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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第一章【一つのお願い】
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5、伝えるべき真実

 先ほどまで明るい部屋の風景があった視界に、別の景色が写る。毎日使っているベッドや机。紛れもなく僕の部屋だった。僕は帰ってきた。壁にかけてある時計を見た。まだ九時前。母さんは起きているはずだ。ドアをあけ階段を下りていく。リビングのドアを開けると、母さんが一人、本を読んでいた。

普通の家庭ならテレビを見ているのが普通だろうが、うちにはそんな余裕がない。僕を見た母さんが、話しかけてきた。

「あら潤。どうしたの?」

「ちょっと、重大発表があって・・・・・・」

「へぇ。どんな発表?」

口調は軽いが、顔はひどく悲しそうな顔をしていた。たぶん、僕がいじめや喧嘩を毎日のように受けているというのを発表するのだと思っているのだろう。確かに、実際はそうだが、発表する内容は全く別のものだ。何から話すか迷ったが、まずはこれからどうなるかを話すことにした。

「もうこれからは、今とは違う生活になるんだ・・・・・・」

予想はしていたが、それは当たった。母さんは状況が、僕の言ったことが理解できていないんだろう。とりあえず、あの噂から話すことにした。

「学校で、ある噂を聞いて・・・・・・」

その後のことも、できるだけ詳しく話すことにした。階段は、ごく一部の人にしか見えない。そして、僕にはそれが見える。そして、その階段の先には、クリエイター、ブレイカーが戦う世界がある。そして、ロント、ブレイクの存在・・・・・・。ここまでで、僕が知っている全てを話した。そして、この後は、母さんにとって、今より楽になると言った。

「楽になるって・・・・・・?」

「向こうには、ただで食べられる食堂があるんだ。そうなれば、母さんは僕の分を作らず、一人で食べられる。もう、僕のために苦労することはないんだよ」

話を聞き終えた母さんは、怒りもせず、泣きもせず、喜びも苦しみもせず、僕に一言、静かにこう言った。

「ありがとう。頑張ってね」

そういうと、母さんは、その後は何も言わずに、二階に上がっていき、寝たようだ。僕は、簡単に明日の学校への持ち物を確認したあと、簡単に勉強をすませ、そのまま眠りについた。

 次の日、僕は普通通り登校した。昨日のことは、誰にも話さないことにした。奈々も同じ山高北中に通ってるらしいが、何組かは聞いてなかった。僕は、とりあえず、普段通りに生活することにした。

「おはよー潤」

「おはよー」

勇がいつもと変わらぬ口調であいさつをしてきた。いつもと変わらない僕の日常。でも、それもそろそろ終わるのだろうか。僕の日常は、こんなもので終わらないのだろう。僕は、まだ自分でもよく分かっていない。なぜ自分がクリエイターなのか。もっと、強い人とか、頭のいい人とかが、クリエイターにならなかったのか。僕は、弱い。クリエイターとして生活できるほどの資格を、強さを、僕は持つことができない。なのに、なぜ・・・。

「潤~。朝の集会があるらしいぜ。はやく行こうぜ」

「あ、うん」

僕は勇の後を追って、集会の場所となる体育館に向かった。

 体育館には、すでに沢山の生徒が集まっている。今回は、一年生のみの集会なので、普通より体育館は広く使えそうだった。

「それではこれより、学年集会を始めます。礼」

生徒は一斉に頭を下げる。再び顔を上げたころ、司会が集会を進行させた。

「今回は、春休みの過ごし方についてと、この間実施したナンバー1アンケートの結果をお知らせします」

確か、ナンバー1アンケートには、さまざまな項目があった。頭がいい人ナンバー1。運動できる人ナンバー1。かっこいい人ナンバー1。美しい人ナンバー1。その四つの項目があった。

「頭いい人部門、第三位、金田 秀君!第二位、国本 博君――」

そのまま一位も発表される。次は運動の部門か。僕的に考えれば、少なくとも三位までには勇が入っているだろう。

「――第二位、足立 隼人君。第一位、船木 勇君。おめでとうございます」

名前を呼ばれた生徒はステージへと上っていく。その後に、かっこいい部門。そして美しい部門だ。

「――第一位、桜井 奈々さん。おめでとうございます」

一位はさく・・・・・・え!? 奈々!? ステージの階段部分を見る。そこには、昨日、共に戦った少女の姿があった。どうやら奈々は、この学年でいちばん美しい人、ということになったらしい。その発表の後、春休みの過ごし方だの生活とか勉強だのいろいろ言われて、集会は終わった。

「桜井奈々って、めちゃ可愛くなかった!?」

集会が終わったところで勇が聞いてきた。

「でも別に向こうが僕達をかっこいいと思ってるわけじゃないし」

「じゃあ潤も可愛いと思ってるのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど・・・・・・」

そこで先生がはやく教室に戻るように急かした。言われなくても教室には向かっていたんだけど。教室に戻って、担任は一言こういった。

「今回のナンバー1アンケで、見事うちのクラスから、運動できる人部門で、勇君が一位になりました。みなさん、拍手!」

クラスが盛り上がり、勇を祝福する。中には口笛を吹いているものまでいた。

 その日の午後、帰りの会の時間に僕は聞いた。

「勇、今日一緒に帰る?」

「ごめん。今日は野球の守備練習に付き合ってくれって二年生に頼まれてて・・・・・・」

「分かった。勇の都合で帰って。僕は先に帰るよ」

「ほんとにごめんな」

本当にすまなそうな顔をして言った。別に一人で帰るのが怖いほど僕は弱くはなかった。それに、こういう日もたまにある。勇が練習に付き合ったり、試合の助っ人として呼び出されたときは、僕は一人で、帰るべき道を帰っている。

 僕は、一人、家路についた。たった一人で家までの道を歩く。だが、今日は違った。家路についた途端、後ろから背中を押される。僕は後ろを振り向いた。こういうとき、だいたい背中を押してくるのは、不良だ。少なからずビクつきながら後ろを振り返る。そこにいたのは不良ではなかった。

「潤。一緒に帰ろ」

そこにいたのは奈々だった。今日、学年で一番美しいと言われた奈々は、なんの躊躇もなく僕の隣に並んだ。

「今日、すごかったな」

「アンケのこと?」

「うん。僕には、ああいう舞台に立つことなんてないから」

「でも、別に私は、綺麗になろうと努力したわけじゃないし――」

「きっと――」

僕は前を向いたまま、奈々に向かって言った。

「そういう風に美人に見せようとしないところが、奈々のいいところなんだよ」

 そう言われたとき、奈々はちょっと戸惑った。こんな風にさらりと、自分のいいところを指摘されたのは初めてだった。いつも、皆に囲まれていいところを指摘されていた。でも、たった一人に、横からなんの前触れもなくさらりと指摘してくれる人が、こんなに近くにいたなんて気づかなかった。

「あ、そうだ潤」

「なに?」

「今日から、ミッションを受けるから」

「ミッション?」

 奈々の説明によれば、ミッションというのは、各地で暴れているモンスターを討伐したり、指定された物を指定された場所に届けたりするおふれのことらしい。そして、それを今日受け、出発するらしい。

「じゃあ、銃よりもいい武器にしたほうがいいかなぁ」

「潤には、剣が似合ってるよ」

 奈々の脳裏には、さらりと指摘してくれたように、しなやかに剣を振る潤の姿が浮かんだ。

「じゃあ、今日はそれでいくよ」

「じゃあ、七時にそっちの部屋にいくから」

「うん。じゃ、また後で」

僕達は、それぞれの家へと帰っていった。


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