表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THREE WORLD  作者: 織間リオ
第四章【エイプリルベース】
41/48

38、裏切りの竜、闇の勇

 先ほどまで戦っていたブレイクの艦隊を殲滅したころ、竜は感じていた。これは、自分達にしか通じないもの。自分達が分かるテレパシーのようなものを。そして、それはゆっくりと近づいてきている。

「ルナビート・・・・・・エネルギーパックを頼む」

『どうしたんだ?』

「今のうちに燃料補給しておくべきだと思った」

『了解。すぐに送る』

テペーラからの通信が途絶える。いや、正確に言えば、こちらが通信したのだが。

 間もなく、燃料補給用のエネルギーパックが送られてくる。それに合わせるように、彼が近づいてくるのが分かった。竜は送られてきたエネルギーパックを受け取る。そして、頃合いを見計らう。もう、はるか向こうには彼の姿が点となって見えていた。ジャスティスもジャストも、ブレイクの艦隊に気を取られていて、こちらの様子には気づいていなかった。

 竜はバズーカパーツをミサイルモードに変え、進行方向とは逆に取り付けられているレーザー砲を噴出し、ジャスティス達から一気に間を開けていった。なぜか、面白いことに、そのことにすら二人は気づいていなかった。

 ジャスティスとジャストは、その集中力によって、高い戦闘技術を持っている。だが、その集中力の大きさは、いわば周りのこと全てに気を配ることができないということだ。一点を追いかけようとすれば、それ以外の標的は目に入らないのだ。

 ジャスティス達とはかなりの間が空いていた。しだいに、自分の追い求めていた人物が目の前に現れた。

「兄さん・・・・・・」

「久しぶり・・・・・・とでも言っておこうか。竜」

そう、全ては自分達の計画のため。仲間のふりをしておけば、そのうち向こうは心を許してくるのだ。それこそが人の・・・・・・人間の弱点でもある。

「竜。やれ」

「分かっている・・・・・・」

竜はバズーカパーツをレーザーモードへと変える。そして、微動だにしない二人の青年に狙いを定める。

「今まで世話になった・・・・・・」

小声でそう呟く。もうこれで、彼らに対する信頼は捨てた。絆も、友情も、全て捨てた。唯一残っているとすれば。

「お前たちは、敵となる。今この瞬間から」

竜のバズーカパーツから、レーザーが放たれた。


 バズーカパーツの発射音が耳に入ったジャスティスとジャストは、頭を動かし、その方向を見やる。そこからは、太いレーザーがこちらにまっすぐ向かっているのが伺えた。ジャスティスとジャストはすぐに回避行動へと移る。だが、ジャスティスビート、ジャストビートは共に直撃を受ける。それぞれのパーツから警告音が響く。

「くっ・・・・・・機関部大破、長時間航行不能!」

「各武装被弾! 使用不可能!」

もはや、二人にまともな戦力は残っていなかった。


 僕は、宙に浮いている二人の少年にその目をやった。一人は、先ほどまでジャスティス達と行動を共にし、たった今裏切ったようだ。だが、そんなことはある見知った一人の男を視界に捉えた僕には全く関係のないことだった。

「紅・・・・・・龍!!」

僕は伝説剣――レジェンドソード――を握り締め、背中に翼を展開する。そして、その二人へと飛んでいく。

 もう絶対に許すものか!

「もう何も、失うわけには・・・・・・!」

僕はさらに加速し、龍へとその刃を振り下ろす。

「いかないんだぁぁぁっ!!」

龍はするりとそれをかわす。そして、不敵に笑いながらパチンと指を鳴らす。

「貴様にいい土産をくれてやろう」

目の前に現れたのは、自分と同じくらいの少年の姿だ。背中には不気味な翼を生やし、その口には鋭い牙を覗かせている。その姿はまるで・・・・・・悪魔。

 だが、その格好よりも、その少年そのものの方が、僕にとっては大きな存在だった。

「勇・・・・・・!?」

目の前にいるのは、確かに僕の親友である勇だ。こちらをじっと見ているが、その目に親友でること、かけがえのない友であることどころか、僕のことをただの他人のような目をしていた。

「オマエを・・・・・・殺す!」

僕の中で実体のない痛みが駆け抜ける。僕のことが分からない・・・・・・ということになるのだろうが、いや、その状態からして、僕が分かることはないだろうとは思っていた。だが、そう気づくのは後の話だ。人間、こんなときには動揺し、思考回路の流れが悪くなるのだ。

「勇! 僕が分からないのか!」

「知る価値もない・・・・・・。知る必要などない!」

勇は腰につけている鞘から細身の剣を取り出す。そして、僕に向かってその刃を向ける。僕は剣を構え、それを受け止める。だが、勇は流すように僕を避ける。

 さきほどジャスティス達を裏切った少年が、自分の背負っていたバズーカのようなものを勇へと付け替える。そして、燃料補給とでもいうように何かをそれに注ぎ込んだ。僕はそれを止めようとしたが、龍が進路を拒む。

 やがて、補給が終わると、勇はそのバズーカを起動し、町をレーザーで焼き払った。もはや、今の勇には理性のカケラもなかった。

「やめろ・・・・・・やめてよ、勇!」

僕は必死に止めようと口を開く。だが、まるで耳に入っていないかのように、レーザーの方向を変えながら町を焼き払っていく。

「オマエにも死んでもらう!」

勇は再び剣を取り出し、頭上からふりおろしてくる。僕は苦もなくかわす。僕は、分かっていながらも、攻撃を躊躇う。そうこうしている間に、龍ともう一人は逃げていってしまった。

 ――倒すなら、こいつらの方が!

 僕は勇の襟を掴み、龍たちとは反対の方向に投げる。無論、そこまで飛ばせるはずもないが、時間稼ぎには十分だった。

「龍ぅぅぅっ!!!!」

僕は頭上へと振り上げた剣をそのまま龍へと振り下ろした。龍は僕の攻撃をなんなくかわす。

「もうお前にやるものはない。土産は置いていったはずだ」

「人を物のように言うな!!」

僕の攻撃をかわした龍たちは、瞬間的にかなり離れたところへと逃げていた。僕もなんとか後を追おうとしたが、その進路を拒まれる。

「オマエの相手は俺だ。彼らではない!!」

その瞬間、勇は僕に剣をまっすぐに突きたて、直進させた。かろうじてかわしたが、運悪く翼に剣がささる。

「くぅっ・・・・・・」

勇は戸惑っている僕を蹴り飛ばした。それによって、刺さっていた剣も抜ける。

 僕の中で、ノヴァの覚醒が起こる。はじける音に合わせるように、翼からは光の翼が展開する。僕は勇の数倍のスピードで動き回り、握られている剣を払った。

「なにっ・・・・・・!?」

それに混乱していた勇が背負っているバズーカを、銃で打ち落とす。勇は完全非武装。もう、戦うことはできる状態ではなかった。

「くそ・・・・・・オマエ・・・・・・」

「勇!僕だ、潤だ!」

「じゅ・・・・・・ん・・・・・・?」

勇の動きが止まる。まさか、僕のことが分かるのか!?そういえば、さっきまで僕は、自分の名前を発していなかった。もしかしたら・・・・・・。

「そうだ。潤だよ、僕は!」

「潤・・・・・・なのか・・・・・・!?」

どうやら、本当に僕のことが分かっているようだ。そのことに少しほっとしながらも、絶えず僕は自分の名を叫ぶ。

 ――その運命に、その瞬間縛られたのだ!

 つい数時間前に父親から言われたことを思い出す。運命だと?ふざけるな。僕はきっと今この瞬間、勇と戦うという運命から解放されたのだ。僕の力をもって。

 いつの間にか、覚醒は消えていた。けど、確かに今、僕と勇の間に再び友情が取り戻されたことを僕は感じていた。

 だが、そんな僕に不幸が起こった。

 遠くからこちらに直進してくる青年がいた。おそらくはジャスティスだとは思っていた。もし僕に襲い掛かってきたなら、追い返すだけだ。現に、ヤルドラの時は一応の勝利は収めているのだ。

 ジャスティスはさきほどのデカブツは背負っておらず、いつもの翼を背中に取り付けていた。

「潤・・・・・・俺は・・・・・・」

「勇・・・・・・大丈夫だから・・・・・・」

「ああ・・・・・・」

その瞬間、勇の背負っていたバズーカが動き始めた。勇自身、なぜそうなっているか分からない。おそらくは、僕が先ほどこれに攻撃したときに、故障し、暴走を始めた。勇はチャージを止めようと必死だが、全くこちらの操作を受け付けない。そこに、ジャスティスが最高速度でこちらへと突進してきた。

「こんなことは・・・・・・もうやめろぉぉっ!!!」

一瞬の出来事だった。ジャスティスを止めようと剣を抜いたが、遅かった。

 勇の心臓に、ジャスティスの円盤パーツの刃が突き刺さる。勇は口から大量に吐血した。刺さった部分からも、血が溢れ出てきた。

「勇ぅぅぅぅぅっ!!!!」

 瞬間、頭の中が真っ白になる。目の前で、親友が殺された。

 蒼い翼――ジャスティスに!!

 ジャスティスは、勇から円盤を引き抜いた。

 勇は、力なく地上へと落ちていく。

 一瞬の悲しみは、今度は長時間の怒りへと変わっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ