表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
稲の精  作者: 抹茶あいす
5/15

おにぎり

もしも

野原や田んぼのあぜ道で

おにぎりを見つけたら


それは稲の精が近くにいるっていうことです・・



旅の僧はいつの間にか

稲の精に会うのを心待ちにするようになりました。


不思議だなあ。

あの子に会うと気持ちがすーっとして安らぐんだ。


それからいつも急に眠くなって

いつの間にか寝てしまっている。



稲の精があらわれた場所には必ず雨が降って

その土地に恵みをもたらすのも不思議なことでした。


僧は大変な苦労をして修行をつんできましたが

稲の精と出会うまでは世の中のありさまを見ては落ち込むことばかりでした。


ああ

なぜ人は争うのだろう。


なぜ人は奪いあうのだろう。


どうしてもっと仲良くできないのだろうと。



僧は思い悩むだけで

自分にはなにひとつ変えることはできない。

だれひとり助けることはできないと思っていたのです。


僧が流す涙は、干からびた地面に吸い込まれていくようでした。



(みやこ)では泰平の世の中だと聞かされていたのに

いざ旅に出てみると人々の暮らしはどこも貧しく

病気になってもお医者にも行けない人たちばかりでした。



僧は野原の真ん中で寝転がりました。


頭の上には満天の星。



私にできることはいったいなんだろうか。


夏の夜空を見上げて、僧はつぶやきました。



ハッと気がつくと

なんと僧のお腹の上におにぎりがひとつ。


それまで鳴いていた蝉の声も急にピタリとやんで・・



僧は思いました。


くるぞ!





カサカサ…


カサカサ… カサカサ



ゴソゴソ…


ゴソゴソ…ゴソゴソ…



うはははは!!


僧は突然笑いはじめました。




し~ちゃん!


し~ちゃん!



見ると

猫じゃらしを持った稲の精が、僧の寝てる周りを走り回っているではありませんか。



し~ちゃん!


し~ちゃん!



僧はお腹を抱えて笑い転げました。


そして

笑っているうちに

なんだか胸の奥がじーんとして

涙が出てきました。



し~ちゃん?



あー うん。

いーんだよ。

心配しないで。




僧と稲の精は

仲良く二人でおにぎりを食べました。



また静かに蝉が鳴きはじめ

二人のうえを優しい風が通りすぎていきました。


さらさら・・



さらさら・・と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ