#1
ちょっとでも楽しんで頂けると嬉しいです。
髪は金髪。
その上、ばさばさ。
どこからか海の香りのするその人の名を、シャノン。
泥棒でもないのに、一軒の旅館の廊下を隠れるようにして、進む。
「あら、シャノンさん、おかえりなさい」
仲居の池野さんが、膳を持ったまま挨拶する。
彼は、会釈して答える。その怪しげな動きに、彼女は首を傾げたが、すぐに通り過ぎていった。
―― この川をー通り抜けたらー…お前と一緒に…
どこからか、大きな声が、音楽と一緒に響いてくる。
カラオケである。
旅館で、宿泊客の誰かが心地よさそうに歌う声が響いてくる。その部屋の前までくると、シャノンはふすまを開けて、中を覗き込んだ。
―― お前とー一緒にー!
大音量が聞こえて、シャノンはまた閉めた。
「ここじゃない…」
「これ、牡丹の間です、こっちは桜の間、お料理似てるから間違えないように…」
若女将の美沙は、仲居たちに指示を出す。その横には、眠そうな顔をした女の子が一人。8歳くらい。
「若女将、これできました」
料理長が、美沙に皿を出した。黒髪が綺麗な若女将こと美沙。彼女はそれを受け取ると、膳に並べて、仲居に渡す。
「ユリの間です」
その時。
「姉さん!」
静かな声が聞こえて、美沙は振り向いた。
「姉さん!」
「シャノン!」
目を丸くして、美沙は調理場に顔だけ出しているシャノンに近づいた。
「何してるの?何でここに来てるの?来るなら言ってよ!」
驚いたように、美沙は顔をしかめた。
「ゴメン、姉さん最近こっちにこないからさぁ…」
「女将に見られないうちに、帰りなさい」
「いや、違うんだ、言おうと思ってきたんだよ」
「何を?」
「破綻…」
「そこで何をしてるの?」
その時。二人の後ろから声がして、二人は驚いた顔をして振り向いた。
女将だった。
「シャノンさん、いらしてたの?連絡をよこしてから来るって約束でしょう」
凛とした声。
「すみません、何か用事があったみたいで…」
美沙は言い訳がましくそう言った。
「まぁいいわ、あなた力あるかしら?」
「え?」
お読みいただきありがとうございました。