飲みたきゃ作れ!
「おーし!こんなもんでいいか、そっちはどうだ?」
「一杯になったよ~ドモンちゃん!」
「でも、こんなにプララムの実を採取してどうするの?ココットの実は分かるんだけど」
籠一杯に貯まった果実を持って、アイレンとフォウが答えてくる。
俺達が取った二つの果実……プララムはどう見ても梅、ココットは杏子である……近隣の山に入れば、春先になったらそこかしこに群生している
甘い杏子の果実はともかく、青梅はそのまま食べたら腹を壊すし最悪死ぬ可能性もあったりするからな……アルコールで消えるけど、種はどっちの実も気を付けないといけない
そう!俺がやる事なんか一つしかない!これから梅酒と杏子酒造りだ!準備は大体整った、後は仕上げを御覧じろだ!
ここまで来るのにも長かった……段々と実力を認められる事になった俺達、オールブラックスは村の自衛の為に近隣モンスターの駆逐……『ガード』の仕事も任される様になった
俺達の村には3種類の仕事に就いている人達で成り立っている
一つは、俺やケンブの両親達の様な農民……第一次産業に従事している人達
次に、フォウの父親の様に道具や物を作る製造業に従事している人達……第二次産業だな
最後が、この世界に蔓延るモンスターの危険から村人を守る人達の事を『ガード』と呼んで、その仕事の別称にもなっている。ビャクカとアイレンの両親がそうで、元は冒険者って職業だったらしい。
この世界で無駄に農地を広げたりしようものなら、モンスター共の恰好の餌食である……極めて限られた範囲でしか生活出来ない傾向にあるのだ
優秀なガードが集まる土地は、それだけ領土が拡大出来る。それが更に人を集め、更に巨大な街へ、都市へと発展していくのだが……残念ながら俺の村はド田舎だ
そらもう辺鄙な場所の辺鄙な田舎である……それが色々と功を奏している部分がある、それがこの天然で自生している豊富な自然だ。正直、滅茶苦茶助かる。色々と計画倒れになる所だったしな!
「それじゃあ村に戻るか!アイレン頼む」
「うん!任せて」
籠一杯の果実の重量もマジックバッグにかかれば、お手軽に持ち運べる。アイレンも買ったけど、俺も欲しくなってくるな。まぁ余裕が出るのは、当分先だけど……いやはや、ファンタジーって便利だね!
「お待たせ~ディエンさん。頼んでた物出来てる?」
「ああ、ドモン。フォウもお帰り」
「只今、お父さん。またすぐ出掛けるけど、すぐ戻って来るから」
村に戻って来た俺達は、フォウの家……この村唯一の酒職人と呼べるディエンさんの元にやって来た。
この村の特産品にもなるワインを作っている所は他にも数件あるが、ディエンさんはそれを単式蒸留機にかけて、焼いたワインが語源でもある……ブランデー作りの職人さんでもあるのだ
残念ながらブランデーは国に年貢として納める高級品の一つなので、庶民である俺達には縁がない……俺がいつも飲んでいるのは、この村で作ったワインだけだ
大腕を振って飲めるようにはなったけど流石に2年も同じワインばかりを飲み続けると飽き……いや!酒に飽きる事は無いけど、偶には違う物も飲みたくなってくるのが人情ってもんだ!
が、残念ながらブランデーは直に買える物ではないので、一度流通に乗った物を買う必要になるのだが……おのれ小売価格ェェ……
こんな全員が顔見知りのド田舎では、卸値にオマケが効いたほぼ原価の価格で飲んでいると買うのがバカらしくなってくる
だが自分達用に同じ物を作るのはご法度らしいので、俺でも作れる酒を造ろうと思ったのが現代のご家庭でも作れる梅酒・杏子酒である
「でも、こんなに大量のホワイトリカーをどうするつもりだい?幾ら酒好きのお前でも、そのまま飲んでも無味無臭だよ?」
「これから使うんだよ!出来たらおっちゃんにも持って来るよ、1年かもうちょい先だけど!」
「へーそれは楽しみだ、ドモンが手伝ってくれると酒の出来が凄く良くなるからな……ウチの子になって欲しい位だ!」
「冗談でしょお父さん!ドモンにはアイレンがいるの!こんな変態まっぴら御免よ!」
「凄く魅力的な提案ですなー」
「ドモン!?あんたねぇ!//////」
お姉さんぶりたがるくせに、まだまだおこちゃまなフォウは放っておいて大量のホワイトリカーを受け取る。ガチで嫌われている迄はないしな、我ながら不思議だ。
俺もこの家に産まれたかったぜ……残念ながらフォウのお母さんはフォウを産んで、すぐ亡くなっている。親一人、子一人で助け合う仲の良い親子なのだ。
仕込みの時期には俺も興味津々なので手伝わせて貰ったが、俺にはなんせ豊穣の女神の加護がある……酒限定で!
そのせいなのだろうか、俺は酒作りに失敗した事がない……全身全霊を込めて、打ち込んでいるのもあるしね!
今回貰ったホワイトリカーは飲用ではなく、消毒用のアルコール一歩手前……とてもじゃないが飲めた物じゃない、アルコール成分を抽出するだけの酒や醪を蒸留して繰り返して出来上がった物だ
エタノール分だけが抽出されていくので、ほぼ無味無臭で酒としての味は一切無い。度数が高いだけの液体だ。
どうせならお酒は美味しく飲みたい、それはもはやこの世界の俺の使命だ!俺はその気になれば合成酒の様な酢や……あるか分からないが味りんでもレベルが上がる
家の中にある唯一の酒類である酢……どっちかと言うとビネガーかな……でも飲んだらレベルが上がった……5歳位の時に、半分やけになって呷ったんだけどね……
でも俺はレベルを上げたいんじゃなくて、酒を飲みたいのだ!酢じゃない!
上がった方がいいとは思うが、吐いたら下がるのでリスクはデカイのだ……後、精神的ダメージも!
なので今回の梅酒作りは、俺の最重要課題と言っても過言ではない……レベルも50を過ぎた辺りから上がり辛くなってきたしな
50もあれば一流冒険者って名乗っていい世界みたいだし、冒険なんかする気は無い。俺はこの村で一生を終えるだけだしな!レベルは関係ない、あると便利位の物なのだ
親の畑の手伝いもするし、酒作りのノウハウも覚えて、ガードの仕事もこなせる俺はこの村で仕事に困る事はない。そう考えると、酒限定の加護でも十分にありがたい物である。
女神からやっぱり女神様に戻して感謝するとしよう!
残る最後の問題、それは……
「ドモン、言われた通りこの芋の根を絞って煮てるけどこれでいいの?」
「どうするんだい、この芋あんまり美味しくないよね?」
ビャクカとケンブが指示したとおりの事をしてくれている……ケンブ、ワレェ芋食ったんか!?
「そりゃ芋として食う物じゃないからな、ちょっと貰うぞ……これを焦がさない様に、灰汁を取って水分飛ばしていくとだな……」
「「「「あま~い!」」」」
テンサイ……サトウダイコンは結構広い地域で栽培されてるからね、高価な砂糖も現代知識にかかればチョロいっすわ!
でもまだだ!まだ、終わらんよ!!
そう、これで終わってもいいのかもしれないが俺がお酒様に対して妥協する事なぞ在り得ないのである!
目指すは氷砂糖だ!真面にやったら莫大な手間暇が掛かる氷砂糖もファンタジーならお手軽だ。
その為にグラニュー糖成分のテンサイを選別して、畑を耕して、この一年を待ったのだ!
まずは水に対して倍の濃度になる様に砂糖を調節、これを人肌程度に温度も調節する
この中に糸等で吊るした種糖を加えて再結晶化させる……これが普通にやったら、これだけで一日か二日待つ事になるのだが
「アイレン頼む」
「うん!任せて」
アイレンの回復魔法で、この溶液の中身を活性化させるとみるみる内に結晶が大きくなり氷砂糖……ロック氷糖になっていくのであった……ファンタジーってばホント便利!
後はせっせと煮詰めては、溶液に入れて氷砂糖を大きくしていくだけだ!
本当はこの後、遠心分離機にでもかけたい所だが、振り回したくもないので風魔法で乾かしていく。
「綺麗……」
「宝石みたい……」
フォウとビャクカがうっとりしているが、MVPはアイレンなので結構な大きさになった氷砂糖を砕いてアイレンに渡す
「甘さが濃縮されてるから甘すぎるけど、アイレン達なら好きだろ」
「すご~い!おいし~い!あま~い!」
「いいなー、アイレン……ドモン、僕たちにも分けてよ!」
「おう、虫歯に気を付けろよ!これをもう何個か作りたいから、先払いだ!」
アイレンの食レポに、食べ盛りの子供であるケンブが耐え切れなくなった様だ……出来上がりまで我慢出来そうにもないから、まずは一欠けらづつ渡していく。
その間、俺はアイレンに水洗いしてアク抜き後、乾燥してへたを取って貰った梅……プララムの実を瓶の中に入れて、氷砂糖、さらにプララムの実の順に敷き詰めていく……
この世界の瓶は洗って何度でも使うので、20個程の瓶を用意するのにも苦労した。5リットル程の便を20個……100リットル分だ!チビチビ飲めば1年持つだろ……多分……
砂糖の方が今ある分で足りるか分からないが、足りなかったらショ糖のテンサイでも試してみるか……結晶化するんかな?無いなら無いで、一個位氷砂糖無しで漬けてみるのも面白そうだ
折角自分で作るんだし、色々試してみるのもありだよな。
しかし、それもまだ漬け終わっても完成まで一年は先の話だ。どうせなら最高の状態まで持っていきたいから、一年半か?くぅ~待ち遠しいね!
だから今は……
「今日はありがとな!アイレン!」
「にゃあああぁぁぁ/////」
「「「もう怒る気も起きない……」」」
もはや俺がアイレンのおっぱいを揉むのを、誰も止める事は無くなった。1年365日休まず続けた結果である……
これがあれば、1年位は余裕余裕
砂糖いれないとエグ味が出るそうなので、自分ではやった事ありませんが試される方がいらっしゃったら自己責任で……もし既に試されている方おられたら詳しい感想を教えて下さい