44、終焉、運命と正義と
僕の中には本当にもう迷いはなかった。僕はバランスを崩し、安定して滞空もできていないジャスティスより、少し距離をとる。そして、伝説剣を胸の前で構える。そのまま、なんお躊躇いもなく突きの攻撃をジャスティスに向けた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
この一撃で決める。この一撃で終わらせる。
そんな思いが僕の中でわきあがる。もうこれで、本当に終わらせる。僕は、不幸な人間なのかもしれない。父親を殺し、その父親によって植え付けられた意思の人間を殺され、親友まで失った。
でも、僕は絶望を、悲しみを、力へと変えた。怒りという感情に手を貸してもらい。
ジャスティスは奇妙な行動に出る。なんと、各パーツを分離し始めたのだ。そして、それをジャスティスは自分の前にまとめて放り投げる。欠けた蒼い翼もろとも。
「これでぇぇぇぇぇっ!!!!」
僕はそのパーツの中も構わず突っ切る。思ったより重量がある。僕は痺れを感じる。各パーツ内の電気がショートし、伝説剣を伝って僕に電気を送り込んだのだ。
それによって、僕の勢いは弱まる。だが、各パーツを伝説剣は貫き、その切っ先は、ジャスティスの心臓に浅くながら突き刺さっていた。
僕はすかさず追撃を食らわす。微妙にずれた位置に、伝説剣を突き刺す。僕は、体が痺れていることなんてどうでもよかった。
もしこのまま死んでもいいと思った。仇を討てたのだから。
ジャスティスは、潤の攻撃によって意識は朦朧とし始めていた。各パーツを放り投げ、ショートした電気でそのまま止まってくれればよかった。だが、彼が止まることはなかった。まっすぐに、しかし横暴に彼は僕を突き刺してきた。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ジャスティスは力の限りに叫んだ。負けたのだ。自分は。
パーツを全部壊してしまったことを、艦長は、ジャストは、テペーラはどう思うだろうか。もし怒っているなら、許されないなら。
僕はこの命を消すことで償おう。
もし、運良く生きていたら、戦いを止め続けることで、償おう。
ジャスティスは、死を覚悟した。だが、まだ自分にはやることがある。生き続けなければならない。自分は、いつからか記憶を失っている。ジャスティスはすでにそのことは気づいていた。おそらく、このジャスティス・ファイアという名前は本当の名前ではないのだろう。本当の名前があるはずだ。自分も、艦長も。テペーラも、他の皆も、そして、ジャストも。
「ジャァァストォォォォォォォォ!!!!!」
ジャスティスは、精一杯、親友の名を呼んだ。
共に今まで戦ってきた戦友の、ずっと一緒だった親友の声が聞こえた。その声は自分を呼んでいる。ジャストはゆっくりとジャスティス達の方を見る。一人の少年は、何かを貫き、そのうえで、もう一人を突き刺している。突き刺されているのが、誰なのかははっきりと分かった。
突き刺されているのはジャスティス。
自分の友は、今、ゆっくりと空から落ちていく。
落ちることなんてないと思っていた。
あの翼は、傷つけられないと思っていた。
ジャスティスが、負けるはずはない。
しかしジャストは、出撃前にジャスティスに言われていたことを思い出した。
「ジャスト。もし、もしもだよ」
ジャスティスは真剣な顔でジャストに問いかけた。
「僕が負けることがあったら、君の名を呼ぶ」
「負けるわけない。お前はいつだって、気を抜いたことはないだろ?」
「だから、もしも」
ジャスティスは少し微笑む。そして、ゆっくりと出撃準備を始める。
「悔しいけど、負けたらそれまでだから」
ジャスティスはコアフライヤーのハッチを開け、コアフライヤーに乗り込む。ハッチを開けたまま、ジャスティスはジャストに語りかける。
「情けないけど、そのときはもし、僕が死んでいても、助けて欲しい」
「そんな縁起でもないことをいうなよ」
ジャストはジャスティスを抑えるように口を動かす。小声ではないが、聞き取るのは難しい大きさだった。
「まぁ、用は何が起きてもいいようにしろってことだ」
竜がジャストの肩を軽く叩いて、自分の乗るコアフライヤーへと向かっていく。このときのジャストには、そういうことかと理解はできたが、行動に移すことはできるのかどうかは分からなかった。
今になって、竜のあの言葉は、自分達に対する忠告だったのだろう。何が起きても・・・・・・。それは、死でもあれば、裏切りでもあった。
ジャストはDパーツを最大出力で起動させる。落ちていくジャスティスをしっかりと抱きとめる。
「ジャ・・・・・・ス」
「喋らなくていい。今は」
「うん・・・・・・」
ジャスティスとジャストは、そのままルナビートへと向かっていった。
二人は、この戦いに負けたことを、改めて悟った。
翼すら失い、力を失ったジャスティスが落ちていく。途中で誰かがジャスティスを抱える。ジャストというあの青年だ。彼はジャスティスを抱えたまま、どこかへと飛んでいってしまった。
いきなり、目の前で爆音が起こる。パーツが壊れ、爆散したのだ。
「くぅ・・・・・・」
僕は伝説剣で身を守る体勢を作った。もう、かわす力も残っていなかった。この防御姿勢も見た目だけだ。
僕は一気に吹き飛ばされる。翼はすでにない。僕にも、ジャスティス同様力は残っていなかった。僕はどうすることもできないまま、ただ静かに落下していった。周囲に奈々達の姿は見えない。見捨てたのか、あるいは追いつけなかったのか。
そのとき、誰かが僕を抱きとめる。まだ僕は空中にいた。あちこちのビルも、まだ僕より低い位置にある。僕はゆっくりと顔を上げる。そこには、蒼い翼を取り付けているジャストがいた。そう、パーツは個々のものではない。共有しているのだ。ジャストはそのまま、奈々達の所へと僕を届けた。僕は、もうほとんど意識はなかった。
強烈に、しかし微弱に。激しくもあり、優しくもあるような眠気と疲れが、僕を包み込んでいった・・・・・・。