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稲の精  作者: 抹茶あいす
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灯籠流し

盆踊りのあと灯籠流しが行われました。


村を流れる小川のほとりにみんな集まって、思い思いに手づくりの灯籠を浮かべます。

灯籠の中には供え物か入っていて、線香とロウソクが立っています。


水面には月影が映ってゆらゆらしていました。


稲の精はきょとんとした顔を僧に向けました。


これはね、死者の魂を弔っているんだよ。

あちらの世界に逝ってしまった大切な人と、きちんとお別れをするということなんだ。


そうすることで、私たちをまた見守ってくださるんだよ。


稲の精はにこりと笑いました。



ある国では川の女神さまに感謝と謝罪の気持ちを込めて灯籠流しをするそうです。

この灯籠は昔はバナナの葉っぱで出来ていました。


稲の精はゴクリとつばを飲み込みました。


あははは

おまえは食いしん坊だなあ。



たくさんの灯籠がゆっくり川面を進んでいきます。

広がったりくっついたりしながら。

それはとても美しい光景でした。



やがて、さいごの灯籠の明かりがとうとう見えなくなってしまうと

村人たちはうちに帰っていきました。


僧と稲の精は川原に腰かけたまま、まん丸お月さまを眺めています。

なんだか眠ってしまうのが、もったいない気がしたからです。


僧はふところから

笹の葉に包まれた団子を取り出しました。


食べるかい?


稲の精は小さくうなずきました。



もしゃもしゃ、もしゃ…



おまえはどこから来たんだい?


ずっと私のそばにいるけれど、帰るところはないのかい?



もしゃもしゃ、もしゃ…



川伝いに気持ち良い風が吹いています。

盆踊りではしゃいだせいか、ピンクのストールは泥だらけ。


あした洗濯してあげようね。



もしゃもしゃ、もしゃ…



私はね。おまえといるととても落ち着くんだよ。

おまえもそうかい?


稲の精はよほどお腹が空いていたのか

僧の分までぜんぶ食べてしまいました。



聞かせておくれ。稲の精よ。

おまえは私が好きかい?


僧は自分の問いかけにハッとしました。



し~ちゃん



僧はどきりとして、稲の精を見ました。


稲の精は口のまわりをあんこだらけにして微笑んでいます。



し~ちゃん



ぶはははっ!!


僧は大笑いしました。



し~ちゃん?



川で寝ていた一匹のフナが、声に驚いてチャポンと跳ねました。



ありがとう。稲の精よ。


私もおまえが大好きだよ。





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