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雪の声
へーっくしょん!
旅の僧は自分のくしゃみで目が覚めました。
そこは稲の精を追いかけて初めて来た鎮守の杜でした。
あの時と同じ。あたりはもう真っ暗です。
うー寒い…。
私はどうしてここに居るのだろう。
僧が不思議に思っていると頭のすぐ上で声がしました。
どこかで聞いた事がある声です。
せっくまでじゃ。
は?
すぎてはならぬ。
僧は椎の木を見上げて尋ねました。
お前かい。椎の木よ。
僧の言葉はただ白い吐息になるだけでした。
としをこすだけでもおおごとなのだ。
また声がしました。
おい。返事をしておくれ。誰か。
すると夜空の彼方からキラキラ光るものが降ってきました。
それはみぞれでした。
みぞれはやがて雪になりました。
雪は止む気配もなく、すべてを呑み込もうとするかのように夜通し降り続けました。
しんしんと降り積もる夜の雪の中を北風が声を運んでいきます。
びゅうびゅう せっくまでじゃ。
びゅう すぎてはならぬ。
びゅうびゅう ひとのひにでてはならぬ。
その声は鎮守の杜を越え、野を越え。
里を越え、山を越えていきました。
びゅうびゅう せっくまでじゃ。
びゅう すぎてはならぬ。
びゅうびゅう ひとのひにでてはならぬ。
それはまるで雪の声でした。




