七草粥
唐土の鳥とは大陸から渡ってくる鳥のこと。
本当はそんな事はないのですが
大陸から飛んでくる鳥は疫病や災いを運んで来ると信じられていたのです。
なずな七草
唐土の鳥が
わたらぬ先に
ストトントン。
しゃらしゃら しゃらら。
ぽこぽこぽっぽ。
稲の精はふたをとって
春の七草をお鍋の中にまぶしました。
そしてまた少し水を足してふたをするとお神楽の続きを舞い始めました。
なずな七草
唐土の鳥が
わたらぬ先に
ストトントン。
しゃらしゃら しゃらら。
ぽこぽこぽっぽ。
お鍋の淵から美味しそうな煮え汁が吹きこぼれました。
しーちゃん。
しーちゃん。
稲の精は旅の僧を揺り起こしました。
僧は眠っていたふりをして言いました。
やあ。稲の精よ。おはよう。
二人はお行儀よく座って七草粥を食べました。
しーちゃん。
うん。おいしいね。
春はもうすぐそこです。
旅の僧が二杯。
稲の精が五杯おかわりをして、お鍋の中は空っぽになりました。
げぷっ。
あはは。そんなに食べて大丈夫かい。
その時また声がしました。
いや。あの子だ。
あの子にはものごとの定めがわかるのだ。
それは椎の木の声でした。
定め。
旅の僧はいやな予感がしました。
それをそのまま言葉にしようとしましたが、うまく言えません。
僧は目をこすりました。
目の前が霞んで見えたのでした。
おや。食べ過ぎたかな。
せっくをすぎてはならぬ。
稲の精よ。ご馳走さま。
僧はお礼を言いました。
どうしたのだい。
稲の精はなんだか悲しそうです。
旅の僧はこわくなってきました。
稲の精のからだが透けて見えるのです。
これはいったい…。
しーちゃん。
旅の僧はすべてを悟りました。
しーちゃん。
しーちゃん。
稲の精はどんどん透き通っていきます。
そうか。お前はずっとは居られないんだね。
稲の精はこくりとうなずきました。
じゃあなぜ、ここに来たのだい。
今日は元旦七日。
人の日に七草粥など作ってる場合ではなかったろうに。
稲の精は微笑みました。
稲の精があんまり無邪気に微笑んでいるので、僧は腹が立ってきました。
ばかやろう!
旅の僧はとうとう怒鳴ってしまいました。
しーちゃん…
稲の精は秋の収穫とともに去らなければならなかったのです。
でも旅の僧と一緒にいるのが楽しくて時の経つのを忘れてしまったのでした。
稲の精にはもう帰る場所がありません。
しーちゃん。
稲の精はまた微笑みました。
微笑みながら一雫の涙をこぼしました。
ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・マ・シ・タ・・・
それは「しーちゃん」のほかに初めて僧が聞いた稲の精の言葉でした。




