パパはまほうつかい
人と人と人の声が混ざりあい、耳がおかしくなりそうなスーパーの中。そして店内に規則的に並べられた棚の一隅に二つ。小さな体が寄り添って座り込んでいた。
さらりと下ろした髪、くるりと大きい茶がかかったの瞳は鏡合わせのように顔は全く同じ。身につけている防寒具や服が色違いという、ただそれだけが2人という人物を分けていた。
2人は小さくしゃがんでうんうんと悩んでいた。
「このまろやかさがいいとおもうの」
「えー?こっちのしげきてきなのもいいとおもうの」
「ぜったいこれ。だってパンにもあうんだよ」
「こっちもパンにあうふうにできるもん。ぜったいこっちだよ」
「きのうゆぅちゃんのころっけだもん、きょうはみぅのがいいの」
「きのうのおやつはみぅちゃんのくっきーだもん。ゆぅのがいいの」
しゃがみこむ双子の姉妹は、むむぅと向かい合って同時に頬を膨らませた。
どうやら不満のようである。
「ゆぅちゃんはこのまろやかさがわかんないの?」
「このほーじゅんなかおりがわかんないの、みぅちゃんもこどもね」
「わかるとおとな?ゆぅちゃんわかるの?」
「ぜんぜん。でもおとなのなかまいりができるってパパがいってたの」
「おとなのなかまいりかぁ。はいりたいね」
「でしょ」
「でもこれはおんなのこのたべものよって、ママいってたの」
「おんなのこのたべもの?」
「でーとでたべるとじょしりょくがあがるんだって」
「それはだいじね。しょーらいにれんしゅーしなきゃだね」
「でしょ」
じぃっと棚を見て、姉妹の片割れがぼそりと呟いた。
「……どっちもいいね」
特に驚いたようでなくもう一人も。
「そーだね」
肯定する。
「「うーん…」」
先ほどとは別の意味で頭をはたらかせる双子。小さな小さな頭をフルに回転させる。
するとどうだろうか、3人ほど双子の後ろを通過したあたりで双子に笑顔が宿った。
「ゆぅちゃん。みぅね、すごくいいことおもいついちゃったの」
「みぅちゃん。ゆぅもすごくいいことおもいついちゃったの」
同じタイミングで小さな頭に電球が灯っていたようだ。
そこからはこしょこしょと2人だけの意見交換会。
「おんなじことおもいついちゃってたね」
「でもこれでだいじょーぶだね」
にこにこ座ったまま双子は笑い合う。
その後ろからひょろりと細長い男性が2人に歩み寄ってきていた。
「美羽。由羽」
声をかけたその声はとてもやわらかく、そしてその顔は優しげに微笑んでいた。
「「パパ!!」」
「どうだい。今日の夜ごはんは決まったかい?」
「みぅはこれ!」
「ゆぅはこっち!」
「美羽はシチューで……由羽はカレー?」
優しいお父さんは困った顔になる。
「それは決まってないってこと?」
「ちがうよ、はんぶんこでかうの!」
「おんなじおねだんだからだいじょーぶなの!」
「まずシチューとカレーは一緒に作れないし、お家じゃないから半分こにして買えないよ……」
「えー?」
「なんでー?」
「何でじゃないよ。ママも買うのは1個にしなさいって言っていただろう?」
「いやぁー、ふたつともかうのー」
「パパ、どっちか1個買えるお金しか持ってないよ。決めてくれるかな」
「きめないー」
「どっちもなのー」
「ちょっとちょっと2人とも……うーん、困ったなぁ」
父親の足にしがみつき駄々をこねる双子の姉妹。お父さんは先ほどより困ってしまった。
双子は親でもなくとも、誰の目から見ても買うまで動かないといった姿勢である。
しがみついた双子をあやしながら、どうしようかとうんうんお父さんは考える。
「あ。そうだ」
お父さんが小さく声をあげると双子は騒ぐのを止めて、次の言葉を待った。
「りょーほーかってくれるの?」
「りょーほーたべるれるの?」
「2つともは買えないけど、どっちも食べようか」
「「?」」
双子はお父さんの言っていることに不思議そうに首を傾げる。
「「どうするの?」」
「とりあえず……由羽が選んでくれたカレーを買おうか」
「みぅのは?たべれないの?」
「大丈夫だよ、今日の夜ごはんはシチューだよ」
「じゃあなんでかわないの?」
「実はシチューはこれを使わなくても作れちゃうんだよ」
「「ほんと!?」」
「だから今日の夜ごはんはシチューでいいかな」
「うん!」
「ゆぅのはあした?」
「そうだよ。今日シチューに明日このカレーを入れれば作れちゃうからね。由羽は明日まで待てれるかな?」
「だいじょーぶ!」
「よかった、ふたりとも納得してくれっ……わ」
ほっとしたようにお父さんは笑った。
双子はお父さんにしがみついた。もちろん先ほどまでの駄々をこねるのとは違う。
「パパすごいっ」
「パパだいすきっ」
「「まるでまほうつかいだぁ!」」
お父さんは魔法使い。
ただ家に帰ってお母さんにちょっぴり怒られたのは内緒の話。
「確かにシチューはルゥなしでも作れるけど……そういうことは事前にメールで知らせてくれないと困るわよ。こっちだって準備しなきゃいけないんだから」
「ご、ごめん……」
という感じでお父さんはお母さんに怒られました。
ほのぼの双子を書くの楽しかったです。ひらがな変換は間違えそうになりましたが。
ここまで読んで頂きありがとうございます。駄文失礼しました。