6、広がる草原
僕は六時半ころに、リエイトに来た。ほとんど何もおかれていない僕の部屋だが、それでも愛着がわかないわけではなかった。自分の部屋が二つもあるって、ありそうでなかなかないんじゃないか。その三十分後、奈々が僕の部屋のドアをノックし、入ってきた。
「潤。準備できた?」
「とりあえず、必要そうなものは持った」
僕は、すでに着ていた制服に、鞘の紐をかけた。そして、その鞘に剣を入れる。そして、剣が刃こぼれしてしまったときのための砥石、そして、遠くからの先制攻撃のためのソードブーメランを持った。持ち手以外には鋭い刃が備え付けられている。所有者に反応して、戻ってくるときは刃に触れないようになっている。
「今回は、ミッションのレベルは低いのを選んだから」
僕はうなずき、先を歩く奈々の後に続いた。やがて、広いところにでる。ここは、昨日ブレイカーと戦った場所だ。すでに昨日戦闘がなかったかのように綺麗に掃除されている。そこを通り過ぎてしばらく行くと、カウンターが並べられた広場にたどり着いた。
「ここでミッションを受けることができるの」
奈々が僕に向かって説明する。受付であろう者が、カウンター越しでせっせと働いている。カウンターの横には、何かの表がある。僕がそれを見ていると、奈々はそれについても説明を始める。
「それはミッション表。受けられるミッションは全部それに載ってるの」
僕はただうなずきながら奈々の話に聞き入った。そのうちに、奈々は説明を止め、受付にミッションを受注した。奈々はそれが済むと僕に声もかけずに先にいこうとした。僕は慌てて後を追った。
「ここからモンスターが多く生息する星がある「魔界」にいけるの。私が先にいくから、後に続いて」
奈々はなにやら操作を行っている。僕は、自分がやるときに間違うことのないよう、その操作を最初から最後まで全部見た。最後の操作を終えた瞬間、奈々は姿を消した。僕はかなりの驚きようだったが、僕も奈々がやっていたのと同じように操作する。操作がすべて終わったその瞬間、僕は宇宙空間を飛んでいた。でも、何もしなくても進んでいて、息もできる。それからしばらくすると、宇宙に浮かぶ物体が見えてくる。僕はその物体に一直線に進んでいく。かなりそれが大きくなったころ、スピードが緩んでくる。そして、完全に止まったかと思ったら、僕はある施設の中にいた。ここはどこだろう。先ほどの物体の中に入ったのだろうか。ゆっくりと歩き出す。そのとき、僕の隣に奈々が飛び出してきた。
「うひゃああっ・・・・・・あ、奈々か・・・・・・」
「そんな声あげることないでしょ!」
僕らは、そんな会話を交わしながらゆっくりと歩を進めていく。
「それより、ここってどこなんだ?」
「ここはロント「魔界」支部。魔界の各星への移動はここから行うの」
奈々によれば、魔界には数多くのモンスターが巣くっているらしい。モンスターは、特に魔界に住み着いている生物のことらしい。人と触れ合って生活するモンスターは少ない。つまり、大半はナワバリを持ち、他のモンスターと争いながら生きるという食物連鎖の中にいる生物がモンスターらしい。もちろん、その中にはかなり凶暴なモンスターも数多くいる。その一言で震え上がった僕だったが、ミッションを成功させるとお金がもらえるらしい。ロント内の通貨だが、日本円への両替も可能らしい。貧乏なうちは、母さんのためにも、ミッションに参加することにした。
「今回は、群れで行動するモンスターが多く生息する星、モントール星に向かうからね」
モントール星。どんな星なのかは分からない。草原が広がっているのか、火山があちこちにあるのか、はたまた砂漠が一面に広まっているのか。
「星に移動するには、専用の宇宙船、シャトルRに乗らなきゃいけないの」
僕は奈々と共にシャトルRへと向かった。そこには、何十、いや、何百ものシャトルRがあった。そのうちの一つに奈々は飛び乗った。僕もそれにゆっくりと乗り込む。
「発進します!」
奈々はそう叫ぶと、シャトルのハッチを閉めた。そのまま、ゆっくりと上昇し、発射口で、いっきに前進する。シャトルRは、僕と奈々を乗せ、宇宙空間に飛び立った。奈々はなにやら操作を始める。捜査が終わると、いままで周りにあった宇宙空間を切り裂くようにかなりの速さで進みだした。不思議に、何の衝撃もこない。僕は奈々に尋ねた。
「ねぇ。これってさぁ、宇宙服とか着なくていいの?ほうりだされたら死んじゃうんじゃない?」
「そう思うかもしれないけど、この制服に特殊な加工がされてるから、このまま生身で宇宙空間にでても、息もできるし移動もできる」
「あ・・・・・・」
僕は先ほどのことを思い出す。リエイトから支部へと移動するときの宇宙、そしてそこでの自分の様子。それに照らし合わせれば、確かに奈々の言っていることはうなずける。
やがて、点のように小さかった一つの星が、だんだんと大きくなってきた。僕は予想していたが、奈々いわく、あれがモントール星らしい。その星は地球よりも陸が多い。少なくとも、この位置から見れば。でも、海の部分が少ないわけではない。地球は七三くらいで海の方が多いけど、モントール星はその逆といってもいいくらいだった。シャトルRはモントール星へと、進んでいった。
そのうち、モントール星の大気圏に突入する。赤く燃え上がる膜がシャトルRを包む。もちろん、僕達は全くもって心配は要らないが、当然ながら初めて大気圏に突入した。僕はその光景にただただ怯えるだけだった。
大気圏を抜けると、そのままゆっくりと下降しながらシャトルRは進んでいった。やがて、森の風景が広がる。その中に、ヘソのようにポッカリと穴が開いている。少しずつ速度が落ちてくると、そのままそこにゆっくりと下りていった。降り立って、エンジンが止まったところで、僕と奈々はシャトルRの外へと出た。
「ここは・・・・・・?」
「こここそ「魔界」のモントール星。そしてここはその中の一つ、モルモ平原の手前、モルモフォレスト。ここからこの道なりに進んだところに、モルモ平原が見えてくる。そして、そこが今回の私たちの仕事場よ」
奈々はその指先を森の中へと続いていく道を指した。奈々によれば、このテントは長時間戦闘する場合のためにロントが立てたキャンプらしい。ここには特殊な結界みたいなのが張られていて、モンスターは入り込めないようになっているらしい。そのため、ここでは戦いに向けて準備したり、休憩したりして、次の戦いに備えるための場所なのだ。
「ここで準備することもないから、出発するよ」
奈々はそういって歩き出した。僕もそれを追う。歩き続ける二つの足は、森の中を、一度もその速さを緩めず進み続けた。
さらにしばらく行ったころ、向こうから光が差している。僕らはその光に向かって尚も歩き続けた。森を抜けた。まぶしいほどの光が差し込む。思わず腕で太陽をさえぎった。だが、そのまぶしさにもなれたころ、僕は腕をどかし、目の前の風景を眺めた。限りなく続いていると錯覚させるほどの広さの草原が一面に広がっている。僕はその風景にしばしの間見とれていた。そのうち我にかえり、共に行動してきた奈々の姿を探す。かなり小さく、その姿を確認した。向こうでは手を振っているようだ。僕は、本当に見失わないうちに、奈々の方へと走った。
「もう、遅いよ~」
「すいません――ご勘弁を~」
「別に何も罰はあたえないって」
そんな会話を交わした直後、草むらから音がした。風の音ではない。明らかな気配を感じる。岩の裏から、一匹のモンスターが飛び出してきた。
「あれが今回の獲物――ターゲット――、ハリアス。今日は群れが別の場所で待機しているみたいね」
僕は、その姿を見た途端、体全てが恐怖心にのっとられたような感覚を覚えた。青をベースとした体に、少々長く感じられる腕、そしてその先に鋭く光る爪。さらに口の中には、無数の牙が身を潜めていた。足はさほど長くない。棒たちと同じくらいの身長のモンスターは、例えるなら、中型の恐竜だ。僕とは裏腹に槍を構える奈々は、殺気ともいえるほどの集中力を放っていた。僕もとりあえず剣を鞘から抜き取るが、奈々よりもかなり後ろに位置づいていた。
そして、遂にハリウスが動き出した。