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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第二章【チーム・スレイヤー】
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7、頭の中に響く声

 ハリウスは奈々に飛び掛った。奈々はそれを左にかわす。だが、その瞬間、ハリウスは長い腕を振るって奈々を攻撃した。奈々はあらかじめ右腕に装着されているシールドでそれを防いだ。だが、それに気づいたハリウスは、もう一本の腕でシールドのついていない左側から攻撃した。奈々はそれをまともにくらった。態勢が崩れ、今度はシールドがある右側からも攻撃される。大きく吹っ飛ばされた奈々は、僕の後ろまで飛んできた。

「奈々!」

 次に狙いを定められるのは、絶対に僕だ。ハリウスは僕に向かって腕を伸ばしてきた。あの腕は単に長いだけでなく、その腕をさらに伸ばすことも可能だったのだ。僕は右に避けた。横転するような形で右に避けた僕に向かって、ハリウスは自らの爪を投げてきた。いや、あれは爪ではない。爪のように鋭い毛だ。ハリウスの手首の辺りに生えている毛は、異常なまでの鋭さだ。僕は向かってきた毛を、どうにかしゃがんでかわした。

 立ち上がった僕に、再び鋭き毛が襲い掛かる。僕の緊張がさらに大きくなる。心拍数が急激に跳ね上がる。その瞬間、不思議な状態になった。

(これは・・・・・・?)

 周りの風景がゆっくりと動いているのだ。飛んでくる毛は亀より遅い。だが、それは僕も同じで、思うように体が動かない。動いているのは、さっきからめまぐるしくまわっている頭だった。思考が脳内で交差し、あの毛を避けるための手段が構成されていく。

 僕は頭の中で構築した回避術を実行に移し、行動を開始する。それとほぼ同時に、周りの風景の時間の早さが少しずつ戻ってくる。僕は、出発するときに持っていったソードブーメランを取り出し、それを毛に向かって投げた。それは面白いように毛を分断し、落としていく。そのとき、羽の中に一つの隙間ができる。あそこなら、攻撃を受けることはないはずだ。僕はその隙間に移動した。そのころには、すでに速さは元どおりになり、僕も相手も、同じ速さで行動していた。

 僕は、その後も攻撃をかわし続けた。だが、途中で足がもつれ、転ぶ。そこに待っていたかのようにハリウスは飛び掛ってくる。恐怖心で体が張り裂けるんじゃないかと心配していたころ、ハリウスの側面から槍が飛んできて、ハリウスの胸部に刺さった。僕は槍が飛んできた方を見る。そこには、奈々がいた。さっきまで戦闘が続行できないほど、疲れきっていた奈々は、この短時間で復活したのだ。

「ごめん、潤! こっから逆転するよ!」

「あ・・・・・・うん!」

それによって恐怖心が少しだけ引いた気がした。自分を守ろうとしてくれる仲間が、こんなにも近くにいる。隠していることや、自分の胸の中の悩みとかを全て打ち明けられるほどではないけど、それでも僕を守り、共に戦ってくれようとしてくれるのが、僕にとって何より嬉しいことだった。

 だが、事態は困ったことになる。奈々の槍はハリウスに刺さったまま。つまり、攻撃ができるのは僕だけという状況になっていた。

 ハリウスが真正面から腕を伸ばして攻撃してくる。僕は、ほとんどこの攻撃のパターンに慣れた。苦もなく攻撃をかわす。休むまもなく腕が伸びてくる。僕はそれをしゃがんでかわした。そこにハリウスは飛び掛ってくる。しゃがんでる状態から一気に逃げるのは難しい。ここでやられるのか。そのとき、さきほどと同じように、周りの時間の流れが遅くなる。この態勢からハリウスの攻撃をかわすには道は一つしかない。今度はかわすんじゃなく、受け止めるしかない。でも、僕にそんな勇気はなかった。そんな迷いをめぐらせてるうちに、時間は再び元の早さに戻っていく。どうしようもない僕はそのままその攻撃で吹っ飛んだ。ハリウスが追撃しようと再度飛び掛ってくる。僕は横に回りながらそれをかわす。攻撃がくるまえに態勢を立て直す。不意に、奈々が僕に向かって叫ぶ。

「潤!そいつには一発でも攻撃すれば倒せるよ!」

一撃で倒せる。でも、攻撃に移れるほど、僕は強くはない。僕はその言葉で逆に怯んでしまった。そんな僕に止めをさすかのように、ハリウスは腕をこれでもかというほど伸ばし、僕を包んだ。僕から見れば、周りはやつの腕しか見えない状態だった。僕の正面に二本の腕が現れる。今にも襲い掛かろうとしている。僕は・・・・・・ここで死ぬのか・・・・・・。このとき僕の中にあったのは、死に対する恐怖だけだった。

 そのとき、僕の頭の中に、声が響いた。

 ――戦わなければ、何も守れない――

 ――お前に戦う勇気がないなら――

 ――俺がお前の代わりに戦ってやる!――

 その瞬間、体の感覚がなくなってくる。視界は開けているし、思考もしっかりしている。なのに、体だけが、まるで別人が操作しているような感覚になった。僕の体は勝手に前に走り出し、ハリウスの腕を斬りおとした。ハリウスの腕から血が吹き出る。ハリウスが叫び声をあげるのが聞こえる。それを境に、周りのドームが崩れていく。目の前にハリウスの姿がある。僕は、いや、僕の体は大きな声をあげながらハリウスに突っ込んだ。

「はあぁぁぁっ!!」

僕の体はハリウスの首に直撃した。首が取れ、しみるように血が出てきた。目をそらしたいのはやまやまだが、目すらも動かないため、僕はその光景をまじまじと見つめるしかなかった。

「ど、どうしたの?潤!?」

奈々が僕に向かって問いかけてくる。その質問に僕(の体)は答えた。

「潤~?俺の名はキーラーだ。あんな雑魚、屁でもねぇ」

僕も奈々もかなり驚いていた。僕はこんな口調ではない。それなのに、僕の体を完全にのっとって、僕の言葉も聞こえず、ただ淡々と自分のことを喋っている。僕の体を借りて名乗ったキーラーは、僕のことを気にせず、シャトルRに戻り始めた。

 進み始めてまもなく、僕の体は倒れこんだ。苦しそうにうめき声をあげている。

「ぐあはっ・・・・・・そろそろ・・・・・・限界か・・・・・・」

キーラーが僕の口を使って喋る。限界とはどういうことなのか・・・・・・。そのとき、少しずつ体の感覚が戻ってくる。足、腰、胸、肩、腕、首、頭、手・・・・・・。各部分の感覚がみるみるうちに戻っていく。僕はゆっくりと立ち上がる。奈々が心配そうに覗き込んだ。

「だ、大丈夫ですか?」

奈々は、僕がまだキーラーだと思っているのだろう。僕は奈々に、自分が矢倉潤であることを告げた。

「じゃあ、戻ったの?」

「うん・・・・・・そうみたいだ」

僕はいまだに少しばかり状況がつかめていない。なぜ、彼が出てきたのか、なぜ僕の体を借りたのか。奈々は、いつものような態度で僕に、今までいったい何があったのか聞いてきた。僕は、あのハリウスの腕に包まれたところから少しずつ、奈々にも分かるように話し始めた。さすがに信じてもらえるような話ではないと思ったが、さきほどの状況を見れば、信じざるをえない。僕は、そんな話をしながらも歩き続けた。しばらくいくと、シャトルRが見えてきた。僕はそれに乗り込んだ。


 奈々は考えていた。潤の中に眠るもう一人の潤、とでもいうべきなのだろうか。だが、彼は自らをキーラーと名乗った。もし彼が、潤と血も繋がっていない者だとしたら、潤は・・・・・・。

「奈々~。はやくぅ~。僕、運転できないんだからぁ」

深く考えるのはやめよう。例えそうだとしても、潤は潤だ。他の誰でもない。彼がもし私たちを引っ張る役目をするなら、私は潤を支えるつっかい棒になる。それが私にできる唯一のこと。そうすると決めた。

 奈々は潤に急かされ、急いでシャトルRに飛び乗る。ハッチを閉め、機体を立ち上げ、ゆっくりと上昇させた。そして、今度はかなりのスピードを出しながら上昇し、大気圏の突破を試みる。無事に大気圏を抜けたシャトルRは、ロントの支部へと戻っていった。


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