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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第四章【エイプリルベース】
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44、終焉、運命と正義と

 僕の中には本当にもう迷いはなかった。僕はバランスを崩し、安定して滞空もできていないジャスティスより、少し距離をとる。そして、伝説剣を胸の前で構える。そのまま、なんお躊躇いもなく突きの攻撃をジャスティスに向けた。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

この一撃で決める。この一撃で終わらせる。

 そんな思いが僕の中でわきあがる。もうこれで、本当に終わらせる。僕は、不幸な人間なのかもしれない。父親を殺し、その父親によって植え付けられた意思の人間を殺され、親友まで失った。

 でも、僕は絶望を、悲しみを、力へと変えた。怒りという感情に手を貸してもらい。

 ジャスティスは奇妙な行動に出る。なんと、各パーツを分離し始めたのだ。そして、それをジャスティスは自分の前にまとめて放り投げる。欠けた蒼い翼もろとも。

「これでぇぇぇぇぇっ!!!!」

僕はそのパーツの中も構わず突っ切る。思ったより重量がある。僕は痺れを感じる。各パーツ内の電気がショートし、伝説剣を伝って僕に電気を送り込んだのだ。

 それによって、僕の勢いは弱まる。だが、各パーツを伝説剣は貫き、その切っ先は、ジャスティスの心臓に浅くながら突き刺さっていた。

 僕はすかさず追撃を食らわす。微妙にずれた位置に、伝説剣を突き刺す。僕は、体が痺れていることなんてどうでもよかった。

 もしこのまま死んでもいいと思った。仇を討てたのだから。


 ジャスティスは、潤の攻撃によって意識は朦朧とし始めていた。各パーツを放り投げ、ショートした電気でそのまま止まってくれればよかった。だが、彼が止まることはなかった。まっすぐに、しかし横暴に彼は僕を突き刺してきた。

「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ジャスティスは力の限りに叫んだ。負けたのだ。自分は。

 パーツを全部壊してしまったことを、艦長は、ジャストは、テペーラはどう思うだろうか。もし怒っているなら、許されないなら。

 僕はこの命を消すことで償おう。

 もし、運良く生きていたら、戦いを止め続けることで、償おう。

 ジャスティスは、死を覚悟した。だが、まだ自分にはやることがある。生き続けなければならない。自分は、いつからか記憶を失っている。ジャスティスはすでにそのことは気づいていた。おそらく、このジャスティス・ファイアという名前は本当の名前ではないのだろう。本当の名前があるはずだ。自分も、艦長も。テペーラも、他の皆も、そして、ジャストも。

「ジャァァストォォォォォォォォ!!!!!」

ジャスティスは、精一杯、親友の名を呼んだ。


 共に今まで戦ってきた戦友の、ずっと一緒だった親友の声が聞こえた。その声は自分を呼んでいる。ジャストはゆっくりとジャスティス達の方を見る。一人の少年は、何かを貫き、そのうえで、もう一人を突き刺している。突き刺されているのが、誰なのかははっきりと分かった。

 突き刺されているのはジャスティス。

 自分の友は、今、ゆっくりと空から落ちていく。

 落ちることなんてないと思っていた。

 あの翼は、傷つけられないと思っていた。

 ジャスティスが、負けるはずはない。

 しかしジャストは、出撃前にジャスティスに言われていたことを思い出した。


「ジャスト。もし、もしもだよ」

ジャスティスは真剣な顔でジャストに問いかけた。

「僕が負けることがあったら、君の名を呼ぶ」

「負けるわけない。お前はいつだって、気を抜いたことはないだろ?」

「だから、もしも」

ジャスティスは少し微笑む。そして、ゆっくりと出撃準備を始める。

「悔しいけど、負けたらそれまでだから」

ジャスティスはコアフライヤーのハッチを開け、コアフライヤーに乗り込む。ハッチを開けたまま、ジャスティスはジャストに語りかける。

「情けないけど、そのときはもし、僕が死んでいても、助けて欲しい」

「そんな縁起でもないことをいうなよ」

ジャストはジャスティスを抑えるように口を動かす。小声ではないが、聞き取るのは難しい大きさだった。

「まぁ、用は何が起きてもいいようにしろってことだ」

竜がジャストの肩を軽く叩いて、自分の乗るコアフライヤーへと向かっていく。このときのジャストには、そういうことかと理解はできたが、行動に移すことはできるのかどうかは分からなかった。

 今になって、竜のあの言葉は、自分達に対する忠告だったのだろう。何が起きても・・・・・・。それは、死でもあれば、裏切りでもあった。


 ジャストはDパーツを最大出力で起動させる。落ちていくジャスティスをしっかりと抱きとめる。

「ジャ・・・・・・ス」

「喋らなくていい。今は」

「うん・・・・・・」

ジャスティスとジャストは、そのままルナビートへと向かっていった。

 二人は、この戦いに負けたことを、改めて悟った。

 翼すら失い、力を失ったジャスティスが落ちていく。途中で誰かがジャスティスを抱える。ジャストというあの青年だ。彼はジャスティスを抱えたまま、どこかへと飛んでいってしまった。

 いきなり、目の前で爆音が起こる。パーツが壊れ、爆散したのだ。

「くぅ・・・・・・」

僕は伝説剣で身を守る体勢を作った。もう、かわす力も残っていなかった。この防御姿勢も見た目だけだ。

 僕は一気に吹き飛ばされる。翼はすでにない。僕にも、ジャスティス同様力は残っていなかった。僕はどうすることもできないまま、ただ静かに落下していった。周囲に奈々達の姿は見えない。見捨てたのか、あるいは追いつけなかったのか。

 そのとき、誰かが僕を抱きとめる。まだ僕は空中にいた。あちこちのビルも、まだ僕より低い位置にある。僕はゆっくりと顔を上げる。そこには、蒼い翼を取り付けているジャストがいた。そう、パーツは個々のものではない。共有しているのだ。ジャストはそのまま、奈々達の所へと僕を届けた。僕は、もうほとんど意識はなかった。

 強烈に、しかし微弱に。激しくもあり、優しくもあるような眠気と疲れが、僕を包み込んでいった・・・・・・。


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