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賽の目も神次第~こっそりと仕掛けられた時限トラップ~③

 学校の机は硬い。自分の腕が痺れては感覚が無くなる。その都度、浅い目覚めと眠りを繰り返す。

 椅子に座っての居眠りは首が疲れ、眠りと目覚めの狭間で自問と逃避が繰り返される。

 実を言うと昨日の真夜中からは、身体の変異が気になって眠りが浅かった。今ならベッドに入って五秒で寝れそうだ。

 自問する内容は――

 どうしてこうなったのか、

 認識だけ男ならこのまま隠し通せば良いんじゃないのか、

 いや親しい人は女と知っているなら、

 友人付き合いが深まれば気づかれる可能性も、

 第一どうやって元の男に戻れば、

 戻るってなんだ?

 オレの意識を男のオレに同化させるのか? 

 世界融合とかどうでも良いが、オレが模造品としての人なら、オレが消滅して認識だけ正せば良いのか?

 それって――オレが死ぬことか。

 ――キーン。コーン、カーン、コーン。

 自問自答を繰り返すうちに、いつの間にか、昼飯になっていた。

 寝てもすっきりしない気持ち悪さと自問自答の内容で、食欲も気力も湧かない。

 朝の元気は、徹夜明けのハイの状態に近かったのかもしれない。今考えるとカラ元気でしかないようだ。


「飯食うぞ」

「……オレはいらない。食欲が」

「午後は体育なんだから、少しでも腹にもの入れておけ」

「……」


 男のオレが気を使ってくれたようだ。まあ、バランス悪くても三食きっちり食べるのは、オレ達の流儀だし。


「ほら、さっき森坂に買わせに行かせたメンチカツパンとカレーコロッケパンとあんぱんだ。シュンコは弁当あるから要らないって言うけど、二個どうだ?」

「同じオレだ。気を使うな、好きなの取れよ」

「じゃあ、軽いあんぱんはお前が喰え。俺はメンチカツ貰う。もう一個は腹減った時のために残しておくから」

「ああ、サンキュー」


 のろのろと森坂たちと机を囲んで飯を食う。

 シュンコが居ないのは、女子同士の関係があるからだろう。まあ、オレは男だから関わらないけど。


「はぁ~。彼女欲しいぜ」

「話の脈絡が見えん。それに前も聞いた気がするぞ、森坂」


 寝不足の細い目を更に鋭く細めて視線で抗議の意図を表すが、脈絡のない話を全く気にしないで話し始める。


「俺の好みってさっぱりとしたタイプなんだよな。あんまり面倒じゃなくて、話していて楽しい奴」

「いや、お前の好みは聞いて無いし、俺達に話を振るな」


 一人にこにこと我関せずで昼飯を食べている古里が恨めしい。

 なあ、どうやったらそのポーカーフェイス得られるんだ? とは聞かない。せめて制御装置になってくれ。


「良い女いねえ?」


 しかも、森坂が俺達に聞いてくるし、そんなの今までの何回も繰り返してノーの返事貰ってるだろ、諦めろ。


「いる訳ないだろ。何度も同じ事聞くな」


 ナイス、もう一人のオレ。やはり同じことを考えていたのか、と内心賞賛する。

 だからオレもその言葉に追従する。


「だからお前は、彼女出来ねえんだろ。選り好みするな。つか、お前程度の男に選ぶ権利なんてねえよ」

「お前、ちょっと言い過ぎ……」


 男のオレが諌めに入るが、オレは反省なんかしない。だが、森坂は、ジュースを吸いながら溜息交じりにオレの琴線に触れることを呟いた。


「ジュンが、女だったら俺は告白するんだけどな~」

「も、森坂! なんてことを言うんだよ!」


 ぴしっ――自分の中で何かが凍りつく音が聞こえた気がした。

 まさか、女ってバレているのか? それだと、でも、どうして。

 それよりバレることは、周囲の認知に大きな変化が起こるし面倒事に巻き込まれそうだ。どうなるかなんて想像できないから、背中に嫌な冷や汗が吹き出す。

 その間も、森坂は呟く。


「顔は、姉のシュンコとほとんど同じ作りだから、絶対に可愛いと思うぞ。更におっぱいが大きければな。Aじゃない、Cくらいは欲しいぜ、美乳だ、美乳。純情ぶっている姿でその胸のお前。なかなかそそるとは思わないか」


 ぶっつん、極太ワイヤーが千切れる幻聴を聞いた気がした。手近かな物を掴んで森坂の顔面に狙いを定めたとき――


「森坂! ジュンに対して失礼だよ! 謝りなよ!」


 クラスの中がしーんと静まる。オレは、手近なあんぱんを握り潰し、力を入れたまま硬直していた。

 クラスの視線が、声を出した古里と森坂、そしてあんぱんを掲げるオレの注がれる。いや、もう一人のオレ。何傍観に徹してやがる。


「森坂、ジュンは男の子だよ。男子生徒、分かる。だから謝りな」

「その、あの……なんか、悪いこと」

「謝りなさい」

「……ごめん」


 状況に目を白黒させている間に森坂がなぜか頭を下げている。

 オレはと言うと。


「別に……」


 笑って流せば良いのに、なぜか目を逸らしてしまう。

 いたたまれずに、教室から出ていこうとするが次の授業は体育だ。運動着だけは掴んでそのまま不機嫌さを隠さずにずかずかと教室から出る。


「おい! ちょっと待てよ!」


 男のオレが後ろから声を掛ける時には、もう走って逃げていた。

 オレは、誰よりも早くに着替えを済ませてグラウンドの隅に体育座りで座っていた。日蔭の少し寒い場所でずっと、隠れるように。

 不意に、オレの頭上から声が投げかけられた。


「結局、お昼抜きで体育なんて無謀よ」

「すまんな。心配掛けて」


 視線を合わせないで、投げやりな言い方になってしまった。すまんな、今は気遣いに対して何か言えるだけの余裕はない。だが、様子を見に来たシュンコにはありがとう、という感謝の気持ちはある。


「私の体重や身長、体力は、あんたと同じなのよ。ご飯食べないで保つわけ無いでしょ」

「男は気力でなんとかなるし」

「それと、私は……うん、いやこれはなんでもない」

「うん? まあ、心配してくれるならありがたいことだ」

「で、なんで森坂と喧嘩したの? 話してみなさい」

「……ちょっとした男の冗談だよ」

「はぁ?」


 そりゃ、この言い方は、分からないだろう。まあ、伝えたくない。誰にも言いたくないって気持ちはある。だが、ここは話さなきゃいけないとも分かっている。

 だからオレは、私見を交えてぽつぽつと語る。


「同性の友達って仲良いだろ。それこそ下手な恋人より」

「そうね。女子同士も仲良いけど、男子のそれとは違うようね」

「男の理想ってさ。結構、女の求める形と違うんだけな。さっぱりとした、面倒くさくない、それこそお前ら同性の友達じゃね? みたいな奴なんだよ。嫉妬もなければ、ロマンスもない。遊びの恋だったらお前が恋人で良いなって」


 唸り声が聞こえる。イメージ出来ないのだろう。だが、オレは理解できるまで待つことはしない。まだ語る。


「オレの今の立場ってさ。それと重なるんだよな」

「あ、うん。そうね。でも男として見られているなら良いでしょ?」

「まあな。女顔だからってマンガみたいな変な扱いは無いけど、この身体だからちょっと不安だ。動き辛いし、髪も邪魔になる」

「確かにそうね。男のあんたは、こんなに長くないものね」


 自分の毛先を摘まんでまじまじと見ている。長い肩甲骨あたりまで伸びた髪は重い。前髪の鬱陶しさに顔を顰める。だが、切るという選択肢はない。


「ほら、ヘアゴム。髪を纏めてあげるわよ」

「あんがとよ」


 シュンコは、取り出した黒いゴムでオレの後頭部を一本に纏める。


「髪長いの邪魔だし今度切っちゃえば?」

「それは……しねえよ。今の身体はお前の身体ってことだ。お前の髪を勝手に切るのもなんか違う気がする」

「どうしてよ。あんたの身体でしょ?」

「心は男なんだ。で、身体は女だ。主体的に考えるのは男のオレなんだ。つまり、身体が借り物みたいに感じて、借り物は傷つけられない。傷つけちゃいけない気がするんだ」


 僅かに視線を上げれば、女のオレが泣きそうな顔で見ている。お前がそんな顔する必要ないのに。


「あんた、死んで、心を統合する。とか、自分だけ居なくなれば環境が幾らか改善されるとか思った」

「……」

「馬鹿ね。あんたは私から生まれた半身のようなものよ。勝手にそんなバッドエンド考えないでよね」

「すまん」


 ぽつりと呟く。ああ、温かい。男女の違いがあっても同じオレたちだ。どこか分かりあえる所があるんだ。と気がついて胸がすっと楽になる。


「なんかちょっと胸が楽になった、ありがと」

「あんた、それ喧嘩売ってる?」


 あれー? オレなんかキーワードをミスした気がする。


「誰が、胸が無くて楽になっただ!」

「いや、そんなこと言ってないから!」

「そんなに胸は寂しいか! 夜の御供に必要か!」

「まあ、胸が寂しいな。一般男性の胸は結構あるらしいな」

「胸の事は言うな!」

「落ち着け。今なら言えるが生殖器の長さが半分になって魅力が半減するか? それと同じで胸がボリューム半分でも変わらないさ」

「あ、ああ、あんた。いつもそんなぶっちゃけトークしているの! 少しは自重しなさいよ!」


 あっれ~、今度はオレが問題発言してしまった。徹夜明けだと自制心が無いな。


「あ? ああ、そうか。ヤバいな。相手は異性だってこと忘れて話すってことは、女としての認識が強くなってるのか?」


 全くもう、とんでもない話を聞かされたわ。顔が熱い、ただ、まあ言いたいことを言われた。申し訳ない。


「もう授業よ。さっさと男の自分の所に戻りなさい」

「おう、そうする」


 オレが立ち上がった瞬間、膝から崩れる。

 一瞬耐えたが、そのまま尻もちを軽く着く。こめかみに手を当てて、眉にしわを寄せるオレ。対してオレの顔色は、伺っているシュンコは焦っているようだ。


「大丈夫? どうしたの? 顔真っ青よ」

「あ、ああ、ちょっと眩暈。ヤバいな、空腹が来るのか」

「いや、それもあるけど、私。実は慢性的な貧血持ちだから、それかも」

「……貧血?」

「うん。あまり激しい運動すると気分悪くなるから、多分貧血、保健室で休もう」


 元はシュンコの身体なのだ。今のオレ以上に分かっているだろう、ここは大人しく従った方が良さそうだ。


「気力じゃ無理だ。すまん。少し休む」

「うん、後で、先生に言っとくから」


 ジュンを保健室に連れていく。やっぱり食事はちゃんと取らないと駄目だな、と呟くシュンコに、当然よ、と返され、自嘲的な笑みを浮かべる。


「……失礼します。先生いますか?」

「いないみたいだな」

「保健室は使ったことある?」

「ほとんど無いな」


 物珍しそうに周囲を眺める。近くのパイプ椅子に腰かけるので、シュンコは薬品棚から貧血用の鉄分補給剤を取り出し、水と一緒に差し出す。元々気だるかったが保健室で休めるを考えたら、瞼が重くなり、身体もふらふらしてきた。


「悪い。昨日は寝つきが悪かったし、午前中は居眠りしても身体は疲れているみたいだ。今も眠気が」

「ちょっと寝てなさい。放課後にでも迎えに来るから」

「すまん、寝る」


 ベッドに導かれ、シュンコが保健室を後にするのを音で聞いていた。




「―――すぅ、すぅ……」


 遠くでチャイムが聞こえる。目を覚ましたいけど、身体が思うように動かない。

 ガラガラッ。ギシッ。

 誰かがこの保健室に入ってきて、椅子に座った。パソコンのキーボードを打つ音も聞こえてきた。

 誰だろう? 半分寝ている頭では考えられない。


「あら? 誰か寝ているの?」


 こちらに気がついたのか、仕切りにカーテンを開けてくる。細目を開けて確認すれば、女性の声と白衣は判別できた。


「あら、シュンコちゃん。今日は貧血?」

「えっ、あっ……」


 声を掛けられて、ようやく意識が覚醒を始める。


「今は放課後だけど、起きられる?」

「えっ、あ、はい」


 ほうっとした頭で能動的に返事をする。


「コーヒーでも飲む? 目が覚めるわよ」

「…・…頂きます」


 身体を起こして、紙コップを養護教諭の先生から受け取る。

 豊満なボディに掛かる白衣がなんとも妖艶で出来る女性らしい。

 オレは、探偵小説に出てくるような不味いインスタントを一口飲み、苦みで顔が歪む。


「体操着ってことは、体育の授業中具合が悪くなったのかしら?」

「え、あ、体育前で、す」


 あまり関わり合いが無いために、妙な緊張で丁寧に答えていく。

 あまりの胸の大きさに目が釘付けになる。


「寝汗掻いてない? 前に置いていった服があるけど……」

「前?」

「そう、前に生理の準備なしで下着汚した事あったから。それ以来一式預かっているでしょ? 忘れちゃった?」


 えっと、この先生は何言っているのだろう。あんまりにトントンと話が進んでいくので分からない。


「シュンコちゃん、はい」


 渡された袋に目が覚める。


「いや、先生。オレは、シュンコじゃないです!」

「分かっているわよ。男子の体操服を弟くんから借りたんでしょ? あんまり体育の授業休み過ぎて、成績が不安なのね。貧血なのは知っているから成績はちゃんと配慮されているわよ。ほら、寝汗を放っておくと風邪ひくわよ」


 首筋をすっと触ってくる。なめらかな指先がぞわぞわっとした感触を拡げる。

 指先を差し出し、ほら、汗掻いてる。と見せつけてくる。


「だから、オレは男ですって!」

「冗談はそれくらいにして着替えた方が良いわよ。いくら男子の運動着を着て、口調で誤魔化しているからって分かるわよ」


 まさか、これが親しい人の認識不全!? 保険医は、ジュンというオレの存在を知らない。


「う、だから……」

「はいはい、着替えた着替えた」


 押し付けられた服にタオル。仕方がないから着替えるが、取り出して固まる。ブラまで入っているのだ。

 熟考する。うん、こう、疲れて考えるのをやめよう。

 手早くパンツだけの姿になる。あまり見ないようにベッド端へ置き、先生を確認する。

 仕事に戻ったのか、あちらは見ていない。今のうちに終えるか、と思いちゃっちゃとタオルで身体の汗をふき取る。

 これがいけなかったのだろう、カーテンを閉めるのを忘れたために。


「せんせー。ボール踏んで捻挫した奴が居るんです……へっ」

「……あっ」


 まあ、ばっちり目が合ったわけだよ。ちょうど脇下を拭こうと片腕上げて胸の前に手が合ったから隠れたが、流石に女物のパンツ一枚は厳しいな。


「先生? ジュンを迎えに、って何見て、馬鹿っ! 何裸なのよ! あんた達も見るなっ!」


 タイミング良く駆けつけてくれました。シュンコが怪我人含む運動部三人ほどを保健室の入り口から弾き飛ばす。

 溜息が漏れる。まるで女神がタイミングを計ったように、いや実際バレるように仕向けた可能性もある。


「あら? シュンコさんが二人? と、お兄さんのシュンさん? じゃあ、この子って?」

「あっ、弟のジュンです」

「えっ、だって。女の子じゃない!」


 先生もやっと驚きが追い付いたようで、声を張り上げていった。やっぱり、存在を知らなかったようだ。

 その間も入り口では、がみがみと運動部に威嚇するシュンコ、淡々と制服に着替えるオレ。もちろん、女子の制服だ。


「じゃあ、間を取って男の娘。もしくは、おもうとで良いです」

「ちょ、ちょっと、訳分からない」


 頭を抱えながら、ぶつぶつと呟く先生。ごめんなさい、科学的には説明できません。


「じゃあ、明日もよろしくおねがいします」

「あっ、待ちなさい!」


 女子の制服に着替え終わったオレの手を引いて保健室を出るシュン。保健室前にいる運動部男子は、股間に両手を添え、やや前傾姿勢でこちらを見ている。やめろ、そんな目で見るな。

 オレたちは、足早に廊下を抜け、荷物を取り、校門まで出るがその間に何人もの生徒に見られ、また知り合いにも声を掛けられたが、無視して通り抜ける。

 神社近くの人のいない所まで来て、やっと安堵の溜息を三人同時に漏らす。


「あんた、なんで裸だったのよ! 恥ずかしくないの!」

「あー。なんというか、お前に勘違いされて、無理やり着替え押し付けられた挙句に、裸見られて若干参っているさ」

「今は、そこが問題じゃないだろ」


 男のオレがそう言う。オレも気が付いているさ、問題の部分を。


「どういうこと?」


 ただ喚くだけで考えてなかったのか、シュンコは首を傾げる。


「なあ、説明願おうか? 女神様」


 どことなく声を掛けるシュンに、背後で気配が生まれる。


「あらあら、私のこと気がついた?」

「あんたの性格考えたら、愉快犯は必ずどこかで見ている。だ」


 オレは鼻を鳴らしながら、睨みつける。女になって迫力が欠けるのか、女神はやはり飄々とした態度で大吟醸と煽り、麩を口に放り込む。


「で、これはどういうことだ。保険医がオレをシュンコだと思い、女だと認識した。つまり、オレは男として認識されなかった。保険医ってシュンコと仲良いのか?」

「……っ!」

「やっぱり気づいていたのね~」

「この詐欺師」


 恨めしい視線と暴言を吐くが、どこ吹く風で答える。


「第一に女の子を男の子に偽装するのが無理なのよ。親しい人ほど効果は薄い。それって、親しい所から徐々に周囲に認識偽装が弱まる。特に直接で見られたりしたら、止められない。明日には、みんなあなたを女の子として見る。そう、男子制服を着て通っていたちょっと不思議な女の子」

「だから、応急処置か、事態悪化させやがって。くそ」


 オレの悪態にシュンコは黙り、男のオレは、溜息を吐き出す。


「で、次善の策はあるか?」

「現状だと無いわよ~。明日からは大人しく女子として通ってね~。学校での認識は書類上のミスで男子記載だった。になるから~」

「そんなアホな。身体検査や着替えが今まであるのに、それがバレない訳ないだろ。まあ、その辺は良い。いつになったオレは元に戻れる。今は無理でも時期の予測は立てられるだろ」


 その言葉に女神は、にたっと笑って、はっきりと言った。


「頑張って三カ月は掛かるわよ~。どんなにあがいても、無理。諦めて女の子の人生を謳歌しなさいな」


 アフターサービスは、しっかりあげるわよ~。という。女神の今までの言動は、嘘は無いがのらりくらりと交わしているだけだ。

 オレは、ずっと、何度も言葉を吟味したが嘘偽りはないようだ。だから、余計に性質が悪い。


「今は、願いを叶えるための力も少ないから諦めて~」

「そんなことで俺達が納得できるかよ! 何か別の……」


 食って掛かろうとしたシュンをオレは止めていた。

 頭の一部は怒りで熱くなってるのに、逆に、もう反面は酷く冷えている。今、食ってかかろうとしたシュンが熱の部分を司っているなら、今のオレは、冷の部分だ。顔が硬く表情が欠落しているだろう。

 女のオレは黙って聞いているだけ。


「無理なんだろ? それに、生活には不自由無いんだな」

「そうよ~。まあ、明日からはちょっと好奇の視線を受けるかもしれないからね~」

「なら良い。疲れたからオレは帰る」


 憮然とした表情を作る気力さえない。ただ寝たはずなのに、ダルさが背中と頭に圧し掛かる。

 良いんだ。オレが我慢すれば。死ぬ事なく、順応すれば良い、そう、我慢すれば良い。


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