五節句
んー。むにゃむにゃ…
僧は何度も寝返りをうちました。
胸の奥で何かつっかえているような感じです。
昔から中国には五節句というものがありました。
五節句とは一年の季節の変わり目の事です。五節句はのちの日本にも伝わりました。
三月三日や五月五日のように数が並んだ日にちのことです。
この中に一日だけ数が並んでいない日があります。
それは元旦七日です。(といっても昔の暦の数え方ですから、今でいうと二月の初め頃になります)
昔の中国では正月一日に鶏、二日に狗、三日に羊、四日に猪、五日に牛、六日に馬、七日に人を占ってその年の吉凶を見通し、その日は生き物の殺生をしてはならないとされていました。
一月七日はとくに人日と呼ばれ人を大切にする日です。
人に感謝し、無病息災を祈ります。
五節句には旬の植物から元気をもらい、邪気をはらう習わしでした。
人日 。人の日。
人の日に出てはならぬ。
年を越すだけでも大事なのだ。
遠くでまた風の音がしました。
稲の精は野草を摘んで戻ってきました。
せり、なずな、ごぎょう。
はこべら、ほとけのざ。
すずな、すずしろ。どれも縁起の良いものばかり。
なずなはぺんぺん草のことです。
そして包丁を取り出すと
摘んできたばかりの若菜を軽やかに刻みはじめました。
なずな七草
唐土の鳥が
わたらぬ先に
ストトントン。
なにやら歌まで聞こえてきます。
なずな七草
唐土の鳥が
わたらぬ先に
ストトントン。
あばら家の中は心地よい香りと優しさでいっぱいになりました。
若菜を刻みおわると
稲の精は土鍋の上に手を広げておまじないを唱えました。
するとあら不思議。
小さな手からお米がしゃらしゃらとこぼれ出ました。
旅の僧は居ても立ってもいられません。
目をぱっちり開けて何も見逃さないようにするのが精一杯です。
なずな七草
唐土の鳥が
わたらぬ先に
ストトントン。
しゃらしゃら しゃらら。
しゃららん らん。
次にピンクのストールをひらりと土鍋に被せると
今度はお鍋のまわりを踊りはじめました。
それはちょっとお神楽に似ていました。
なずな七草
唐土の鳥が
わたらぬ先に
ストトントン。
しゃらしゃら しゃらら。
しゃららん らん。
僧は楽しくてつい手拍子を打ってしまいそうです。
稲の精はいつになく優雅に舞い続けました。
やがてぽこぽことお鍋が煮えてくるのがわかりました。
なずな七草
唐土の鳥が
わたらぬ先に
ストトントン。
しゃらしゃら しゃらら。
ぽこぽこぽっぽ。
お米の炊けるいい匂いがしてきました。




