42、トリプルカメレオンVSジャスト
ジャストは猛ダッシュで戦艦内を走り回っていた。いくつも流れていく銅色の壁や天井に、時折目をやりながら、ジャストはブリッジへと向かっていた。おそらくはそこに、ブレイクの主要人物がいるはずだ。
そんな中、妙な部屋にたどり着いた。足を止め、その光景を見やった。
さまざまな色で作られている部屋だった。赤、黄などの明るく、派手な色もあれば、緑や灰色といった暗く、濃い色もあった。
だが、その油断が凶を生んだ。ジャストがその光景に目をやっている間に、部屋は密封されたのだ。その場を立ち去ろうとしたジャストは、すでに締め切られた通路を見て唖然とした。
「な・・・!」
ジャストは驚きの声をあげる。そのとき、後ろから何かが飛び掛ってきた。ジャストはそれに気づき、すぐさま横転してかわす。
目の前に現れたのは、黄色い体をした人だ。みるところ性別は男。どこかおぞましさを感じさせる顔をしていた。だが、この男はいつからいたのだ?まさか、先ほどの部屋で擬態していたのか?
「何だ。お前たちは」
少しばかり呆れたような口調で、その身柄を尋ねる。その男はその顔のままニンマリと笑って名乗り始めた。
「オレッチはリブル。三兄弟の一番下なんでなぁ」
それを言い終わる前に、後ろから何かが飛び掛ってくるのを察知したジャストはすぐさま横転し、再びかわす。「さすが・・・」という呟きが、ジャストにははっきりと聞こえていた。
「ルナビートのやつらはちがうねえ」
その瞬間、足を掴まれる。目の前にいる二人ではない。ジャストはダッシュパーツを加速させて上昇する。それにぶらさがるかのように、一人の男の姿が見えてきた。なんと、床の緑に擬態していた。
「当たり前だろナ」
「あんたら、一体・・・」
「オレッチはリブ・・・」
「あんた以外だ」
ジャストはリブルという男の言葉をさえぎる。残り二人がそれぞれ自己紹介的なものを始める。
「オレチャマはカレッカ。三兄弟の中間でねぇ」
「俺はレオン。三兄弟の一番上となっているからナ」
なっているからナ・・・て、兄弟だから最初からそうに決まってるだろ。と、ジャストは心の中でツッコミを入れる。あの動きからして、たいした敵ではないと、ジャストは考えていた。
ジャストは一瞬のうちにリブルに急迫し、クロウパーツを振り下ろす。だが、確かな手ごたえが感じられない。いつのまにか、リブルはもちろん、他の二人もどこへともなく消えていた。
ジャストは振り返り、色鮮やかな部屋を見回す。さきほどもここから現れたのなら、かならずこの場所にいるはずだ。
ジャストは、レーザーガンを取り出し、黄色い部分に向かってレーザーを撃ち出す。さきほどリブルがしていた色と同じだ。おそらくは、あそこのどこかに、リブルがいる。
だが、そのジャストの予想は大きく外れる。赤い部分からリブルが飛び出してきたのだ。全く分からない。飛んできたリブルをバックステップで距離をとる。よくみると、リブルは赤い色に変化している。
「オレッチの色が黄色だけだと思ったのかぁ?」
リブルがジャストの腹部に蹴りをいれ、壁に押し付ける。そして、それを土台にするように、リブルは飛び去っていく。ジャストはしばし、下を見ながら、左手で腹を押さえ、歯を喰いしばっていた。
「くっ・・・!」
ジャストは顔を上げる。だが、そこには、リブルの姿はない。ジャストが油断しているところへ、今度は次男のカレッカが足を払う。
「ちぃっ!!」
ジャストはその場に体勢を崩す。そこへ、長男レオンが腹部に飛び降り、踏み潰した。ジャストは僅かに吐血する。
「かはっ!」
「どうしたのかナ?」
「もしかして、こいつ、実は弱かったりするかもねぇ」
ジャストは、目の前で踊るように動き回る三人に、完全に押されていた。ジャストはゆっくりと立ち上がり、睨むように三人を見つめた。
「俺はな・・・」
ジャストはゆっくりと、かすかに聞こえるように三人に向かって言い出した。
「確かに、親友であるやつの影に隠れて動いているようなものだ」
親友。ジャスティス。ジャストはゆっくりと深呼吸をする。ジャスティスとは、自分がつけた名だ。ジャスティスが記憶を失う前の「炎道 正義」という名から考え、つけた名前だ。
自分のときはどうだったか分からない。ただ、拾われ、ルナビートの中に来たときには、「君はジャスト・キライスだ」と言いつけられてきた。そのときは疑わなかった。それが自分の名前なのだと。誇るべきものなのだと。だが、自分の本当の名前はなんだったのだろうか。今になって気になってきた。ジャスティスはどうなのだろうか。自分の本当の名前を知りたいのだろうか。求めたいのだろうか。
「けど!影で支えているからこそ、あいつは強くなる!そして、それを支えている俺も、共に強くなる」
ジャストはノヴァの覚醒を起こす。爪から髪のように何かが伸びてくる。覚醒を起こしたジャストの目は燃えるような赤に染まっていた。
「お前たちみたいに、全員影になってるやつのほうが・・・」
ジャストは、一瞬にしてカレッカの左腕とレオンの右腕を切断する。二人は、痛がる以前に、一瞬にして攻撃されたことに唖然としていた。
「弱いんだよ!」
だが、ジャストは思いもよらぬ光景を間のあたりにした。なんと、二人の体がゆっくりと生成されていくのだ。
「俺たちは命ある限り、体のどの部分でも自動的に再生することができるんだナ」
「オレチャマ達を殺さないと、いつまでも戦うことになるんだねぇ」
「ルナビートのやつらは、殺さずに戦うのが主義だったよなぁ」
レオン、カレッカ、リブルの三人は口々に、ジャストを嘲笑うように言ってきた。ジャストは、一瞬にして、今度は三人の四肢と頭を切断する。
「確かにそうだ。けどな・・・」
「な・・・ばか!よすんだナ!」
ジャストは今までの中での最高速で、三人の心臓を次々にクロウパーツで貫いた。
「今回は例外だ」
三人は、四肢と頭を切断されたまま、その後動かなくなった。
ジャストは、閉ざされた壁をクロウパーツで切り裂き、空いた穴を広げて通路を作る。そして、再び高速で走り出した。
さきほどのように一瞬にして風景が流れていく(銅色の通路が風景とはいいがたいが)。そのうち、巨大な地図が見えた。ジャストは立ち止まり、ブリッジの場所を確認する。そして、ジャストは再び、ブリッジへと向かって走り出したのであった。