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気分屋の仕業~増える俺たち~③

えっと、息抜きで投稿します。


 その夜、女神様特急なるもので願いが叶うというらしいがどういうことなのだろうか?


 もしや夜分遅く、コンビニに出かけたら、女の子と出会って……

 もしや夜分遅く、電話が掛り、許嫁の美少女が……

 もしや夜分遅く、窓を割り、魔法少女が乱入して……


「どんな童貞の妄想だよ。現実にそんなまともなことがあるはずがないだろ」


 ふて寝する様に、ベッドの中に潜り込んだ。

 このもやもやした気分も、すぐに眠気で思考が中断させられる。



 そのまま、深い眠りの中にいたオレは、不意に目を覚ました。

 枕もとのデジタル式の目覚ましは、深夜の三時を表示している。

 妙に喉が渇く。口の中の粘液がいつも以上に絡みつく。

 水でも飲みに行こうと寝ぼけ眼のままのっそりと立ち上がり、部屋のドアを開けて廊下を出た。その時、あり得ない場所からあり得ない音がした。

 廊下に出て左側で、ごつっ……という音がして、左を振り向く。

 左は廊下の突き当たりで、何もないのだ

 向いた先には、壁に頭をぶつけて蹲っている男がいた。

 蛍光灯の明かりの無い暗い廊下でも親近感を覚える背格好が振り返り、オレの姿を見つける。男は、額を押さえながら骨振動無しでオレの声を発する。


「お前、誰だ?」


 相手はオレだった。しかしおかしい事にオレは今ここにいる。では目の前のオレは? オレを認識していない。なんというパラドックス。


「お前は、オレなのか?」


 目覚めてから初めて発する声。

 今度は骨振動を介して聴く自信の声。

 これもまたおかしい、オレの声はこんなに高いはずがない。

 オレの顔から血の気が引く、恐る恐る体を見れば、縮んでいる。

 浅く身体を抱けば――

 ――肩幅が狭い!

 ――胸部が薄い!!

 ――股下が心もとない!!!


「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!」

「うるさいな~。なんなの?」


 今度は廊下の右側を振り返る。本来そこは物置として利用されているのだが、そこから出てきた少女は、骨振動なしで聞く今のオレの声。


「あ、あたしがいる! それに、あんた誰!?」


 少女は、オレを指さしてあたしと。男を指さし、あんた誰。状況が混乱を極める。


「うるさいわね。何を夜中に騒いでいるのよ」


 お袋が現れた。オレたち三人の姿を見ても全く動じていない。


「お、お母さん。この二人が……」

「んっ? この二人って、普段からおかしいじゃない。それとも喧嘩したの? あんたたち兄妹なんだから、もう少し仲良くしなさいよ」


 ぽかーんと口を開けてその一言を心の中で繰り返していく。兄妹!? 誰と誰が……オレって一人っ子のはずだぞ。

 そうして放心状態のオレたちを母親は、欠伸ひとつ残して一階の寝室に戻っていく。

 後に残された、あたし口調の女は、その場にへなへなと座り込んでしまった。

 オレは何とか腰に力を入れているが、同じように座り込みそうになるのを我慢する。


「なんなの、一体」


 その疑問には同意する。オレだって訳が分からん。


「お、おい、大丈夫か?」


 男のオレが、おずおずと言った感じで心配そうに声を掛ける。


「あー、うん。ちょっと混乱しているだけ」

「二人とも、ちょっと落ち着いて話そう。まずは、オレの部屋に入ってくれ」


 オレは、自分の部屋に二人を招く。

 妙に既視感のある少女ともう一人のオレは、互いに距離感が掴めずに余所余所しい。

 オレもさっきまでの眠気がどこかへ行ってしまった。


「ええっと、まずは自己紹介で良いか? オレは、シュンだ」

「はぁ? お前が俺? お前、どう見たって女だろ」


 そうだ。オレの姿は、目の前の少女と背格好が同じだ。着ている服は男のオレと同じでダボダボだがな。


「何であたしがもう一人いるのよ。頭がおかしくなりそう」


 パジャマ姿の女のオレが、こめかみに指を押し当てて軽く唸る。


「オレは、元々男だ。男だったシュンとでも言えば良いだろう」

「いやいや、おかしいだろ! 俺は二人もいないし、何でこの女になっているんだよ」

「あたしだってこの世に一人よ」


 全員が黙り、互いに考える。

 三人が自分の状況を順番に口にする。


「俺は、男の俺で」

「オレが、元は男の女になったオレで」

「あたしが、女として生まれてきたあんたたち?」


 三人同時に溜息を着く。

 完全にカオスな状態だ。一人の人間が分裂して、性別が違うのだ。増えるワカメもびっくりの体積量だよ。当社比三倍も目じゃないぜ。


「ややこしいな。俺はシュンで、お前は元が俺の女だから、シュンコだ」

「シュンコはあたしの名前よ。勝手に付けないでよ。あんたら元が同じなら、濁点付けて『ジュン』で良いわ」


 ちょっと待て。と俺は制止の声を上げて、壁に掛る自分の制服を確認する。

 なぜか、男子と女子の二つの制服が掛っているが気にしない。オレは目当ての物を見つけて、溜息が漏れる。


「お前らのネーミングセンスの安直さに異を唱えたいが、学生証にもオレの名前がそう変更されている。今はそれを受け入れてやる」


 ほら、と男のオレの方にそれを放り投げる。それを見て顔を顰める。

 ああ、同じオレなら言いたいことは分かる。なんで証明写真がちゃんとあるんだ? オレ自信は女で写真を撮った記憶が無いのだから。


「あー、なんだ。大丈夫だ。ちゃんと写真映り良いから。うん、綺麗に取れてる」


 場を和ませようと男の俺が妙な事を口走るが、どうも空回りしている。見ているこっちが目を覆いたくなる程の場違いさだ。問題はそこじゃねえだろ!


「それで、どうしてこんなファンタジーな状況になってるんだよ。オレはまだ夢を見てるのか?」

「知らないわよ。あたしだって、男勝りな自分と男の自分にご対面だなんて、眩暈がしているのよ」

「俺は、思い当たる節が一つしかない」


 互いに毒を吐いて現状の不満を露わにするが、同時に溜息が漏れる。


「やっぱり、原因はあれか?」

「だろうな。オレたちは、神社裏の鯉で」

「何? あんたたちもやったの? まさか願い事って――『自分を理解してくれる他人以上の人間』が欲しい、とか言わないでよ」


 オレと男のオレに向かって、引き攣った表情を浮かべているシュンコ。残念だな、お前はオレなのだ。と気まずそうに視線を逸らす形で返答する。


「最悪だわ。夢なら醒めてほしい。何なのあの女神様。彼氏を与えるんじゃなくて兄妹作りだしちゃったし、冗談のつもりがなんて事態に。今会ったばかりの兄妹と付き合えっていうの? 近親相姦も良い所だわ」

「しかし突然、女二人を家族に迎え入れる俺の気持ち。キャルゲーでもベタすぎる展開だぞ」


 不満を常に垂れ流す中二人。まあ言いたいことは分かる。うん、環境が激変するんだからな。だがな、お前らの変化は環境変化だけで良いだろ。と怒りがふつふつを湧いてくる。


「何言ってるんだ? オレたちの願いだからって『オレは』性別変えられて、環境と肉体の両方が変化してんだぞ。『オレは』よ!」


 大事な事なので、自分の事を二度強調しました。更に、捲し立てるように言い切る。


「どんな苦行だよ。罰ゲームだよ。理解者が自分じゃ、自己完結でしかないだろ! オレが一番の被害者だろ!」


 二人に対して一気に怒鳴るように言った為に、二人とも目を丸くしてから気まずそうに話しかけてくる。


「まあ、待て。男だった俺。何事もポジティブに考えてみろ。これで大手を振ってパフェが食べられると思え」

「そ、そうよ。今は、女性の方が優遇される時代よ」

「ふざけんな。元々オレは、食べないし、女になりたいなんて憧れないから、どうでも良いわ!」


 もうこの時点で、目がしらが熱くなり始める。オレって涙脆かったっけか? ああ、女が涙脆いっていうからそうなのかもしれん。

 反論で加熱した頭を冷やす様に、目を閉じて肩で息をする。沈黙する男のオレとシュンコの姿を見て、何とも居た堪れなくなる。

 一度、服の袖を目に当て乱暴に擦る。肌が痛むが気にしない。


「熱くなった。すまん」

「いいさ。きっと俺も立場が同じならそうやって憤るさ、同じ俺だけに」

「そうね。あたしの場合、男になって、くねくねしている自分と対面しないだけまだマシだと思うわ」


 長い沈黙が訪れる。

 僅かでも涙を流したためか少しは建設的な考えができるようになってきた。


「俺とジュンは、同じ記憶を共有しているとしてた。シュンコ。お前は、どんな記憶があるんだ? 女と男の相違を知りたい」

「し、知りたい。って言われても、ここ最近だと、休日は、家でゆっくり過ごしているわ」

「同じオレなんだな。外見や言葉遣いは、女を感じさせても色気ない。高校生らしく友人と出かける事が無いのか、老木人生か。女子高校生への幻想を返せ」

「何を人の人生にケチつけてるのよ。あんただってあたしと同じ性別でしょうに。あんただって老木人生歩んでるでしょ。人にケチつける前に少しはマトモな人生設計立てなさい!」

「はいはい。俺たち同士が喧嘩しても不毛だろ?」


 男のオレが仲裁に入る。全く、迷惑そうな顔をするな。苛々する。


「それもそうね。仲裁に人がいると楽ね。早く話が切れるから」

「オレは、縁側、緑茶のお爺ちゃん人生が好きなんだよ。まったり最高、惰性走行万歳だ」

「……それには、同意する。でもね。あたしは、別に若者らしくないわよ!」


 全く争いと共感ってのは、同じレベルの者同士でないと起きないと言うのは本当のようだ。


「それで、どうなんだ? 例えば、神社の話は誰から聞いた?」

「えっ、それは……友達からよ」


 まあ、妥当な話だよな。と思う。


「あんた達は?」

「オレ達は、森坂からだ。よな」

「ああ、そうだな……」


 シュンコが訝しむ目付きでこちらを見る、いや睨む。まあ、言いたいことは分かる。皆まで言わなくて良い。


「頭の残念なイケ面。略して『残面』だからな。顔のパーツが良いのに、全部合わさって性格が加われば、もう残念だ。俺だって分かってるさ」

「同意するが考えてみろ。女のオレよ」

「シュンコよ」

「そうだぞ。妹よ」

「勝手に、兄貴面するな」


 不貞腐れたように、斜に構えるシュンコに言葉の投げかけるオレたち。


「何でそう毛嫌いする? 別に誰だって恋愛をするし、ちょっとふざけた言動もある」

「そ、それは……」

「森坂は、確かに残念だ。いや『残面』だ。だがあいつは意外に義理に厚いし、困った時は助けてくれる。お前が何かされたのなら別だが」


 胡坐をかいたままのオレたちに向かって、シュンコは吠える。


「ふ、ふざけた結果が、あんな不愉快な物なら世話ないわ!」


 咆える。うん、凄いオレ達が目の敵であるように咆えてくれる。

 だがこういう時にこそ、冷静が必要だ。


「「おい、夜中だぞ。お袋が来る」」


 はっ、と口元に手を押さえて、部屋のドアを凝視する。しっと静まり返った家の中、廊下には足音が聞こえてこないことから起きてはいないようだ。


「「「ふぅ」」」


 三人それぞれ自分の胸に手を当てて、緊張で止めていた息を吐き出す。


「あらあら、やってるわね~」


 きょっとして、窓に顔を向ける。

 窓ガラスからずるずるっと長い髪を垂らした女の人が這い出して来る。その動き方はなめらかで恐怖を誘う。

 そして――


「みたわね~」

「「「――きゃぁぁぁっ!」」」


 三人して抱き合い、奇怪な現象から離れるべく部屋の隅へと逃げる。


「あはははっ、ドッキリ大成功~。いや~、可愛くなってわね~」


 ぬるりと窓ガラスから抜け出した『ひめみこ様』が垂らした髪の毛を掻き上げ、一升瓶片手にオレを上から下まで舐めるように見る。


「女の子ができたか~。周りの認識や制度も弄ってあるから、女の子として生活出来るわよ、ジュンちゃん」


 愉快そうに酒を仰ぐ女神。やっぱり原因はこいつか。

 結構酒が回っているのか、顔が夕方見たときよりも赤い。


「で、どういう事だ。これは」


 男のオレは、冷静に聞いているがその表情には嫌気が差している。女のオレも似たような。いや、それ以上に恐ろしい形相だ。


「だから、『自分を理解してくれる他人以上の人間』が願いでしょ? 他人じゃなくて肉親だから~」

「一つ聞くが。あんたは、恋愛を司る神だろ? 近親者じゃ結婚すら出来んぞ」

「そこは、大丈夫。私、恋愛の女神様だから~」


「「いや、理由になってないから」」


 男のオレと完全に同じタイミングで突っ込みを入れる。もはやコントでもやってるんじゃないの? ともう程の息の合い様。


「恋愛の女神よ~。障害の一つや二つは乗り越えてこそじゃな~い」

「ふざけんな。いいからオレを男に戻せ! これじゃあ、学校にも行けないぞ!」

「そうね。いきなり学校に行って、『オレは男だ!』って叫んでも誰も信じないわよ~」

「それってどういう事? 女になったことや人数が増えたこと自体は周りが認識できないの?」

「う~ん。説明がむずかしいのよね~。だって、それは元に戻すのは、無理だし~」

「無理なのかよ!?」

「無理って何だよ!」


 ついつい、オレと男のオレが裏拳で突っ込みしてしまう。


「ジュンちゃんって、云わば、不純物なのよ」

「……はい?」


 急に語調が間延びしたものから真面目な雰囲気を帯びる。それに驚き、聞き入ってしまう。


「シュンくんとシュンコちゃんは、別の次元の存在なのよ。いわば、異世界人? まあ、どっちが世界の主体になっている事は無いのよ。だって二つの次元を完全に融合させたんだから」

「何言ってるのか分からないんだけど……」


 まあ、聞き流して良いから黙って聞いて。と言われれば、文句も言えなくなる。


「その融合時に生まれた不協和。いわば、不要情報の塊――それが、ジュンちゃんなのよ。世界の小さな歪みを放置すればアベコベになっちゃう。だからそれだけの情報エネルギーを人型に固定化したのよ~。結構大変な作業なのよね。それにもう性別を改変するだけの力ないの」


 服の袖を振って無理とアピールしてくる。なんだ? 無い袖は振れない。ってか?!

 愕然とするオレの顔を見て、にやりと不敵な笑みを浮かべたのを見て、オレは縋る思いでいた。


「でもね。設定は一時的に改変出来るわよ~」

「本当か! 今すぐ男に!」

「でもね~。設定だけで体は変わらないから~。それと、応急処置だから長くは無理よ~」

「応急処置でもいいから頼む!」


 オレは頭を下げて頼む。男と女のオレは、全く人騒がせだ。という風に安心した溜息を吐く。


「どーにでもな~れ」


 かなりどーでもいい感じの呪文と振り付け。まあ、適当にノリでやっているのだろう。女神はそれだけ言うと、口を弓型に釣り上げた笑顔のまま幽霊のように姿を薄くしていく。

 最後に――


「朝、目が覚めたら見られても男だと思われる。そういう認識偽装よ~。不完全な部分が多いから何かあったら呼んでね~」


 それだけ言って、女神の気配が完全に消えた。

 後に残されたオレたちは、互いに見詰め合い、状況を整理し直す。


「俺達の状況は、悪い。最悪と言っても良い。

 俺達の状況は、いわば三つ子のような関係。女神様の言うとおりに付き会ったとしよう。それは、完全に法律や倫理的にアウトだ。だからそれを回避するために、そういう女神様が認識偽装を施す可能性があるわけだが……」

「で、でも、それでも私たちは、同一遺伝子だから……やっぱり事実は。そういえば、日本神話のイザナギとイザナミって兄妹じゃなかったか? えっ、そうなると神様の倫理観って」

「まあ、成す様になる。だな」


 互いに状況を理解するのが早い。

 オレを理解してくれているだけあって、ポンポンとオレに理解しやすい内容の言葉が聞ける。

 だがもう疲れた。面倒くさい。

 他の二人も、同じように感じているらしい。


「深夜にあまり話しても埒が明かない。今日はもう寝ようぜ」

「そうね。私も朝早いから寝るわ」

「おう、二人ともお休み」


 オレは、のろのろと各々の部屋に戻りる姿を眺めていた。一人になった時、突然、不安に襲われる。身体的な変化がありありと分かる。髪は腰まで伸びているし、顔も丸みを帯びている。多少筋肉の合った腹筋周辺も、やわ肌に包まれた括れになっている。

 他の二人の変化は環境だけだ。一人の部屋に戻ってさっきの出来事を忘れれば、もう一人の世界と記憶の中だ。

 おれだけは違う。常に悪夢の証拠と同体なのだ。それでも悪夢であって欲しい、と天井に向かって溜息をこぼす。


 まったり不定期更新。ストックが無くなれば、更新は停滞すると思います。

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