43、それが運命
ジャストはブリッジとドアを蹴破った。席に座っている兵士達が一斉に銃を向ける。
「何をしに来たのかね?」
艦長席に座っていたグール・ブレイが、こちらに振り返り、問いかける。
「できることなら、こんな戦争をやめさせるためだ」
ジャストは冷徹とも言える口調でグールに返答した。今、彼はノヴァの覚醒を起こした状態にあった。
「できないなら?」
「お前を殺す」
ジャストはきっぱりと言い放つ。当然、やめるとは思えなかった。もし、「分かった。もうやめよう」などと手をついてきても、油断はできない。
「人を殺すのはルナビートの主義に反するんじゃないのか?」
「今回ばかりは、全部例外だ」
ジャストは再度、グールに向かってきっぱりと言い放つ。グールは背中に装備していた剣を抜き取ると、こちらにその刃先を向けた。
「なら、できないと君に答えを出そう」
「覚悟はできてんだな!?」
「当然だ」
その瞬間、二人はその体をぶつけ合った。グールは剣を振り回し、ジャストを狙う。ジャストは、それを素早い身のこなしでかわしていく。いくらブレイカーの頂点とはいえ、心臓を一突きすればまちがいなく死ぬ。
「なかなか!」
グールは足を払うように剣を振った。ジャストは飛び跳ねる。だが、それを狙っていたように、グールは一回転して今度はジャスト本体を狙ってきた。
「連転斬破!!」
グールはジャストに剣を直撃させる。かろうじて、ぎりぎりのところでジャストはその剣をクロウパーツで抑えていたが、さすがに胸の前で防御するには、無理な体勢だった。
「読みが甘い!!」
グールはジャストの横っ面を右手で剣を持ったまま、左手で殴りつけた。ジャストは耐え切れず、吹っ飛ばされる。
「やれ」
グールは周辺にいる銃兵に指示を出す。壁際に寄せられているジャストの周りには、すでに銃兵がいた。
全員の銃が一斉にジャストに向かって撃ち出された。全くの揺らぎのない弾だ。頭を狙っている者もいれば、心臓を狙っている者もいた。
銃弾が全て撃ちつくされると、銃兵は一斉にリロードを開始する。
「さらばだ、青年よ」
「だれがさらばだって?」
ジャストは、一発の弾丸も食らってはいなかった。ジャストは体の前で腕を交差させている。まさか、あれで防げるはずもない。
「ええい!はやく撃て、ばか者!」
それに急かされて銃兵たちは再度、一斉に銃弾を発射した。
「クロウフィールド!」
ジャストはクロウパーツのエンジンを起動させる。それに呼応して、爪と爪の間に、膜が張られる。全ての銃弾は全てこれに防がれていた。
さらに、このクロウフィールドは、体全体を包むため、どこに撃ってきても、全てはじき返す。
ジャストは、服を滑らせ、体を半回転して向きを変える。そして、勢いよく壁を蹴って、銃兵達の弾幕を脱出した。この様子だと、ここにいる誰もがそれに気づいてはいない。
「撃てっ! 撃ち殺せぇぇっ!!」
グールもまたこれに気づいてはいなかった。ジャストは、グールの後ろに回りこむと、その場で大回転をし始める。グールや銃兵はもちろん、管制の者達も気づいてはいない。
「吹っ飛べぇぇぇぇっ!!!!」
ジャストはクロウパーツをグールの服に引っ掛ける。そして、そのまま外へと放り投げる。グール及び、ブレイカーたちは、一瞬のうちの出来事に唖然としていた。グールは、ブリッジのガラスを突き破る。
「な・・・・・・いつの間に!!」
その光景に唖然としている銃兵達を、一気に切り裂いていく。銃を全てレーザーガンで焼き払う。グールが割ったガラスに飛び込む。そして、落ちながら、管制のブレイカーをレーザーガンで撃った。
グールは、ジャスティスやあの少年のように、飛行能力はなかった。簡単に言えば、ブレイクは技術的にはロントを上回るものの、戦術的、能力的には、圧倒的にロントに負けていたのだ。やがて、クリエイター達による巨大戦艦への攻撃が、グールに直撃する。槍やら剣やらを体に刺したまま、グールは落ちていく。やがて、その攻撃はジャストにも近づいてくる。
「悪いけど、俺は当たるような奴じゃないんでね!」
ジャストは音速、いや、それ以上ともいえる速さでそこを通り抜ける。だが、安全のためにも、左手ではしっかりクロウフィールドを展開していた。
ジャストは、一気にグールとの距離を詰める。ここまで近づくと、相手の声も聞こえる距離だった。
「お前はなぜ、ルナビートで戦う! 我らの邪魔をする!」
「守るためだ。全ての命を」
ジャストは両腕を後ろに引く。そのうち、ぐんぐんとジャストのクロウパーツが巨大化していく。グールは少し焦るような顔で叫んだ。
「闇雲に力を使って、全ての命が守られると思うな!!」
ジャストはゆっくりと深呼吸をしたあと、叫びながらその腕を動かした。
「ご忠告どうも!!」
落ちているグールには、その爪は避けられるはずもなかった。
なんとか最後の足掻きで動こうとしたが、たいした成果は挙げられなかった。
「死神が!!」
「わりぃけど、俺は死神じゃない」
ジャストは二つの巨大な爪でグールを挟み込んだ。
「殺神の鎌爪!!」
「ぐなぁぁぁぁぁっ!!!!」
グールは殺神の鎌爪に体を貫かれる。体から血という赤い液体がふきだす。グールの血は、グールよりもはるかに遅く落ちていたため、まるで上がっているように見えた。グールの血はジャストを避けるように上がっていく。
「むしろ・・・・・・殺神だな」
僅かな笑みを浮かべる。ジャストは体勢を立て直す。頭上から、先ほどのグールの血が落ちてくるのを察知したジャストはすぐにその場を離れた。
ロントとブレイクの戦いは終わった。あとは・・・・・・。
「頼むぞ。ジャスティス」
薄赤の空が広がる中、紅い翼と蒼い翼はいまだにらみ合っていた。僕は力ないように腕をたれ下げる。それを見過ごさないとでもいうように、ジャスティスは突撃してくる。もちろん、これは僕の作戦だった。
ジャスティスが光斧を振り下ろす。僕はそれをかわし、ジャスティスの左翼を斜めに切り捨てる。蒼い翼の破片が空中に飛び散り、ジャスティスのバランスが崩れる。僕はすかさず振り返り、ジャスティスに迫るが、ジャスティスのレッグレーザーがそれを阻む。ぎりぎりでそれをかわすと、もう一度攻撃をしかける。しかし、渾身の一撃はかわされる。そして、すれ違った直後に、ジャスティスは僕の紅い翼を斬った。
「くぁぁっ!!」
なんとか直撃は免れたが、光斧の攻撃は焼け付くような痛みを覚えた。僕も、ジャスティスと同じように体勢を崩す。それを狙って、ジャスティスはこちらにまっすぐ突っ込んできた。僕はすぐに振り返り、伝説剣でつばぜりあいに持ち込む。だが、ジャスティスはそこで僕に銃を向けた。あのレーザーの出る銃だ。
「聞かせてくれ。君の名前は?」
「潤。矢倉 潤だっ!!!」
そういうと、ジャスティスの光斧を押し返し、一気に攻め込む。銃型に変形させた伝説剣でジャスティスの銃を撃ち落とす。そして、光斧を伝説剣で押さえつける。僕は、ジャスティスの蒼い翼の右翼を蹴り飛ばす。一番下の翼が一つまるまるとれ、地上へと落下していく。やはり体勢を崩したジャスティスの光斧を、根元から斬り落とした。
「絶対に・・・・・・負けるもんかぁぁぁぁぁっ!!!!」
僕は、力の限りに叫んだ。