飲んで吐いてを繰り返す!
14歳のいつもの日常。年の初めに一斉に年を取るので正確ではないが、俺達はもうそろそろ独り立ちや結婚できるようになる年齢……15歳になる
成人の定義は18歳なんだが、結婚・就職等、実質の成人を迎えると言っていいだろう。村の教会で祝福を受けて、説法を聞く……現代日本とあまり変わらない儀式みたいだ
正直、俺としてはやる事は変わらない。親の畑を手伝って、ティエンさんと酒造りをして、ガードの仕事で食っていく。
偶に街に出て、高級な酒を買う為にダンジョン……一攫千金の眠る場所なんかに、余裕のある所まで挑戦してみるのもいいんじゃないかと思う。
冒険者っていう職業……というよりも、何でも屋の別称……ファンタジー世界のフリーターを差すのは大体イメージの通りだと思うのだが、そんな人達の主な収入源の一つでもある。
生活必需品であるモンスターから産まれる魔石を主な糧とし、ダンジョンから産まれるアイテムで一攫千金も狙える、そんな場所だ……実力次第でもあるが
見方を変えれば、ダンジョンという資源が眠る山を採掘する鉱山夫の様な物だ。
10層迄行ければ初心者脱却、30層で中流、50層も行ければ一流と言っても過言ではない様で、そのダンジョン毎に難易度は変わるが平均的な基準だとこんなもんらしい。
命を賭ける職業でもあるのでその分、実入りは良いようで中流冒険者ともなると平均月収入の倍や3倍も夢じゃないとか何とか……
俺の村の様なド田舎では、金のやり取りよりも物々交換の方が主流な時もあるので、一概には言えないが一般平均収入は20万イエン……それが食える冒険者は月に40や60万イエンと聞くと夢があるよね!……下手したら死ぬけど
大体挑む目安は階層=パーティの平均レベルの様で
俺達の場合だとケンブがレベル20になったみたいなんで20層辺り迄は挑戦してもいいみたいだ、他の皆がちょっとキツイかもしれないけどそこは俺がカバーすればいいしね。
上位層に行けば行くほどその限りではないようだけど、大雑把にそんな認識で良い様だ。
その基準で行くと、俺は今レベル54なので50層超えの一流冒険者と名乗っていいだろう……2年近く経ってるのにレベルが上がる所か下がっているが、その分強くなったんだ!レベルアップ酔いに!
今日も今日とて……
「ゥオエエエエエエェェェッェーーーーーーーッ……」
「わーーー!兄ちゃんがまたゲロンチョーーー!!」
レベルを65迄上げた所で、一気にリバースして53まで下がった……上がった所を叩き落されて、一種のダウナー状態になる……鬱だ、死のう的な……
世界がグルグルと廻り揺れているが、可愛い妹が心配しているので兄として平気な所を見せなくてはならない。
「大丈夫だ、キョウ……兄ちゃん魔法が使えるから。『消去』!」
神聖なる光が便器にぶち撒けたゲ○の存在を消していく……生活魔法である『清潔』の上位魔法とも呼べる神聖魔法。本来は彷徨える亡霊や、不浄なる亡者を浄化する魔法である……
不浄なるゲ○を浄化するのに使ってるのは俺位なんじゃなかろうか……埃や汚れなんかを落とすクリーンと違って、ある程度の固形物すら消去してくれる便利魔法なので好んで使っている。粗相の後始末にはホント最適である!
と言うのも、魔法を使う為のポイントであるMPも結構な量を持っている俺なのだが、使う術を持たなかった……だが、成長し身体が出来上がって来たのだろう。気門とも言うべきチャクラが開いた事によって、出来る選択肢が増えた。
10歳から5年近くステゴロで戦ってきたのもあるのだろう。すっかり格闘士道まっしぐらな俺は、魔力消費による肉体強化の術や、神聖魔法に対する適正が出て来たのである。かめは○波は出来ないけど……
そんでもって、今やってるのは神聖魔法の修練でもある。別にメインの修行じゃないけど、ついでだからやって損はないのでやっている。
まず俺には酒限定の女神の加護がある……酒に関する事なら何かと優遇された加護なのだが、これがスキルにも効果があった。
最初は3歳の時に酒瓶を持ち上げただけで腕力が上昇し、4歳の時にはなみなみと酒の注がれた子供には大きめのコップに握力を振り絞ったら更にスキルレベルが上昇したりだ。
酒に関する事どころか、酒を関連させればスキル上昇率が跳ね上がるのである……存外、都合のいいチート能力もあったもんだ……
お蔭で、通常ならば厳しい修行を重ねに重ね、辿り着いた先に使える神聖魔法の秘術もお手の物だ。退魔の術をゲ○消去に使うのも楽勝である。
酒で粗相をする等、酒飲みの恥である。イレースに関してはメキメキと腕を上げ、今では詠唱など必要なくなった……それで新たに覚えた技もあるのだが、それは割愛でいいだろう。
なんせ俺が目指すは強くなる事ではあるのだが、物理的な強さなんか目指してはいない……目指すは酔いに!忌々しきレベルアップ酔いに強くなる事なのだから!
今の目標はスピリタスをショットグラス一杯分の量を飲めるようになる事。レベルにして20~30上昇分と言ったところか……漸く一気にレベルが10上がっても平気になったが、11の時点で駄目だった。
くっそ地道に努力してここまで耐えれる様にはなった……これに関しては加護の範囲外なのでひたすら修練あるのみだ……ザルとは、呑兵衛とは何だったのか……
スピリタスを半分減らしても酒精は一切回ってないので効果はあるんだろうが、ホント意味ねーよ……
注いだ酒を戻すのも酒飲みとして負けた気がするので、こうして頑張ってる最中なのである……だったら、飲める分だけ注げよって話なんだが不思議だね……飲もうと思った分、以上に注いじゃうからアル中なんだ……
自分の中で満足出来る量を飲むためなら努力を惜しまないのが俺の美学だ。コップ一杯分のスピリタスを飲むための副産物でモンクとして一流になっているが、それは大して重要じゃない。俺は村人で、趣味と実益がてら偶に冒険者をやるだけなんだからな……
「兄ちゃん、まだおちゃけ臭い!」
「あい……ごめんなさい。消臭」
子供は厳しい!そして強い、勝てるけど勝てない存在だね……アイレンといい、キョウといい女の子に弱い悲しい男の性である。
だって、可愛いからね!俺が11歳の時に産まれた現在3歳の妹は、3歳のくせによくしゃべる。
10歳時点でモンスターを大々的に狩り始め酒を飲む手の掛からない不良息子を放任し、両親がギシアンして出来た年の離れた妹の世話も俺の日課になっている。
俺にはアイレンの作るお菓子という、子供に対して絶大なアドバンテージがあるので懐いているのもあるしな。本当にキョウはアイレンが大好きである……
キョウの好きな人1番は母ちゃん、2番がアイレン、3番を俺と親父で熾烈なデッドヒートを繰り広げているが……僅差でアイレンを連れてくる俺の上である。要はお世話したいんだよね……可愛いから。
アイレンもキョウが大好きだ。もはや俺達は両親共に公認で、最初は嫌われる迄おっぱいを揉み続けるつもりだったのだが、ヤンデ……一途なアイレンは失恋という言葉を知らない。このままアイレンが15歳、俺が16歳になったら一緒になるのは時間の問題である。
そうなると俺にはアイレンの、いつの日か産まれてくるであろう子供の扶養義務が発生する。それを稼ぐ為にも、高額な収入源であるダンジョン探索は魅力的だ。
気を付けないとこの世界、毎年の税金が払えない場合、奴隷に落ちる事がある……もしもの時の金を持っておかないと駄目なのに、貯め込むとそれに伴う危険も発生する。
金を預ける金融機関が存在しないので、毎年税金を払う年の初めには厳重な警戒の元、国が取りたてに来るのだ……その時に払えないとアウトだ。
特にこの村は開拓村で、領主が統治する様な直轄地ではない。お高い税金を払って、国の保護が最低限受けれる不条理なド田舎なのだ……正直割に合わないが、こんな辺鄙な所を治めたい奇特な領主がいないので仕方ないのだろう。
酒だけ飲んでいければそれでいい俺だけど、外堀は完全に埋まってしまっている。取らねばならない男の責任もあるので、これでも少しは将来の事を考えているのだ。
それで辿り着いたのが飲んで強くなり、吐いて弱くなる方法である。なんで弱くなる必要があるんだよと思うだろうが、俺は今まで村人としてレベルを上げて来た。
村人レベル50以上ってのも相当珍しいと思うが、戦闘職として上がった訳じゃない。それよりもモンクとしてレベルを上げた方が、より強くなるので下がるのも大事な事だ。
特にモンクの強靭な肉体は、貧弱な防御力の村人の身体を鋼の鎧に変えてくれている。そういった補正の違いがあるので、本当は1から上げ直した方がいいのだろうが……それをやると吐きすぎて死ぬ。多分精神が死ぬ……転生前にノロウイルスにかかった時位、吐かないと駄目だろう。あれはゴメンだ……
こうして弱くなったり強くなったりを繰り返してはいるが、確実に村人レベル56よりも、今のモンク53の方が強いので効果は出ている。
酔いに強くなるのは難しいけど、物理的に強くなるのは簡単ってんだから世の中ホント間違ってるね……最初に女神様に望んだ事と真逆だよ……
「おーい、ドモン。そろそろ出発しよう、今日は山の奥まで行きたいから早めに出ようよ」
「ケンブ兄ちゃんだ!」
くっ……キョウはケンブも好きなのである。14歳になって金髪イケメンに磨きがかかったケンブは街に出たら女の子達の注目の的になる……対する俺は……アイレンがいるので他所の女の子を見る事すら出来ない……くっ
アイレンもビャクカも、その辺の女の子では霞む位の美少女に育っているがそれとこれとは別問題だしな……くっ
「ケンブよ……キョウが欲しくば俺を倒してからにして貰おうか!」
「僕を勝手にロリコンにしないでくれるか……?フォウ達が待ってるんだから馬鹿な事言ってないで行くよ!」
「ケンブ兄ちゃんはゲロンチョしないから、兄ちゃんもゲロンチョしちゃ駄目よ?アイレン姉ちゃんに嫌われちゃ駄目よ?」
くっ……一理ある……どうすればアイレンに嫌われるのか最早想像もつかなくなってしまったが、格好悪い所は見せないにこした事はないよな。
「それじゃあ行ってくる、お土産持ってくるからいい子にな」
「うんっ!行ってらっしゃい!」
ケンブも可愛い妹だと思っているキョウには何だかんだで甘いので、物で釣ってアドバンテージを確保しておく。ちょっとまだ足元がふらつくが、一時期よりも大分マシになった。
フォウ達3人と合流して、初心者と中流の合間となった俺達オールブラックスは、平原よりも敵の強い山の担当になった。
敵を倒すよりも酒飲んでる方がレベルの上がる俺は置いといて、皆も18~20レベルになっている。この調子なら山で後1年も戦っていれば25になるのは堅いだろう。
十分高額収入が目指せる層に挑戦できるはずだ。ケンブやビャクカは上を目指したがるだろうが、俺は安全な範囲で稼ぎたいのでのんびり進む事になると思う。
「この反応……ノートリアスモンスターの『グリフォン』……」
すっかりハンターとして成長したビャクカは段々と感情を表に出さなくなって来た……無口・無表情キャラになりつつある。獲物を狩るハンターが無駄口叩いたり、気配を振りまいていたら狩れる獲物も取り逃がすからだろうが、すっかりクールビューティになっている。
アイレンとは対照的と言っていいかもしれないが、アイレンもヤンデレモードに入ったら表情が消えていくのである意味似た者同士かもしれない。ってか、ギャップ差が激しい分、より恐怖を感じるアイレンよりも一貫しているだけマシだろう。
その分、酔っぱらったフォウに絡まれて泣きそうになってたりすると、より可愛く見えるのも普段とのギャップ差だろうか?滅多に感情が出なくなって来てるけど……
そんなビャクカが折角見つけてくれた獲物だ、早速倒すとしよう。
「まかせろー!ほわたぁ!!」
上空10メートル位を飛んでいたグリフォンだが、魔力による身体強化を使った一っ跳びで到達し、グリフォンの顎にアッパーを叩きこむ!
俺の一撃にグリフォンは頭部が爆発した様に破壊され、墜落後魔石へと姿を変えた。
動きの速い物をイレースする事は出来ないが、拳で直接敵へと叩き込む事で、敵の内側から破壊するモンクの必殺拳『菩薩掌』である。
かめはめ○は出来ないけど、北斗○拳は出来る様になったよ!