僧の夢
年が明け、寒さもいっそう増していきました。
あたりはもう一面の銀世界です。
旅の僧は風邪をひいてとうとう寝込んでしまいました。
旅の疲れが出たのかも知れません。
ごほごほっ。
あばら家のせんべい布団に身を横たえて
僧は寒さに震えていました。
すきま風が枕もとを通りすぎるたび
僧の体はどんどん冷えていきました。
いつもならしばらく寝ていれば治るのになあ。
ごほごほっ。
どうやら流行り病にかかったようです。
なにか食べなければと思うのですが、身体中が痛くてだるくて起きあがる事ができません。
そのうち体がポッポと暖かくなってきて眠ってしまいました。
こんなにゆっくり眠るのは久しぶりだなあ…。
僧が寝ていると戸がすっと開いて何かが入ってきました。
トコトコ…
トコトコ…
しーちゃん
しーちゃん
稲の精は布団のまわりを走りました。
てけてけ~
てけてけ~
でも僧がいつまでも起きないので
稲の精は僧の顔のすぐそばまで来ました。
よく見ると僧はなんだかしんどそうです。
はぁはぁ…
稲の精はもっと近づこうとしました。
僧のおでこに小さな手のひらを添えて。
ぴゃっ!!
稲の精はあわてて手を引っ込めました。
僧のおでこは火のように熱かったのです。
稲の精は僧にしがみつきました。
しーちゃん
しーちゃん
僧は夢を見ていました。
稲の精と夏の野原を散歩する夢です。
夢の中では夕日が真っ赤に燃えていて
二人の影法師が長く長く伸びていました。
今日も暑かったね。汗びっしょりだ。
あとで行水でも浴びようね。
ぱしゃぱしゃ。
稲の精はおわんに雪を入れ、溶けた水で僧のおでこを冷やしていました。
ぱしゃぱしゃ。
それからピンクのストールで胸元の汗を拭いてあげました。
一晩中雪と格闘していたので
稲の精の手はしもやけになりました。
夜が明けると僧の熱は少し下がりました。
あとは食べものさえあれば。
稲の精は朝陽がきらめく雪の中に飛び出していきました。
すたすたすた~
稲の精が戸を閉めずに出て行ったので
あばら家の中は冷たい風が吹き込みました。
さ、さむい…。
僧がうっすら目をあけると
ちょうど稲の精が帰って来たところでした。
どこで拾ってきたのか、小さな土鍋を両手にかかえて。
ヨタヨタ…
あ、あぶない。
土間の真ん中ですってんころりん。
土鍋は大丈夫だったようです。
稲の精は上がりかまちを器用によじ登って
床から少し離れた所に土鍋を置きました。
どん。
いったい何を始めるのでしょう。
安心した旅の僧はまた眠くなってうとうとしてきました。




