45、終わりと始まり
僕は、あのとき死んだのではと錯覚した。体中に電気が走り、灰になりうる爆発が僕を突き出し、パーツの破片は僕を襲うように飛び散った。
しかし、僕はまだ生きていた。生きて、この世に残り続けていた。
僕はゆっくりと体を起こす。誰かにそっと手で抑えられる。抑えてきたのは誰かは分からない。だが、優しげな手だった。今気づいたが、目には白いガーゼで作られた眼帯が左目を覆っている。いや、左だけではない。右目も眼帯で覆われていた。僕は、それを外そうと腕を持ってこようとする。今度は痛みが僕を押さえつける。
「ここは・・・・・・?」
誰かがいると思い、ゆっくりと、そして静かに、誰かに語りかけた。
「リエイトよ」
女性の声が聞こえてくる。高く、透き通る声は、僕を助け続けてくれた相棒――奈々の声だった。
「僕・・・・・・死んで・・・・・・」
「ジャスト・キライスって人が、潤を助けてくれたの」
「ジャスト・・・・・・」
その青年の名前を呟く。そうか、彼は、ジャスト・キライスという名前だったのか。今まで、予想からジャストという名前を使っていたが、これでようやく確信がついた。
「皆は・・・・・・日本は・・・・・・」
「皆それぞれ休んでる。日本の自衛隊も来て、復旧作業が始まってる」
あれだけの被害を、都市部が受けたのだ。一月二月で復興作業が終わるとは思えなかった。
「でも、今潤が心配することじゃない。だから・・・・・・」
「うん・・・・・・」
奈々の言いたいことは、僕には分かっていた。僕は、またいつか、自由に動き回れるときがくるだろう。
いつか、きっと。
ルナビートでは、ジャスティスの治療が行われていた。ルナビートは、本部へとその船足を速めながら向かっている。かなり速いが、宇宙空間だけに、かなり遅く感じられた。管制の情報だと、二百五十キロは出ているらしい。
「ジャスティス・・・・・・」
ジャストは、あの日の言葉を思い出していた。
――悔しいけど、負けたらそれまでだから。
「負けたら・・・・・・それまでって・・・・・・」
ジャストはジャスティスのベッドに拳を乗せ、その横で膝をついた姿勢で下を向いた。彼の口調は、涙声だった。近くにいた医師が、気を使ったのか、奥の部屋に入っていく。
「まだ・・・・・・お前は死ねないだろ・・・・・・」
ジャストの涙が頬を伝い、顎のところで地面に落ちる。医務室の自動送風によって、ありもしない風でジャストの髪がなびく。風は涙が伝った道筋を、冷たくした。
「やることは・・・・・・まだあるだろ・・・・・・」
ジャストは、泣き止むことはなかった。
北暦二〇一〇年。この年、クリエイター、ブレイカーを除く全ての人間が驚愕する出来事が起こった。
「エイプリルベース」と称された大規模地球進攻作戦。その存在を信じていなかった日本政府と自衛隊は、対応が遅れ、到着したころにはすでに戦闘は終わっていた。
人々は、クリエイターを神と称した。自らの命を懸けてでも、この地球を、日本を守ろうとした存在として。一方で、蒼い翼、ジャスティスのことも知れ渡った。
もちろん、それ以上に、クリエイターでもあり、空を自在に飛び回ることのできる紅き翼を持った潤もまた、英雄として、もてなされることになった。
彼らは、それぞれが見守られながら、ゆっくりと治療を続けている。ぶつけ合った力は、交じり合った剣は、彼らの中で、過去のものとなっていく。
しかし、全ては始まりにすぎない。彼の、彼らの運命は、まだ途中であった。
終わりではない。始まりなのだ。
それは、誰が予見した出来事と繋がる。潤が複合人間としての性質がなくなった今、彼らには、ある大きな異変が迫り始めているのである。
それは、まだ彼らは知らない。だが、運命から逃れることはできない。
THREE WORLDはこの話で完結いたします。
打ち切りではなく、とりあえず完結させておく形であるため、
次の作品をお待ちいただき、そちらにも目を通していただけると幸いです。