4、火を噴く銃口
相手に銃口を向けてみて初めて気がついた。
銃ってどうやって撃つんだ・・・・・・?
テレビやドラマでは、引き金を引くところしか見たことがない。確かに、今ここで引き金を引けば、弾は飛んでいくかもしれないが、弾には限りがある。それがなくなったとき、銃に弾を詰め込まなければならないはずだ。もし弾を詰め込むことができないなら、その時点で銃を使うものは非力となる。こんな危ない場所では、力ないものはやられるのみだ。でも、とりあえず撃つことにした。
しかし、最後まで引ききれずに、銃はカチカチと引っかかる音を掻き立てるだけだった。
弾が撃ちだされない? おかしい。再び引き金をひく。やはり弾は発射されない。なぜだ。なぜなんだっ!
「潤!その銃、安全装置がかかってるよ!」
安全装置。どこかにそれを解除するのがあるのか――あ、もしかしてこれか! 安全装置らしいものをいじくってみる。そして、再度構え、ブレイカーに標準を定めて、引き金を引いた。
大きな音をたてて弾が撃ちだされる。そしてそれは見事ブレイカーに命中した。でも、弾には限りがあるはずだ。慎重に使わなければならない。その間にも、他のクリエイターがどんどんブレイカーを倒していく。そして、最後の一人に、僕は弾を撃ち込んだ。見事に命中・・・・・・せずに、ブレイカーの真横を飛び、その間に他のクリエイターが止めを刺していた。
一人のクリエイターが、なにやら報告をしている。どうやら、殲滅の報告らしい。どうやら、終わったようだ。
「ふう。これで全部片付いたわね」
奈々が一つ、息をついた。だが、僕には、終わらせた達成感より、人をこの手で殺してしまったことに、罪悪感を感じていた。僕が、こんなことで罪悪感を感じているのは、おかしいのだろうか。人が殺すことに何も感じなくなってしまったら、人の心は脆く崩れていく。そして、ただ殺しあう動物になってしまう。もちろん、世の中にはそんな人間だけではない。人の命を尊重し、大切にしようとする人間だっている。
<ブレイカーの殲滅を確認。各員は、各部屋で待機するように>
放送が流れる。僕を含め、クリエイター達はそれぞれの部屋に戻っていった。
部屋に戻る途中、僕は奈々に聞いた。
「ねぇ」
「なに?」
「奈々ってさぁ、歳いくつ?」
「レディに歳聞くなんて失礼ね」
「若いんだからいいじゃん」
「十三よ」
「へぇ。僕と同じだね」
そんな会話を交わしながら僕達は部屋へと戻っていった。
部屋に戻ると、さっそくベッドへと飛び込んだ。今日一日でいろんなことがありすぎた。学校で聞いた噂、その噂の階段の先、そして、ブレイカー、クリエイター。そして、この組織の名前であろう「ロント」。知らないことが多すぎるかも知れない。
そういえば、奈々は十三歳だって言っていた。学校はいいのだろうか。気になって仕方ない。家の方で、朝になっていなくなっていることを母さんが知ったら、大変なことになるんじゃないかと。気にかかることが一つでもあると眠れない。しょうがないから、奈々に聞きに行った。
奈々の部屋、835号室のドアをノックする。
「どうぞ」
部屋の中から返事が聞こえる。僕はドアを開け、奈々の部屋に入った。
「奈々」
「どうしたの、潤」
「奈々って、十三なんでしょ」
「それがどうしたの?」
「奈々は学校に行かなくてもいいの?」
「もちろん、学校には行ってるよ」
「家の人とかにはどう説明するんだ?」
「家の人にはショージキに言うしかないよ」
やっぱり、ばれないようにするのは無理なのか。だけど、信じてくれるのだろうか。あの噂を、階段を、ロントの存在を、クリエイターやブレイカーの存在を。僕がこんな男であるがゆえに、母さんがすぐに信じてくれるとは思わなかった。
「もし、信じてくれなかったら?」
「そのときは、もうこれを見せるしかないんじゃない?」
「うん・・・・・・」
どうしても、隠し通せないことはある。信じられないような話でも、強引な手段を使ってでも、信じてもらうしかない。だが、普通に学校に行くにも、どうやって元の場所へと戻ればいいのだろう。
「ところで、どうやって元の場所に戻るの?」
「ああ。そのやり方なら・・・・・・いいよ。潤の部屋で説明する」
「ありがと!」
そのまま部屋を出て、隣にある僕の部屋、836号室のドアを開ける。奈々が、ベッドの後ろの部分を指摘する。
「あそこに、転送装置があるの。あそこに、移動したい地点を入力して、それを登録すれば、いつでも向こうに帰れる。こっちに戻ってくるときは、階段上れば、そのうちここにたどり着くよ」
僕は転送装置の前に立った。手をかざすと、なにやら入力画面に切り替わった。
「まずそこに、登録するためのだいたいの住所を入力して。もちろん、正確な住所なら一発ヒットする」
僕は家の住所を入力した。その住所を見た奈々が「えっ」と声を上げた。
「北山市山高町ってことは、もしかして山高北中!?」
「え?あ、うん」
奈々は驚いているような嬉しがってるような表情をした。
「私も北中なの!」
こんどは僕が驚いた。偶然に起こることってあるんだなぁ。
「てことは、別のクラスか」
「たぶんそうなるね」
奈々も北中に通っているのか。今まで気づかなかった。北中は生徒数が他の学校より多い学校だ。一年生だけでも三百人ほどいる。一クラス三十人前後で、十クラスある。まぁ確かに、それだけ人数いれば気づかないだろうな・・・・・・。
「とりあえず、僕は母さんに、ここのことを話してくる」
「うん。階段は、クリエイターがいればちゃんと出現するからね」
「うん。じゃ、また明日」
「じゃね」
僕は転送装置を作動させた。