兄弟
序章
「はじめまして。…今日から弟となります、直貴です。…これからどうぞ宜しくお願い致します」
僕、九条彰が二十歳の春、僕に腹違いの兄弟が出来た。
弟の名前は、麻萓直貴。近くの高校に通っている学生だ。
僕は高校卒業後、直ぐに親の友人が経営しているフラワーショップに勤めたため、もう立派な社会人だ。
「お兄さん、俺の荷物、どこに運んだら良いですか?」
直貴が引っ越しトラックから下ろされて玄関に置いてある段ボール箱を両手で重そうに持ちながら聞いてきた。
「…そうだな。まだきちんと部屋が決まってないから…、俺の部屋に運んでおけば良いよ」
「えっ、良いんですか!?…有り難うございます」
「…いいよ別に…。そんな事より、運ぶの手伝おうか?」
僕が手を伸ばすと、直貴は申し訳なさそうに頷き、
「…すみません。お願いします」
と言った。
僕の母は僕が小さい頃に交通事故で死んだ。
信号無視の車に跳ねられた、と父は言っていた。
ずっと男手一つで僕を育ててくれていた父だが、同じ会社に通っていた二歳下の女性……直貴の母。と恋に落ち、やがて式を挙げる事になった。
「……よし、これで荷物は全部運んだよな?」
僕が腕で汗を拭っていたら、直貴が上着のポケットからハンカチを出して、僕に差し出してきた。
「はい。本当に助かりました。有り難うございました」
此方に向けてきた直貴の笑顔は、男の僕でさえも少しドキッとするような美しい顔だった。
―――これが僕と直貴との同居生活の始まりだった。