賽の目も神次第~こっそりと仕掛けられた時限トラップ~①
お正月明け、帰ってきました。
休み中は、ずっと読専に戻ってました。いや、楽しかったです。
一晩明け、私は、目を覚ました。
昨晩のアレが悪夢ならどれほど良いか、と目覚めて何度も思ったことか。
自分の携帯のメールリストには、『シュン』『ジュン』の二人の名前と一ケタ違い電話番号、なんか微妙に違うメールアドレスという手近に確かめられる証拠だ。
他に家の廊下を出てみれば、改めて違いが判る。
トイレ、洗面所、台所と居間。実際に、台所で弁当の用意をして色々な変化にも気がついた。
「家、大きくなっているよね。それに、なんだか小奇麗になっている」
本来の自分の部屋があった場所には、ジュンの部屋になっている。そして今使っている部屋は、本来物置代わりの空き部屋だ。
さらに廊下の左奥。突き当たりのはずが、一部屋増築されている。その癖、増築後など無い。最初からこの形。建築の際、こう言った構造で建てられた。と言った感じだ。
この世界では私たちの関係は、双子の私達に男の私という兄妹の関係で構成されている。それに伴って部屋がちゃんと別れている点では、女神は良心的といえよう。
ただ――
「マイナス五十点で、いい点見つけて三十点加算しても、現状はマイナスなのよね。はぁ~」
溜息が洩れてしまう。それでも時間は無常にも過ぎていく。
時計を確認したら、もうそろそろ起こさなければいけない時間だ。
エプロンを外して、もう一人の自分の様子を覗う。
流石に、自分だからとノックもなしに入室は、憚られる。
「起きている? 私だけど、入るわよ」
「うん? ああ。夢じゃないんだな」
眠たそうな溜息が聞こえてくる。
ドアを開けたら、眠たげな半目の自分の姿が目に入り、何故かイラッとした。
「寝起きだからってちょっとはしっかりしなさい。洗顔の後は、化粧水とか乳液の付け方教えてあげるから」
「あん? 寝起きになんでそんな七面倒くさいことをやらなきゃならん」
「同じ人間がだらしなくしている様を見てあんたは耐えられるの? 私は、あんたよ。だから絶対に耐えられないわ」
「わかんねぇよ。オレにはそんな感覚ないから」
むすっとして無理やりにジュンの手を引いて、隣の部屋の前に引き攣れる。
そのまま無遠慮にドアを開ける。
えっ? さっき、ノックしたのにしないのはなぜ? そんなものはケース・バイ・ケースよ。
それで、開け放たれた部屋から見える物をジュンに見せつける。
ベッドの上で手足を大の字に開いて、布団を乱して、緩み切った表情で寝ている元・ジュンを見せつける。
「昨日までのあんたよ。見てどう思う?」
「……ああ、物凄く殴り倒したい気分だ」
「わかってくれたなら、ちゃんと私の言うこと聞いてよね。体は女の子なんだから少しは手入れしないと」
「面倒くさいな。まあ、気を付けるけど……」
盛大に溜息を吐きだす。相手は自分だ。ならば理屈を突き詰めて逃げ道を無くせば、従う。自分の事だから手に取るようにわかる。
「……うがっ……」
そうこうしている間に、男のシュンが寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。
「……何やってんだ、お前ら? 人の部屋のドア開けて」
「いや、昨日までのオレの面拝みに、な」
「そうか、じゃあ、着替えるか」
と、そのまま寝巻のタンクトップとハーフパンツをその場で脱ぎ始める。私たちが居るのに!?
「ちょ、デリカシーってもんが無いの! 私達が居るのよ!」
「……うーん? なんか問題でも?」
「別にオレは、男だし」
「私は女じゃ、ボケ!」
目の前のドアを力一杯閉める。バタァーン。という音と風圧が周囲に撒き起こる。
私は、ジュンの手を引いてその場を離れる。
「オレ、まだ着替えてないけど」
「その前に身だしなみ!」
無理やりに洗面所に連れて行く。えっ、なに? と訳の分からないままに連れて行かれるジュンは、本当に手のかかる娘だ。
「まずは、洗顔、次に髪を整えて、化粧水と乳液で保湿、それから覚えることがいっぱいなのよ」
「か、勘弁してくれ!」
泣きごと言いながらも、一つずつ教え込んでいく。
「ほら、洗顔フォーム。私のを使いなさい。ちゃんとネットで泡立てる!」
「テレビでやってるようにか? 水で良いだろ?」
「良くない! 私はもう終わったから、ほら!」
口調は厳しくなるが、手つきは優しく、と教え込む。
「ふぅー。冷たっ。目が覚めた」
「あーあーあー、そんなにタオルで顔ごしごししない。優しく押さえるように、その後は、コットンで昼用の化粧水と乳液で保湿するのよ」
「昼用ってことは夜用も?」
「そうよ。当たり前じゃない。何言っているのよ。お母さんと一緒の奴だから、品質は保証されているわよ」
ぶちぶち文句を言いつつも顔に化粧水や乳液をつける。肌の感じは、私と同じだ。うん。写真に写る自分を見ていてちょっと違和感。
「なあ」
「何? 終わったら、着替えてきなさい。私は朝食の席に行ってるから」
「いや……その」
ジュンの歯切れの悪い言葉。何かあるのか、何か問題が生じたのか。
「……オレ、どっちの制服着たら良い? いや、男の制服着たいんだけど……駄目か?」
「……」
なぜか、この言葉を絞り出す目の前のもう一人の私が一回り小さくなった気がした。それだけ、勇気を振り絞ったのか、縮み込んでしまっているのか。
「オレの認識偽装は一応男だろ? その……女子の服は……まだ抵抗が」
「……分かったわ。というより男子の服しか着れないでしょ? 良いわよ。着てきなさい」
「ホントか!」
「ただし、ヘアゴムで髪を縛る。それと『女性の下着』は着用よ! スポーツブラだから一人で出来るわよね」
この瞬間、もう一人の私が、喜びの表情を凍りつかせたのは、言うまでもない。
えっと、区分で言うと、第一章のその一、シュンコ視点です。これから、ころころとシュンやジュンと視点が変わる予定です。