか現実逃避をしているわけだけどテーブルの上、目の前にはナイフやらフォークが置いてあるわけですよ。・・・ナイフもフォークもなんかイメージした物より大きいですが。ナイフ、というか投げナイフ?みたいな。普通にそのまま調理にも使えますよね、コレ。
・・・それにパンが2個しか無くて後は空の皿とか果物が入った籠とか。洋食のテーブルの上ってこんなのだっけ?
「ふむ?テーブルの上にある物が珍しいかね?」
「あ。いえ。すみません。正直なところマナーが全く分からないんです。」
少し心配気な顔で聞いてきたバートさんにそう答える。
「あら。こういったお食事は初めて?」
「あら?テーブルマナーが苦手かしら?」
「はい。すみません、根っからのいち庶民なものですから。」
ハイネスタさんはバートさんと同じような顔で。アンジェリカさんはどこか楽しそうな、嬉しそうな?顔で聞いてくる。
「まぁ。」
「ふむ。まぁ見たところ未だ成人前なのだしこれから学んでいけば良いのではないかな。かく言う俺たちも俺とハイネは元々冒険者でマナーなどあったものではなかったからな。アンジェリカも家が子爵に封じられてからの数年でやっと様になったような具合だ」
「お父様っ?お父様がウチは冒険者上がりの男爵家なのだからそこまで厳しくなくても良いだろうとわたしへの貴族教育を後回しにしていたのをお忘れですか」
アンジェリカさんが抗議する。
・・・結構キツイ目をするんだなぁ。
あ、いや、そうじゃなくて。
「冒険者、ですか。ハイネスタさんも?」
バートさんは見たままだし第一印象からして最前線からの叩き上げみたいな感じだから納得なんだけどハイネスタさんはちょっと想像出来ないな。後ろで回復役とかかな?
すると意外すぎる答えが返って来た。
「あぁ。あまり見た目では分からないかもしれないがハイネは半分エルフの血が入っていてな。こう見えて優秀な魔法剣士なのだよ。かなり強いぞ。」
「・・・・・は?」
いや、えっと。なんだろ?
「半分エルフ・・・ですか?ハーフエルフ?・・・それで魔法、剣士、ですか?ハイネスタさん、が?」
言いながらハイネスタさんを見るが・・・よく見ると少し耳の先が尖っている、のかな?
「はっはっは。あまり人の妻を熱い視線で見つめてくれるなよ。外見はどうやら人間よりでな、多少髪の色と耳の先端が少し尖っているのが見て取れるかどうかなのだ。ただしその代わりに内面はエルフらしさがすごくてな。精霊を使役しての魔法とその魔法と身軽さを活かしての戦い方などは凄いものなのだぞ」
「へぇ〜そうなんですね。華奢で綺麗な見た目からは想像つかないんですけど。」
「まぁ」
「まぁ」
「ほぉう」
ん?
・・・・
・・・おう。
「あ、あ、いや。あの。」
・・・うん、バートさんの気安さから釣られる形で思わぬ失言したね。
それにハーフエルフという単語で気が逸れて頭がそれで占められちゃった。
「わたしはお母様の娘なのに血に恵まれてないようで。少しは魔法の才能はあるようですが今のところそれだけなのです。」
アンジェリカさんがなんか暗い顔をして言うが・・・・俺としてはこんな時なんと言葉をかけるべきか分からず困ってしまう。
「「失礼いたします」」
おっ。ここで救いの女神達が降臨。
メイドさん達がテーブルにある一家と俺の目の前にあった空の皿とスープが入った皿とを交換してくれた。そしてもう一皿、小さな皿に焼かれた何かの肉に香草が添えられた物が置かれた。
・・・・あの空の皿はなんだったんだろう?
「では食事にしようか」
「「はい」」
「そうですね」
頷く。
「いただきます」
「今日この時この糧を与えて頂いた事に感謝を致します」
・・・・あ。
「ふふっ」
アンジェリカさんが笑ってます。ハイネスタさんは何も言わず軽く微笑んでます。
うん、気まずいのは俺だけ、かな。
と、思ったら
「ふむ。いただきます、か。なかなかに意味深げな言葉ではあるな。ロウジの故郷ではそういう挨拶をして食事をいただくのか」
言ってバートさんは食事に手をつける前に考え込んだ。
「あ。はい。作物を生み出した神に感謝を。その作物を育ててくれた生産者の人や土地にも感謝を。そしてその作物や生き物自体にも謝罪を込めた感謝を。更にその作物を使って料理してくれた人にも感謝を。そしてその料理を食べられるその時の環境にも感謝をしてそれらをいただきます、と挨拶をして食事をするんです。」
まぁ、日本人にとっては神も土地もあんまり変わりなかったりするし殺生した生き物も神格化させたりしてるんだけどね。
「それはなんというか・・・「まぁ。すごいですね。素晴らしいと思います」うんむ。素晴らしい事だな」
「きっとロウジ様のお国は精神面での発達がすごいのですね。」
・・・・笑っちゃいけない所だよね、ここは。バートさんはタメを作って言葉を選んだのは失敗だったのでは。
アンジェリカさんは精神面での発達が進んでる国というような評価をしてくれたが・・・どうなんだろうね。正直そういう思想を生み出して伝えてるという点ではそうなのかもしれないけど、やっぱり時代が進むにつれてレベルというのは飽和状態、もしくはピークが過ぎて落ちて来てるんじゃないかと思う時があるんだよな。寺や神社、墓や石碑なんかに平気でイタズラしたりと他人を敬うことをしなくなってる世の中に変わってるよなぁと昔からの話を聞いてると感じるんだけど。
「精神面での発達は広い意味ではそうですね。相手の事を考えて行動する事を勧めるという事を国で教育出来たりとかは文化レベルが高い証拠だと思います」
「ほう。すごいな」
「それは一部の貴族の方々を連れて行って欲しいくらいですね」
「こらこら」
「あら。失礼」
ハイネスタさんが口を手で押さえるが夫婦間の軽い掛け合いみたいなものなのだろうな、これは。
「ふむ。興味は尽きないがともかく食事を済ませてしまおう」
「その言葉を待ってたのよ」
・・・マナーの話でも少し触れられたけどやっぱりアンジェリカさんは少し貴族のお嬢様って感じじゃないね。
ハイネスタさんに似て可愛いというよりも綺麗系な女の子だけど。
「?どうしたのロウジ?今はあまりマナー気にせずに食べた方が良いわよ?」
アンジェリカさんの方を見ていたら不思議そうな顔をされてしまった。
これはマナーを見てると思われたのかな?
「あ。はい。改めていただきます。」
パンにつけるマーガリンとかジャムは無いのかな?
「・・・へぇ」
と思いながらそのまま噛み付いたら結構味が濃いパンでビックリした。
そんなに柔らかくないけど噛むとクルミか何かの甘味が出て素朴ながらも美味しい。
「うまい」
見るとアンジェリカさんは千切ったパンをスープに少し浸して食べてる。
スープ、というかクリームシチューのようなものも見た目に反してミルクっぽい味が結構どっしりした感じでパンにも合うだろう。
俺は椅子から立ち上がりバートさんに頭をさげる。
「・・・バートさん。改めてお礼を言わせて下さい。どこから何をしに来たのかよく分からない人間によくしてくれてありがとうございます。右も左も分からないのでしばらくご厄介にならせて貰いたいですが、自分に出来る事は何でもやりますので色々とご指導お願いします。」
「・・・ん。先にも言ったが本当気にしないでくれ。ウッドレイクの森を始めとしたこの辺を治める領主として民の命に責任もある故、な。それに個人的興味と多少の打算も含んで、の事と考えて貰えば良い。」
「・・・はい。ありがとうございます。それで、ですね。更にこのようにご家族とお世話になるのであればやはり俺の、僕の事情をしっかり話しておきたいと思うんです。」
バートさんの目を見て言う。
「ふむ。良いのか?俺が決定した事であれば誰も口を挟まないから慣れてから気が向いた時にでも、とこちらは考えていたのだがな?」
バートさんも俺の目を見て言ってくる。
「はい。むしろ多分本当に色々な事を教えて貰わなければいけないと思うので。何故?と思われることも多いと思うんです。ご家族との関係もスムーズに行くようにするにはやはりこちらは知っておいて貰った方が良いと思います。」
何を知っていて何を知らないのかとか探りながらよりも最初からほぼ何も知らないという認識でいて貰った方が俺の立場的、名誉的にも良い気がするんだよな。こんな常識を何故知らないのか、とか思われても嫌だし。本当にこの世界の基本的な事から教えて貰う事になると思うからなぁ。
「・・・ふむ、そうか。ならば食事の後に時間をとって客間で話をするとしようか。ハイネ、アンジュ。良いかな?」
「はい。貴方が何故ロウジを客分として家に招いたかの理由がわかるのですね。」
「はい、大丈夫。ロウジ様のお話ですよね?楽しみです。」
・・・・うん、なんかハイネスタさんにはハイネスタさんの。アンジェリカさんにはアンジェリカさんの考えてる事というか思惑というかあるみたいだけど話を落ち着いて聞いてくれるみたいで良かった。
・・・うん。考えてみたら種族にしろスキルにしろ職業にしろ自分についてのことだけで世界にどれだけ存在しているか、とかそもそもどんな国があるのかすら・・・大陸の名前は聞いたけど、この国の名前すら知らないんだから。
食事をしてその事に気が付いたら正直血の気が引いたんだよ。バートさんみたいな人に出会ってなかったら下手するとスキルの使い方1つ分からずに未だに1人で森を彷徨ってた可能性もあるし。
あ。
と、そこまで考えてまた気が付いた。
(鑑定)
【ココの実パン】 (食材) アイテムレベル3
多少の小麦とココの実を混ぜて焼き上げたパン。 HP回復20 体力回復10 気力回復5
おぅ。なるほど。
(解析)
【ココの実パン】(食材) アイテムレベル3-6
多少の小麦とココの実を混ぜて焼き上げたパン。 HP回復20+6 体力回復10+6 気力回復5
( 材料: 小麦 . ココの実 . 天然酵母 . 水 . 塩 )
料理必要レベル3 アイテム作成必要レベル5
このパンは腕の良い料理人が手間暇かけて作ったようだ。
おぉ。
・・・・料理じゃなくてアイテム作成スキルでも作れるって事か?
それに回復量はちょっと謎かな。基本量プラスランダム数値回復とか?アイテムレベル3-6の6に依存してるんだろうけどこの意味が分からない。
それに材料の分量までは出てこないけど作る時になんとかなるのかな?
・・・なんて考えたらなんとなく、だけどパン1つ作るのに必要な分量が頭に浮かんだよ。スキルって便利だね。
俺は全く物を知らないんだから鑑定や解析は使っていかないとダメだよね。
せっかくスキルがあるんだから。
・・・スキルなんて普通は使わないし自由に使えないから今頃気が付いたんだけど。
・・・でも。だからと言って人間に使うのはやっぱり抵抗あるな。人間に使うのは使う前に断り入れるか余程の時にしよう。
【バドの実】 熟して甘味が増したものをバドが好んで食べる。なりたての物と完熟の物とで硬さと甘さがまるきり違う。熟成させることで色々な使い道がある。
リンゴみたいな硬さと味の果物なんだけどここから更に熟すんだ。バドって鳥かな?柔らかくなってから食べるのかね?
【ブドウの実】一房にだいたい20〜30個の実をつける。なりたては渋味が強いが熟成させることで色々な使い道がある。
・・・うん。ブドウ。巨峰よりも少し小さいかなという、見たままブドウ。・・・うん、ブドウか。何か期待した俺が悪かった。
そういえば今皆に出されたけど飲み物は紅茶みたいだ。
ワインもありそうなんだけどな?貴族と言えば洋食と言えばワイン、みたいなイメージがあったんだけど違うのかな?
「ワインってここには無いんでしょうか?」
あ、っと思ったけどもう遅い。気が付いたら質問してたよ。
「ふむ?ワインが好みかね?あいにく未だ仕込んでる物ばかりでな。ここではエールが主流なのだが俺はあまり飲めなくてな。飲むなら持ってこさせるが」
「あ、いえ。すみません。ブドウを鑑定してて疑問に思っただけなので。それに自分は未成年なので。」
「ん?見た目やはり若いと思ったが成人してないのか?」
バートさんがすごく驚いて言う。
「え、あ。はい。16です。まだ。」
そのオーバーなバートさんに驚きつつ答える。
が
「・・・なんだ。驚かさないでくれ。成人してない子供が1人で・・・かと思って慌ててしまったではないか。」
ほっとした、本当に心からほっとした口調でバートさんが言う。
「びっくりしました。まさかとは思いましたがやはりわたしより2つ年上なのですね。見た目わたしより下かと思って内心ドキドキしてたのですが」
アンジェリカさんも胸に手を当てて言ってくる。そうかアンジェリカさんは14歳か。
「私もまさか未成人が1人で旅をして森に入っていたわけはないと思ってましたが。バートが保護した事も考えて内心ではドキドキしてました」
ハイネスタさんも胸に手を当ててドキドキした、なんて言ってくる。
なんだろ、なんでだろ?
「あ。そういえば成人は15歳でしたか」
「はい?」
「え?」
「・・・・あぁ、そうか」
あ。
また思わず口にしちゃったよ。
バートさんは納得してくれたみたいだ。
「あ。ウチの国では成人と認められるのは20歳なので。」
「・・・え。そうなのですね。」
今度は口を押さえて固まるハイネスタさん。
「・・・そうなんだ」
やはりこちらも固まるアンジェリカさん。
「あ、あぁ〜。まあ、その辺の事情はこの後客間で、な。聞けば何も問題がないこともわかるはずだ。ハイネもアンジュもあまり気にするな」
バートさんがフォローするけど・・・・なんだろうな?
と考えてみて気が付いたけどひょっとして成人前の子供が1人で旅を、しかも国外へ、とかってヤバいのかも、と思い付いた。
考えてみれば何らかの事情があるのは当たり前。下手すれば厄介事の可能性もあるし、普通でも保護者はどうしたんだ、となるべき所だよね。
バートさんが領主とはいえ勝手に他人の子供を、っていうのはマズイことになったりするのかも。
「あ。あ、あぁ。ええぇっと。」
そこまで考えてしまったら何か言わないとと思っても言葉が出なくなってしまった。
「あぁ。大丈夫だ。俺は事情を知っているからな。」
・・・・うん、知っていると言ってもこっちから細かい説明したわけじゃないし。バートさんから世話してくれると言い出してくれたわけだからこっちは何も悪くはないわけだけど。
だからこそバートさんはそういった諸々を考慮した上で・・・覚悟みたいなものを決めた上でこっちに言ってくれたのかな、と思う。
なんか考えた以上に良い人というか度量の大きいすごい人だ、と思う。
これはやっぱり包み隠さず話してなるべく全面的に協力を仰いで、俺の方からも早目に何か貢献出来るようにならないと恩ばかりが貯まっていきそうだ。
気合い入れよう。
お読みいただきありがとうございます☆
この次から領主邸でお世話になりながらのロウジの異世界生活が始まります。
次回更新は30日の予定です☆