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幕開け

直貴と同居をし始めてから半年と少しが経った。僕と直貴はすっかり馴れ合い、端から見れば「仲の良い兄弟」に見えるくらいになった。


「直貴、買いすぎじゃないか?」

「いぇ、これくらいが丁度良いんスよ。…てか彰さん、少食すぎますよ。もっと食べないと…」

「…余計なお世話だ」

僕と直貴は、今日の夕食の買い出しをしている最中だった。


いつの間にか直貴は、僕の事を「お兄さん」から「彰さん」と呼ぶようになっていた。

随分前に、「彰さん」と呼んで良いか、という許可を求めてきたが、僕にはそれ程深刻な問題は無かったため、OKを出したからだ。


「ねぇ、彰さん。昨日は俺が払ったんだから、今日は彰さんが払う番だよね?」

直貴がニヤニヤしながら聞いてくる。

「…あ、あぁ」

僕は曖昧な返事をした。そしてズボンの後ろポケットから長財布を取り出し、中身の金額の計算をする。

その様子を暫く黙っていた直貴だが、

「…え、何?もしかして彰さん、金無いとか?俺、貸そっか?」

と、不安げに僕の顔を覗いてきた。

「いや、充分足りるよ。…ありがとな」

僕はそう言い、レジの方へと向かって行った。




今日の夕食はしゃぶしゃぶだ。

別に記念日とかそういうのでは無いけれど、"セール"という言葉に反応して、沢山肉をスーパーのカゴの中に入れてきた、どこかのバカのせいで肉を大量消費しないといけなくなったからだ。


「…それにしても、凄い量ね。…今日だけで食べきれるかしら…?」

お母さん――正しくは直貴のお母さんなのだが。が、苦しそうに腹部を押さえて訊ねてくる。

「賞味期限、今日までなんだよなぁ…?…頑張るしかないだろ」

お父さんは気合いを入れて、全て食べきろうとしているらしい。


…皆必死だな……

ちょっと罪悪感を感じた僕が、箸の動きを止めた時、隣に座っていた直貴がそれに気づいたらしく、

「…彰さん、全然箸動いてないじゃん。…ほら、口開けて?…はい、あ~ん」

僕の口元までお肉を運んできた。

「えっ、あっ…、ちょっ……、自分で食べるから良いよ!」

僕は慌てて身を反った。

「……へぇ、じゃあ後のやつ皆、彰さんが一人で食べてね?…ごちそうさま」

直貴はふてくされたようにそう言うと、席を立ち、部屋へと戻って行った。


「…こらっ、直貴!……ごめんね、バカな弟で…。後のお肉は全部冷蔵庫に入れておくから…」

勝手に席を立ち、僕に暴言を吐いてきた直貴の事を怒り、お母さんは僕に笑顔を向け、残りのお肉料理達を冷蔵庫へと戻していった。

「……いえ、別に僕は」

…大丈夫。

そう言いたかったのだが、

「…このままだと、やっぱり彰に迷惑を掛けてしまうわよね…」

「……え?」

お母さんが申し訳なさそうな顔をしながら、お父さんに言った。

お父さんは一度こっちを見てから、

「いや、大丈夫だろ。彰は打たれ強いし」

と、笑みをこぼした。

「……そうかしら」

尚も心配そうにしているお母さんに、今度は僕の方から言うことにした。

「全然迷惑なんか掛かってないし、むしろ昔より、今の方が楽しくて僕としては、このまま直貴と一緒に居たいんだけど…」

僕の意見を聞き、お母さんは一瞬驚いたような、嬉しそうな顔をして、

「……そう。なら良かったわ。…これからも色々、面倒を見てあげてちょうだいね?」

と言い残し、台所へと去って行った。




僕の部屋と直貴の部屋は同じだ。

元々は僕が使っていた部屋なのだが、直貴と同居する事になって、あまり部屋数の無いこの家の中で、唯一少し空間が広い部屋が僕の部屋だったため、直貴もずっと、僕の部屋で過ごす事になった。


「…直貴、シャワー空いたよ」

僕が風呂から出てきて、部屋に戻ったら何時も交わす会話。

…なのだが――

「…直貴?」

直貴からの返事が無く、心配に思った僕は、僕と直貴の部屋を区切る仕切り(カーテン)を開いた。

「………??」

そこには直貴の姿は無かった。

……コンビニにでも出掛けたのかな?

そう思い、僕の部屋(空間)のカーテンを開けると…

「………直貴!?」

「…っ、彰さんっ」

そこには僕のベッドの上で、寝転んでいる直貴の姿があった。

「……え?何してるの?」

僕の冷静な質問に対し、直貴は随分と慌てた口調で、

「いっ、いや何も。別にっ」

と言い、ベッドから降り、カーテンを捲ろうとしてきた。

僕は直貴の腕を掴み、直貴の動きを止めさせた。

「何も無い訳ないだろ。勝手に人のベッドの上でくつろいで…。…事情、話してもらおうか?」

僕が直貴を軽く睨むと、直貴は目を伏せた。

「………直貴」

名前を呼ぶと、肩がぴくり、と動く。

「黙っていたら何も判らないぞ」

僕が宥めながらも、追い討ちをかけるように言うと、遂に直貴が口を開いた。


「…判らないなら、その方が良いです。…彰さんは何も知らなくていい…」

「………っ!!」

…驚いた。第一声がそれだったから。

「…直貴、お前ケンカ売ってる?」

少しキレ気味に僕が聞いたら、直貴は静かに首を横に振り、

「…そんな事ありません。……ただ、彰さんには知られたくない事があるだけで…」

語尾の方は、ゴニョゴニョ言っていたため、聞き取りにくかったが、とにかく僕には言い難い何かがある事が判った。


僕は小さくため息をつき、

「…何で僕には言えないの?お前は僕に、何を隠してるの?」

さらに直貴に尋ねた。

直貴の方はというと、焦点をキョロキョロとさせながら黙ったままだ。

「直貴っ!!!」

僕は直貴の腕を掴んでいた手の力を強めた。

「………っ!!!」

…と、その瞬間、直貴の頬が赤く染まった。

「……あ、彰…さん」

普段とは似つかず、弱々しい声が静かな部屋に響く。

「……直貴、お前…」

僕は察した。

「……彰…さん…」

直貴がどうしても僕に言えない秘密。


それは――


「…熱、あるんだろ。で、俺が心配しないように僕には何も言わないようにしてるんだろ?」


「……………え」

直貴のこの反応を見る限り、僕の推理は間違っていたのか…?

僕が唖然としている直貴の方を見て、正解を尋ねるが、やはり直貴は正解を言おうとはしなかった。


「……直貴、何で答えないんだ。別に正直に答えても、僕は何も驚かないし、失礼な態度をとることもない」

僕は真剣に、直貴の目を見て言った。

直貴は少し間を置いた後、ゆっくりと口を開いた。


「…あまり俺に触れない方が良いですよ」

「……え?」

直貴の発した言葉の意味が理解出来ない。

直貴は続けた。

「……俺に触れないで下さいっ!!!」

「………っ!!」

直貴は涙目になりながら、僕を睨んだ。

「……直貴」

僕は直貴の腕を掴んでいた手を静かに放した。

「……なんか、変な事言って、ごめんなさい」

直貴は僕に背を向けながら言う。

「…いいよ。僕が直貴の気に触る事をしちゃったんだから」

僕は直貴が何を嫌がっていたのか、なんで嫌がっていたのか判らないまま、直貴に謝った。


「…違う。…彰さんは悪くない」

僕が境になっているカーテンを閉めようとした時、直貴が急に口を開き、此方を振り返った。


――そして

「なっ、直貴……っ!?」

直貴が僕をベッドの上に押し倒してきた。

あまりにも急な出来事だったので、僕の頭は整理出来ない。

「…直貴っ?」

直貴はベッド上で、上から覆い被さるような状で僕を見ている。

「………ごめんなさい」

「……へ?」

直貴は謝った後、

「……身勝手な俺を…許してくれませんか?」

そう言い、僕の唇に彼の唇を重ねてきた。

「……………っ!!!???」

僕は突然の直貴の行動に、ただただ戸惑うばかりだ。


「………っは…」

長いキスの後、直貴の口から吐息が漏れる。

「…俺、ずっと我慢してたんですよ。彰さんと義兄弟になった時からずっと…」

直貴は俺の上に乗ったまま、話を続ける。

「…好きです。貴方の事が」

「………っ」

誠実な彼の告白に、僕はどんな対応をしていいのか判らず、目を反らした。


彼は、一つ付け足しみたいな感じに、

「…あ、でも俺、別にゲイな訳じゃないですから!!…って言っても彰さん好きになった時点でゲイか…」

と言い、少し笑みをこぼした。


…………綺麗だ

直貴は世間一般の人が見れば、間違いなくほとんどの人が声を揃えて「美男」と言ってもおかしくないほど、綺麗な顔立ちをしている。

…彼は僕に想いを伝えてきたんだ。…僕も少しは本音を言ってもいいかな…?

僕は切なげに微笑む彼に向け、ずっと思っていた事を言おうと決断した。

「……直貴は綺麗だよ。僕なんかじゃ勿体ないくらい綺麗だ」

「………っ!!」

僕は彼を誉めたつもりで言ったのだが、

「……それって…、勿体ないって…、俺なんかじゃ彰さんの恋人にはなれないっていう、遠回しに嫌ってるっていう意味なんですか!?」

彼は何か、変な誤解をした。

「…え?あ、あの…」

僕が答えに困っていると、直貴は小さなため息をつき、

「やっぱり俺なんかじゃダメですよね…」

ゆっくりとベッドから降りた。

「……えっ、ちがっ…、そういう意味じゃなくてっ」

僕が慌ててカーテンから出ていこうとする直貴を止めようとすると、直貴は振り返りもせずに、静かに言った。

「……じゃあ、違うなら何なんですか?…俺と付き合っても良いって、承諾してくれるんですか?」

「………っ!!」

困った。

僕はそこまで考えていなかった。彼は僕の事が好きなんだ。…付き合って欲しいとまでも言ってきていたんだ…

僕は少し考え、大分間を置いてから、直貴に向けて言葉を発した。

「……判った。承諾するよ」

「………本当…ですかっ!!??」

直貴は直ぐ様振り返り、僕を見ながら言った。

「…あぁ。僕は直貴と付き合う事にする。……って言っても男と付き合った事がないから、どういう付き合い方をすれば良いのか判らないんだけどね」

僕が苦笑を浮かべながら言うと、彼は優しい瞳で僕を見、

「大丈夫です。…俺も男と付き合った事は無いですけど、彰さんのために一生懸命勉強しますから」

微笑みながら言った。




―――こうして、僕と直貴、義兄弟同士の禁断の恋愛が幕を開けようとしていた。

一つ忠告しておきたい事があります。

直貴なのですが、

『なおき』

ではなく、

『なおたか』

と読みます。

大変ややこしい読み方ですが、このような間違えやすい漢字を使った場合は以後、前もって伝えておきますので、今回の事は深くお詫び申し上げます。

すみませんでした。

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