1何で?
「ものの研」
そう書いてある小さな板が、古びたドアに掛けられていた。
学内のサークル棟と言われる建物の地下の一番奥。
人の気配など全くしないところだった。
そして、わたしが持っているビラにはこう書いてある。
”もののけ研究会で、学生生活を楽しもう。
不思議な事、奇妙な事、大好きな人。
ものの研で私達と世の中の不思議を解明してみませんか?
見学だけでも、オッケー。
一度部室に顔を出して下さいねー”
そんな文章と女の子がピースサインをしているイラストがビラには書いてあった。
でも、わたし‥‥何でここにいるの?
別に不思議な事が好きなわけでも、奇妙な事が好きなわけでもない。
大学の新入生歓迎式典の時に、偶然このビラを握らされただけだ。
しかも、わたしの知らないうちに‥‥。
誰が握らせたのかもわからない。
わからない わからない わからない。
わたしの頭の中は混乱するばかりだ。
「そこ、鍵閉まってるわよ」
わたしが混乱の中で固まっていると、頭の上で声がした。
振り向くと、背の高い、ショートカットでスタイル抜群のモデルのような女の人が立っていた。
「ちょっとどいて、今開けるから」
女の人は腰を屈め、バッグから鍵を取り出し、ドアを開けた。
「入って、あんまりキレイじゃないけど、お茶入れるよ」
「あ、失礼します」
何でわたし、中に入ってるんだ?
部室の中は意外と広く、12畳位の部屋が2部屋。
わたしが通された部屋は、中世ヨーロッパを思わせるような、格調高そうなソファーにテーブル。それに、王様が座りそうな背もたれのやたら大きい椅子が置いてあった。
天井からは、大きなシャンデリアが取り付けられている。高そうだな。
ってここ地下?やたら天井高いんですけど。
もう一つの部屋は‥部屋は‥。
もやもやして中が良く見えない。
しかも、あの女の人がドア閉めちゃった。
「一応ローズティーにしたけど、お砂糖は自分でいれてね」
隣の部屋からあの女の人がティーセット?
をトレイに載せてやってきた。
給湯室かなあ?
「適当に座ってね」
女の人は、ダークブラウンのマッシュルームカットでサラサラ。目は大きく、鼻も口も小さい。しかもスレンダーボディーに八頭身。
すごい美人だ。
ティーポットからカップに紅茶を注ぐと、薔薇の甘い香りが部屋いっぱいに広がる。
「どうぞ、紅茶。趣味なんだ」
わたしにカップを差し出し、ソファーにちょこんと座ったわたしの対面に腰を下ろし、タイトスカートから伸びた長く細い足を組んだ。
「私は、ここの副部長の牧口ゆに」
「あ、鈴木 七瀬です」
「知ってる。確か、政経の一年生よね」
ゆにさんは、自分のカップを薄くルージュを引いた唇に当てた。
「タバコを吸っていい?」
「あ、どうぞ」
何で知ってるの?
一度冷静になりかけた、頭がまた混乱し始めた。
「あなた‥‥、七瀬さん? 何でここに自分がいるか、何で私があなたの事を知ってるか混乱してるでしょ」
タバコに火を点けて、煙を吐きながらイタズラっぽい目でわたしを見る。
美人がそんな目をするのはズルイよ。
でも、何で、そんな事わかるの?わたしの心の中を読んだの?
「そういう事になってたのよ」