39、言葉と力、決意と迷い
僕の中にある怒りは、当たり前のようにジャスティスへと向けられている。僕は剣を抜き取り、ジャスティスへと切りかかる。ジャスティスは僕の攻撃を察知し、なんなくかわす。
「あんた、自分が何をしたのか分かってるのか!」
「・・・・・・っ!?」
僕はジャスティスに向かって叫びながら接近する。ジャスティスも応戦するかのように攻撃を受け止める。
「あのままにしておけば、町の人は皆・・・・・・」
「この町・・・・・・いや、ここ周辺には、すでに非戦闘員はいない!」
僕は本当のことを言い放つ。エイプリルベース開始の数時間前から、この一帯全てに避難勧告が出された。さすがに、いきなりは全く信じてはいなかったが、次々とクリエイターが集結し、空で戦闘があったのを確認すると、ほぼ全ての人はこの町から姿を消したのだ。もしいるとしても、物好きなアホか命知らずなマスコミくらいだ。
「それに、あの武器は故障し、暴走していたんだ!」
「え・・・・・・そんな・・・・・・」
ジャスティスはその表情に戸惑いを見せる。僕はその瞬間を見逃さず、剣を横振りする。ジャスティスはどうにか円盤でそれを受け止める。
「あんた、自分で言っただろ!『どんな命も、守られる権利がある』と!」
ジャスティスが僕を振り払う。僕は攻撃の手を緩めない。
「けど! あんたはその命を奪った!」
「くっ・・・・・・!」
ジャスティスは、僕の攻撃を受けるので精一杯のようだった。
あのとき、まだエイプリルベースも始まっていないころ、ジャスティスは川辺で言っていた。「どんな命にも、守られる権利がある。僕は、その命を守りたいだけなんだ」と。だが、結局はこうしてその命を奪っていく。自分で言っていたはずだ。どんな命にも、と。それがたとえ、味方であっても、軍隊であっても、町を焼き払おうとした少年であっても!
「僕は・・・・・・ジャスティス・・・・・・あんたを討つ!」
僕の中でノヴァの覚醒が起こる。僕は背中から光の翼を展開させ、さらに強い力でつばぜり合いを制していく。
「どんな命も守られるなら、善人も悪人も殺さずに生きてみてよ!」
僕は力いっぱいに叫びながら、さらに強く押していった。
先ほどから彼の力は格段に大きくなっていた。ヤルドラの時よりも数倍に強くなっている。体に特殊な変化を起こし、戦闘能力を向上させる究極の覚醒システム『ノヴァ』。彼にも、そして、それはジャスティスにもそれはあった。
ジャスティスの中で、ノヴァの覚醒が起こった。
「それでも、守りたい命があるんだぁぁっ!!」
ジャスティスは潤を押し返す。ジャスティスの装着しているウイングパーツから、潤と同じ光の翼が溢れ出てきた。
「まさか・・・・・・『ノヴァ』!?」
潤もそれには驚いていた。まさか、ジャスティスも覚醒システム――ノヴァ――を持っているとは思わなかったからだ。
ジャスティスの持っているウイングウエポンパーツに変化が現れる。円盤の伸びている刃がそのまま外れる。そして、それ以外の七つの刃が、円盤を滑るようにまわり始めた。
七つの円盤は目で追うことができないほどに回転し、いつしか光を帯びていた。そして、回転が止まったところで、離れていた伸びている刃もくっついた。これが、ウイングウエポンパーツの真の姿、光斧――ビームアックス。
ジャスティスの円盤が変化した。光を纏ったそれは、光の斧とでもいえるものだった。だが、僕はそれに屈することはなかった。勢いよく加速してジャスティスを斬りつけた。今までにはないほどのスピードでジャスティスはかわす。ジャスティスが胸に取り付けられたレーザーを起動させる。僕はそれを後退してかわす。ジャスティスから距離が空く。僕は伝説剣を銃型に変形させ、レーザーをジャスティスに撃ち込む。すると、ジャスティスは、光斧から刃を切離し、刃の先から放出されたレーザーでこちらのレーザーを撃ち落とした。
ジャスティスは空高くに舞い上がり、ジャスティスが装備している武装を全て起動させる。円盤を背中に取り付ける。そこから今度は八つの刃が切離される。胸、足、背中の刃、両手の銃がこちらに向かって一斉に火をふいた。
「当たるかっ!!」
僕はそれを素早い身のこなしでかわす。そして、今度は僕が攻撃をしかける。銃型の伝説剣からレーザーを七、八発発射される。ジャスティスは、翼を閉じ、こちらに急速下降してきた。
再び翼を広げ、光斧を背中から抜き取る。そして、それをこちらに向かって振り下ろす。
武器を持つと同時に攻撃を仕掛ける、抜刀術。ジャスティスはそれをなんなくこなしていた。
僕はジャスティスの攻撃を受け止める。ジャスティスは、僕に向かってさらに光斧を押しながら叫んだ。
「君も言ったはずだ! 闇雲に力を振るうことが、守る方法じゃないと!」
ジャスティスの光の翼がさらに膨張する。僕も、それに負けぬほどの光が翼から溢れていた。
「けど、君は! 今こうして、闇雲に力を振るっているんじゃないのか!!」
「今の僕は、守るために力を使っているんじゃない」
僕はジャスティスの攻撃をがっちりと止める。相手が押してきた分を、今度は僕が押し返す。
「あんたを討つために使っているんだ!!」
「!!」
ジャスティスは自分の攻撃をはじき返された。体がふわりと浮いた感覚になっているのであろう。ジャスティスはすぐに体勢を立て直す。
「それに、僕はさっきも、言葉で彼を・・・・・・勇を止めた。正気に戻した!」
僕はジャスティスに向かって精一杯の声で叫ぶ。僕の言葉はジャスティスへの精神的攻撃を仕掛けていた。中心部の意志は固くとも、外部が脆い。戦いの中の言葉がジャスティスに少しずつ、だが確かなダメージを与えている気がした。
「もう過去に目を向けたまま戦うんじゃない!」
ジャスティスは僕の言葉を返すように言い放った。僕は過去に捕らわれている?
幼き頃、記憶にはないが正男によって、キーラーと複合された。そのことに気づかぬまま、僕は母さんと共に貧しく暮らしてきた。そのときの僕には、お金はおろか、健康な肉体も、強い意志もなかった。
そして、エイプリルベースで当の正男と再会した。そして、僕が殺した。キーラーと引き換えに。そして、勇も失った。僕は、そんな過去をまだ引きずっている。少なくとも、勇のことに関しては。
「過去に目を向けたまま戦っちゃいけないのかよ!」
「駄目だ! それはいずれ君自身を殺す!」
ジャスティスの言葉に一瞬動揺する。だが、僕はすぐに反論する。
「あんたは過去に何も経験していないわけではないだろう! だったらあんたも、いずれは自分自身を殺す!」
「僕はそれでもいい! 僕は・・・・・・」
ジャスティスに向かって僕は急迫する。ジャスティスがぎりぎりでかわし、光斧を振り下ろす。
「死を恐れてはいないっ!!」
僕は振り下ろされた光斧を剣で受け止め、押し返す。ジャスティスと僕との間に、再び間合いが広まる。
僕もジャスティスも息が切れてきていた。ずっとこの状態なのだ。体力の消耗も激しいのは当たり前のことだった。
「僕は・・・・・・僕は・・・・・・」
翼からさらに大量の光が溢れ出る。それは町全体を覆いつくすかのようなものだった。あたりに薄赤の空が広がる。幻想的であるその翼は、潤の力の全てともいえるものであった。
「僕は・・・・・・負けない!!!」