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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第四章【エイプリルベース】
38/48

35、光の翼

 僕は一気に上昇し、体勢を立て直した。そして、正男の正面位置まで上りつめ、剣を真正面に構える。そして、頭上に振り上げ、同じ位置まで振り下ろす。その瞬間、翼から光があふれ出す。赤き翼から放たれる光の翼は、僕にさらなる力を与えてくれた気がした。

「負けない・・・・・・もう・・・・・・。絶対に!!」

僕はすでに半分は我を失いながらも戦っていた。ただひたすら、目の前の憎むべき敵を討つために。

「全力で来い! 俺の全力をかけてやる!」

「無論・・・・・・そのつもりだぁぁぁっ!!」

僕は正男に急迫する。正男はかろうじてその攻撃をよける。僕はもう一歩踏み出すように一振りする。正男の右肩を僕の剣がかすれる。正男が右肩を抑える。赤くにじむ服を気にすることなく、僕は正男へと飛び込む。僕は正男の頭上から剣を振り下ろした。

 だが、そのときに鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえた。正男が長刀を短く折りたたんだ短剣形態――ショートモード――に切り替え、こちらの攻撃を受け止めていた。

「くっ・・・・・・!」

僕は抑えきれぬ感情を弄びながら戦っていた。怒りを静めようとはしていた。だが、体がいうことを利かなかった。

「たぁぁっ!」

僕は、正男が受け止めていた剣を素の左手で掴み、そのまま引っ張る。正男が体勢を崩し、剣を離した。僕はそれを後ろへと投げ捨てる。僕の左手からは血が滴っている。僕は、剣にその左手をそえる。そして、今度は正男の左肩を斬った。今度は、さっきよりも深く切れたようだった。僕はそのチャンスを見逃さない。僕は正男とすれ違いざまに左足に剣を入れる。これも深い。そして、すれ違ったあと、すぐに振り向き、剣を銃型に変形させ、右足を撃ちぬく。四肢がほとんど使い物にならない正男から僕は少しばかり遠ざかる。そして、最大加速で正男へと突っ込んでいく。

「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

剣の矛先は完全に正男の中心を狙っていた。

 何も失いたくはない。これ以上は。

 今まで戦いを拒んできた。死にたくないから。自分という存在を失いたくないから。

 だが、今になってそれは違うと気がつく。

 こんな僕のために、守ってくれた人たちがいる。母さん、勇、奈々、修二、海、光、そしてキーラー。

 だから、今度は僕が守る。この命を懸けて。

 怒りをこめた刃が正男の心臓をまっすぐに貫いた。おそらく、心臓はもうほとんど機能していないはずだ。剣から赤い血が流れ出てくる。僕は勢いよく剣を正男の体から引き抜く。ジェットパックを操作するものがいなくなったためか、ジェットパックは機能を停止し、正男はゆっくりと落ちていく。

 正男が地上にその体を叩きつけたころ、僕は空を見上げながらかすかな笑い声を上げていた。

「く・・・・・・はは・・・・・・」

自然と、涙がその頬をつたって体を流れていく。全身の力は抜けていた。笑おうとしてはいないのに、自然に声が出てしまう。こらえようとしても涙が止まらない。僕は今、かすかな満足感で満ち溢れていた。

「やったよ・・・・・・キーラー・・・・・・僕は・・・・・・」

声も泣いてるせいかかすれてしか出てこない。それでも、僕はすでにあの世へと旅立ったであろうキーラーに話しかけた。

「僕は・・・手に入れた・・・」

やっとこれで、キーラーも安心してくれる。

「力を・・・!!」

キーラーは死ぬ直前、生きろと言った。僕は生きる。この命を、散らすわけにはいかない。キーラーのためにも。

 僕はまだ死ねない。僕を支えてくれた、全ての人たちのために。この命が尽きるそのときまで。

 ゆっくりと降下していく。地面が少しずつ近づいてくる。

 だが、そこで待っていたのは、仲間達だけではない。彼らの傍に横たわる父の姿もあった。僕は、正男が――父が死んだとしても、憎む。憎み続ける。大切な、自分の分身ともいえる存在を消してしまったから。殺したから。だからこそ、父に対しての悲しみの涙は、一滴たりとも流れることはなかった。

 僕は、しばし父の姿を見つめた後、黙って正男に背を向けた。正男にもう言うことなどなかった。言っても意味のないことだし、あいつに同情などするきもなかった。

 だが、唐突に僕は思った。

 僕は人殺しだ。

 ただ憎しみだけで命ある人間を殺す。ただの殺人者だ。

 ましてや、殺したのは自分の父親だ。けど・・・。

 今は戦争中だ。だから犠牲は出て当たり前なのだ。どちらか一方の戦力が尽きるまで犠牲が出続ける。周りが止めようと割って入れば、彼らも犠牲を出すことになる。それこそが、正男。自分の父。絶対に、もう振り返ったりはしない。この過去を。

「忘れる・・・・・・。この記憶を」

僕は決意した。僕は戦う。どんな敵とでも。

 上空から、再びブレイカーの艦隊が迫ってきていた。


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