いよいよ森に入ります?!
いよいよ出発するロウジとリン。
馬車に揺られて目的地まで。
ですが、まだ確認しなければいけない事や注意しなければいけない事があるので2人で話をしながら森へと向かいます。
さてさて。
『ウッドレイクの森』、今ではそう呼ばれているようだけれどそう呼ばれるようになってからまだ100年も経っていないのだとか。
元々は王都西に広がる『ノクカチ大森林地帯』として数百キロにも広がる1つの森だったのを王都を復興、増築・拡張した際に街道を広げる為と魔王との戦いで褒賞としてその時活躍した人間達に領地を与える為に森林地帯をかなり切り拓いたのがキッカケとなり、今では大森林であった物は分断され細々とした森や林となり、あるいは田畑や更地になり名前もそれぞれに付けられたり未だただの森、と呼ばれるだけで名前が無かったりしているそうだ。
元々のノクカチ、という名前は住んでいる人間が多い王都の西側にある森に残されたのだとか。
やはり長年大勢の人間が慣れ親しんだ名前、という事らしい。
「広さはこのウッドレイクの方が断然広いんだけど木々の密度はかなり濃いよ」
と説明してくれたのは馬車で向かいに座るリンさんだ。
村を出る時にはフードを取っていたのだが、やっぱり自分でも喋り方が気に食わないらしく、また被っている。
目的地までは馬車で3時間近くかかるのだそうが、4人乗りの馬車に2人で乗っているのでかなり快適そうだ。
・・・・うん。快適そうだ。リンさん、は。
「そうなんだね・・・・け、結構揺れるよね。馬車ってこんなに揺れるんだね〜初めて乗ったよ」
そう。これが、また揺れてるん、だ、よね。
出発してからしばらくは感じなかったから道が悪くなっているのかもしれない。
「あれ?馬車乗るの初めて?・・・ふぅん、そうなんだ?・・・慣れれば楽だし結構楽しいよ?まぁ、酔わなければ、だけど。それにこっち側の道はあまり整備も管理も行き届いてないってのもあるんだけど。それにピアリス様ならもっと良い馬車を用意出来たんじゃないかな?、とは思うけど」
「ふぅん?そうなの?・・・けちったりしたのかな?」
なんか時々リンさんが変な顔をして聞き直してくる事があるんだよな。
まぁ、別に何か気になる程度だから良いには良いんだけど。
それよりも道が悪いのは仕方ないのかもしれないけど揺れが小さい馬車とかがあるならそっちの方が良かったなぁ。
「う〜ん。けちった、んじゃなくて逆に自分の馬車じゃなくて乗り合い馬車を貸し切ったから、じゃないかな?実際道が悪くなって来てるはずだけど、今御者さんは速さも揺れも一定に保ってるし腕は良いと思うよ?」
「そ、そうなんだ。村を出てからしばらくは感じなかったんだけど道のせいもあるんだね」
それなら仕方ないのか。
と、言うか車輪が時々結構固い音を立てているのも気になる。
そういえばゴムはあるのだろうか?
車輪の素材はどうなってるんだろう?
よく見てなかったな。
「ねえ?馬車の車輪ってさ?木?鉄?そこに何か巻いてあったりするんだよね?」
確かバートさんが乗っていた馬車の車輪には茶色いような黒ずんだような何かが嵌ってたような気がするんだけど。
「え?・・・あぁ。馬車は見るのも初めてに近いの?それとも地域によって作りが違ってたりしたかな?ここの、って一応言っておくけどここ、リアルデ王国では少し前までは確かに木の少し太い車輪が使われていたけど今は全部・・・1人とか2人用には未だ木の車輪を使ってる人も居るかもしれないからほとんど、かな?木の場合はその外側に皮や鉄を打ち付けてあるの。この馬車には鉄の車輪が使われてるよ。多分この本体部分の下に予備の車輪が入っているはずだよ?」
と、足で床を叩く。
なるほど。
皮を巻いてタイヤにしてるんじゃなくてビョウとかクギで巻いた皮を貼り付けてるだけなのかな?中に空気は無いのか。
「あ、そうなんだ。ふうん?鉄の車輪、って鉄で出来てるだけ?何も巻いたりしてない?」
「あ〜。この馬車は何もしてなかった気がするよぉ?・・・うん。だから揺れが激しく感じるのかもしれない。そういう事はあるかも。」
「あぁ〜。皮が張ってあれば多少は緩衝材になりそうだもんね。それはありそう。・・・うん。でも、少しは慣れてきたかもしれない。リンのお陰かな?」
話してるうちに馬車の事も分かってきたし、座り方、みたいのも自然と身に付いてきたのかもしれない。
「あれ?もう慣れてきたの?早いね。まぁでも酔ったりもするし油断は出来ないと思うけど。あ、それからね?ウッドレイク、って名前じゃなくてピアリスって名前も候補に入ってたらしいよ?」
笑いながらリンさんが教えてくれる。
「ピアリス?ピアリスの森、って事?」
「あぁ〜、うん。多分ピアリスフォレストとかピアリス森林地帯とかじゃないかな?ここも村の名前がウッドレイクになったから区別するためにウッドレイクの村、ウッドレイクの森、と呼んでるけど確か最初はウッドレイクだけで森を指してたんだよ。だから。」
「あ、そうなんだ?・・・まぁ、そうか。考えてみればウッドレイク、だもんな。それだけで森って分かるか。ってかピアリス様の名前がついてたらどうなってたのかな・・・ピアリス様が断ったのかな?」
そういえばピアリス様の名前って誰がつけたんだろう?
ノクカチ大森林の精霊だったら名前はノクカチになりそうなものだけど。
「う〜ん。そこは良くは知られてないんだよねぇ。・・・でも多分だけどピアリス様が嫌がったんじゃない?・・・ほら、冒険者が「今日ピアリスの森行ってさぁ」とか「今日ピアリスでさぁ」とかって会話をされたら嫌じゃないのかな?」
あぁ。
「あ〜。うん、確かに俺だったら嫌だよね〜。冒険者ギルドに自分は居るわけだから、どうしてもそういう話は耳に入るだろうし。・・・そもそも冒険者への依頼書にも名前が入るわけだし。」
うん。それは嫌だな。
あ?
「でも?ピアリス様って大精霊なわけだから崇められたりするのは嬉しいんじゃないのかな?」
・・・もっとも。名前を出されるのと崇められたりするのとは少し違うかもしれないけど。
「う〜ん?・・・そういう話をされたり場所の名前として使われるのは崇められるのとは違うのかも?」
頬に手を当てて考えながら答えるリンさん。
「あぁ、俺も今言った後にそれは思った。やっぱり違うのかもね。」
「うん。それよりもロウジ?武器は剣だけ?中後衛と自分で言っていたのだから、それだけじゃなくて何か攻撃手段あるんだよね?投げナイフだったり道具だったり。」
ん。
「あ。う〜ん。そう言えば爆薬みたいなのとか道具も用意するつもりがすっかり忘れてた。今は魔法、精霊魔法だね。・・・・弓矢とか投げナイフみたいな後ろから攻撃できる武器もあるにはあるけど・・・正直上手く扱う自信がない。」
投げナイフもまんまの名前で8本アイテムボックスに入ってる。
弓もオーク製の弓矢がある。
・・・・うん。他にも明らかに神器だろ、と言う名前の・・・個体名が付いた武器もあったりするけど。・・・乾坤圏とかどうしろと。
インドラの稲妻ってのは外に出したらダメなヤツだよね、絶対。
それに、能力には手裏剣術とか弓術があるから弓矢も投げナイフも扱えない事は無いと思うんだ。なんとなく使い方分かるし。
ただ、知ってるのと実際に扱えるかどうかはやっぱり別だし、そこは正直自信がない。
「う〜ん。そうなんだ?まだ習ったばかりとか使えるようになったばかりって事?うぅん?魔法が使えるだけでも良いには良いんだけど。・・・あ。じゃぁ魔力の自動回復は微かしら?小かしら?・・・さすがに中はないよね?」
・・・あ、そうか。戦いになった時の色々を話し合う必要があったんだよね。
「魔力自動回復は小だね。話をしてる内には少し回復してるくらい、かな。魔力回復薬も持って来てるし魔法はどんどん使う気で居るけど。けどまぁ、でも2人なんだし魔物とかが1対1で来てくれるわけはないから俺も出来そうなら前へ出るつもりでは居るよ?一応。邪魔になると悪いけど。」
正直リンさんが速さを重視して場所を広く使うタイプの戦士だと分かってるから下手に前に出るよりは後ろから動きを見ながら魔法を叩き込んでいくのがセオリーだと思う。
「うん。そうだね。基本は後ろから援護、離れた相手に魔法を撃ち込んでくれれば良いとは思うよぉ。けど、そうだね、囲まれたりとかはあるかもしれないから剣を持って来たのは正解かも。」
「あ、うん。オオカミとかは絶対群れで向かってくるだろうし・・・ゴブリンなんかも人を襲うなら集団で来ると思ったからね。」
何しろ2人だからね、前も後ろも無いという考えで来てはいる。
「うん。特に今の時期オオカミとクマが一番出会う可能性が高いと思う。・・・あ。ただ、滅多に会わないから大丈夫だとは思うけどクロクマに会ったら逃げるつもりで居て。クロクマにはあたしの力じゃ刃が通らないから逃げるしか無い。幸い森の中なら楽に逃げられるから。・・・ただ、4本腕があるクロクマに会ったら覚悟が必要。あたしも会ったことはないけど木々が邪魔にならずに平気で追いかけて来る、という話だから。」
覚えておいて?と言うリンさん。
「う〜ん?クロクマ?・・・あ。あぁ、なるほど。野生のクマでも一際凶暴で完全な肉食獣なんだね。しかも成体で2メートル平均・・・歳を経るともう一組腕が生える、と。これで魔物じゃないっておかしいよね」
魔物図鑑?が頭にあるお陰で野生動物の情報も大丈夫そうだ。
しかし外見から魔物か野生の動物かの区別がつかないのもやっぱり居るんだよね。
「うん。見た目はまるきり魔物だよね。・・・でもロウジ?今のはどういう事?知識として知ってるってのとは違う気がするよ?」
あ。
と思ったけどもう遅いね。
ある程度話してしまった方が楽ではあるんだけど・・・俺としては身内、長く付き合う人間だけに話す情報にしておきたいと思うんだ。
ましては冒険者は何処へ行くか分からない、どういう人間とどういう出来事に巻き込まれるかも分からない。
そんな冒険者にはなるべく俺の事情は隠しておきたい。
「あ、うん?・・・うん。これは魔法のお師匠様に魔物の知識を無理矢理詰め込まれたから。そういう魔法みたいで、思い出そうとすればなんとか思い出せるんだけど、自分で読んだり聞いたりして詰め込んだ知識じゃないからさ、どうしても、ね。」
・・・俺の魔法についてのお師匠様はアンジェリカさんだけどね。
「うぅわぁ、そんなこと出来る魔法もあるんだぁ。・・・でも、それって魔物の図鑑が頭に入ってるみたいなもの?・・・便利、なのかな?頭痛くなったりはしない?」
首を傾げ傾げ考えながら聞いてくる。
「うん。頭に異常は無さそう。多分この大陸の魔物とかはほとんど頭に入ってる感じだと思う。・・・ただ、やっぱり知識を思い出す、と言うよりは情報を引き出す感じだから便利だけど自分でも確認しながらの分時間はかかるかも?まぁでも、思い出す時間と自分で確認する時間とどっちが時間かかるのか分からないけど、多分忘れる事はないから便利、なんじゃないかな。」
うん。リンさんが心配したように頭痛を伴ったりも無いみたいだし。
これは普通に便利な物だろう。
「そっかぁ。うん。別に不安要素が無ければ良いんだぁ。・・・ひょっとして弱点、急所みたいな物も分かったりする?」
「ん?クロクマの?火に弱いのと眉間・・・はやっぱりクマの弱点だね。後は首回りに血が溜まりやすいみたい。首を切れれば動きがかなり鈍るし出血によって倒せたりもするみたいね。・・・でも、滅多に会う事は無いんだよね?」
なんかフードの奥で目を輝かせてるリンさんが危ない気がするよ。
ネコだけに。
なんだろう?戦闘狂、と言うか強い相手とは戦いたい、みたいな感じなのかな?
「う〜ん。やっぱりかぁ。あたしの力じゃ眉間を狙っても多分無理。首を血管まで切るような深さで、なんてのはもっと無理。ん?4本腕のクロクマは滅多に居ないけどクロクマ自体は普通にこの森にも生息してるよ?あたしも何回か会ってるもん。だから、経験したから逃げるしか無い、って言ってるの。」
お分かり?とばかりに手振りを交えて言ってくる。
が。
「マジか。どちらにしろデカくて真っ黒なクマには注意か。」
少しガッカリする。
でもリンさんは
「うぅん、でも?ピアリス様は2人なら森の奥も大丈夫って言ってたよね?ロウジって火の・・・魔法か精霊魔法が得意だったりするの?」
「あ。」
あぁ。
「うん?どうしたの?」
こくんっと首を傾げるリンさん。
大きなフードを被った姿だから残念ながらあまり可愛さはない。
「あぁ、うん。俺の能力値見たから分かるとは思うけど。と言うか言えば想像して貰えるかと思うんだけど。火の魔法、いくつか使えるんだけど威力が高過ぎてね、かなり手加減しないと森の中じゃ使えないと思うんだ。クロクマは火が弱点みたいだけどそれだけ威力を弱めた魔法で効果があるかは・・・・うん。試してみるしか無いと思う。」
あまり試してみたくはないけどね。と言わずに心の中で思う。
「・・・そ、そうなんだ。うん。確かに魔力量も体力とか気力とか他の能力も今まで何やってたの、この人?って思うくらいの数値だよね。・・・だからってあまり試したくはないかなぁ。」
「うん。もう少し人数が居て余裕がある時とか森じゃなければ良いかもしれないけどね。俺もそう思うよ。」
「あ、うん。でも森の外でクロクマに会ったらまず逃げられないから問答無用で魔法使ってね?森の中と外じゃ動きが全然違うからあたしでも1人じゃあまり時間稼ぎも出来ないと思う。」
「そ、そうなの?」
えぇ〜、とか思いながらリンさんの能力値を再確認する。
リン
称号: 速戦士
属性 : なし
状態: うぅ〜ん
混乱無効 (指輪) 毒無効 (腕輪)
種族特性修正 (ケープ)
年齢: 16
HP 269/269
MP 310/310
体力 53/54
気力 58/58
腕力 46 (-10)
耐久力 41
知力 67
精神力 70
敏捷性 53 (-10)
幸運度 60
職業
冒険者RANK.3 獣戦士LV.3
だよね。
クロクマは?
クロクマ
分類: 野生動物
種: クマ
生命力: 800
魔力: 30
体力:80
気力: 80
腕力: 95
耐久力:78
知力: 58
精神力:66
敏捷性:66
幸運度60
・・・・え?
これが平均値みたいだけど・・・何この魔物?
しかも4本腕に成長すると最低でも全能力1.2倍以上だとか。
「あれ?でも?ごめん、リン。もしかすると、だけど。」
「なにぃ?」
「俺、クロクマとだったら近接戦やれるかも。」
「え?・・・・あ、そうか。・・・うぅ〜ん。あたしも何か引っかかってる気がしてたんだよね。ロウジの能力値は桁違いだもん。確かにクロクマが出ても安心かもしれない。」
「うん。・・・なんかあまり考えたくないけど。」
「うん。あたしもなんか色んな意味でクロクマと1対1で楽に渡り合える人間の姿は見たくないかも?」
「うん。俺も見た目通り格闘戦やるタイプじゃないし、ね。」
クマを絞め殺しましたぁ!とか別に素でやりたいとは思わないし。
なんか馬車内の空気がなんとも言えない感じで落ち着いた頃。
馬車が速度を緩め、少しして止まる。
「おふたりさん、着きましたよ。ここが目的地です。」
御者さんの声がした。
・・・すっかり御者さんの存在を忘れてたんだけど話は聞かれてたのかな?
「あ、はい。降ります」
馬車を2人して降りる。
リンさんが素早く降りて俺がよいしょ、といった感じで後から降りたのだが、何故か御者さんが変な顔をした。
なんだろうな?
「そこにある丁度門のようになっている木の間から入るように、との伝言です。帰りもここから帰るようにした方が乗り合い馬車を運良く捕まえられるかもしれませんし、街道なので安全なはずですよ。あちら側に進めばローメ男爵の村がありますし。ではご武運を。」
そう言って。
言うだけ言って御者さんは馬車をUターンさせて来た道を戻って行ってしまった。
「さ?いよいよよ。気合いを入れていきましょ?」
「うん。さすがに覚悟は決まったよ。がんばろう。」
2人して頷いて森に入って行く。
・
・
・
そして30分後。
「あれ?なんで?森から出ちゃうよ?」
「ここって?入って来たところ?じゃない?」
「うん?ちょっと周りをしっかり見回しながら歩こうか。」
「うん。あたしも木と道を気をつけるよ」
・
・
・
そして40分後。
「なんで?」「また?」
森に入った場所、だと思う場所に戻って来ていた。
「「なんで?」」
うん。迷いました。
と、言うか迷う事も出来ない、と言うか。
まさか森に入っても出てきちゃうとか。
どうなってるの??
あ〜。お読みいただき、ありがとうございます。
ロウジ様、と本来ならお呼びすべきなのかもしれませんが、ご本人もアンジェリカお嬢様も呼び捨てで構わないとおっしゃるのでロウジ、と呼ばせていただきますが。
いよいよ森に入って行くロウジとリンの2人ですが。
さっそく問題が発生したようですな。
そもそもあそこの入り口は精霊口、妖精の入り口とあの辺では呼ばれる物でして普通は人間は立ち入らないのですな。
まさかあんな事が起きるとは。
まぁ、ですが、ピアリス様から言われた事を思い出しさえすれば解決するのではないか、と思いますな。
では次話はロウジの活躍が見られそうです。
更新予定は31日のようですので待っていて下さい。
お知らせは私、リアルデ王国騎士団ウッドレイク註軍副軍団長のルボンがお伝え致しました。