ヨモギ蒸し
稲の精はまわりをキョロキョロ見回してから
ポンとドーナツの穴の上に座りました。
ポンチョがふわりと広がって
一瞬、可愛いおしりがのぞきました。
稲の精はヨモギ蒸しをしていたのです。
ヨモギをいぶしてその煙を体に入れると
女の人はわるい病気にかからないと聞いたことがあります。
なるほどと僧は思いました。
それで稲の精はいつまでも子どものままでいられるのだな
稲の精は気持ち良さそうにドーナツの上に座って
おにぎりを食べていました。
おにぎりがなくなってしまうと
こんどは股のあいだのドーナツをつまんで食べはじめました。
よほどお腹がすいていたのでしょう。
そのうちドーナツがぐらぐら揺れはじめました。
ありゃりゃ大変だ!
そしてとうとうドーナツの椅子ごと 稲の精は後ろ向きにひっくり返ってしまいました。
まるいおしりが丸見え。
おしりには砂糖が輪っかになってくっついています。
あっはっはっは!
僧はたまらず大きな声で笑ってしまいました。
僧に気づいた稲の精は
あわててポンチョを着なおしました。
顔はもう真っ赤です。
僧がどきりとして見ていると
稲の精の目からみるみる涙がこぼれました。
し~ちゃん!
し~ちゃん!
稲の精はピンクのポンチョをひらひらさせながら
草むらの奥に走っていきました。
てけてけ~~
あとには食べかけのドーナツと
ドーナツの穴からひとすじの煙が立ち昇っていました。
かわいそうなことをしたなあ
僧はドーナツを拾って ふところにしまいました。
なんだかまたすぐに会える気がしたからです。
そしたらドーナツを返してあげようと思いました。
僧はすうーっと、ヨモギの香りを吸い込みました。
いつのまに時間が過ぎたのか
お日さまはとうに山の方にかたむいて
西の空がゆっくりみかん色に暮れていくのが見えました。
楽しい時がたつのは早く感じるものだなあ
僧はそうつぶやいて
稲の精に早くまた会いたいなあと思いました。