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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第四章【エイプリルベース】
36/48

33、対峙

 龍はその力を存分に発揮できぬまま戦闘不能となった。少なくとも、あの体では戦うことはできないだろう。一瞬の安堵を切り裂くように、龍は笑い出した。

「ふふ・・・・・・ふははははっ!」

錯乱でもしたかのように笑い始め、ようやくおさまったというところでこちらに視線を向け、冷ややかな声を投げかけた。

「我々はまだ負けぬ。貴様にはあの方に・・・・・・マサ様に勝てるはずもないのだからな!」

マサ・・・・・・様? 一体、そいつは誰なのだろうか。龍以外に仲間として見かけたものはいない。僕が見るときは、全て一人で行動していた。仲間といえる者など・・・・・・。

「久しぶりといった方が妥当かな? 潤」

自分を呼ぶ声がする。誰の声なのかは、想像がつかない。だが、いきなり、キーラーが苛立ちのこもった声で叫び始めた。

「あんたは・・・・・・正男か!!」

正男・・・・・・? どこかでその名を聞いた気がした。友達にもいない。学校全体にもいない。そこいらの地域にもいない。有名人でもない。家にも・・・・・・。

 家? そういえば、正男という人の名を、確か家で聞いた気がする。かなり自分に近い存在だった気がする。

 渦巻く迷いのなか、一人の男が、背中にジェットパックを背負い、地上へと降り立ってきた。その姿を見た途端、正男という人物との光景がフラッシュバックされる。

 彼――正男――は僕の父。母さんと結婚し、後に離婚したと言っていた。

「母さんに未練でもあるの? 父さん」

いつの間にか、僕とキーラーは入れ替わっていた。キーラーは苛立ちを放ちきれていないのか、こちらにも怒りが伝わってきた。

「違うな。俺が未練があるのはお前だ。潤」

「僕・・・・・・?」

なぜ自分に未練があるのか、僕自身分からなかった。だが、無言の質問に答えるように、父、正男は話し始めた。

「お前の家系は代々戦いの歴史を潜り抜けてきた戦家だった。そして、戦うことを恐れ、世界の破壊を望んだ。その結果、とうとうお前の代で世界崩壊の力を手に入れてしまった」

僕の家系・・・・・・あんなことを言っているということは、正男は僕の家系ではないのだろう。戦いの歴史・・・・・・もしかして、歴史の中にあった戦争や戦のなかに・・・・・・。

「元寇、関ヶ原の戦、日清日露戦争、太平洋戦争。それ以外にも様々な戦いに足を踏み入れ、終わらせようとしたのだ。お前の先祖は!」

否定はできない。第一、僕の先祖が何をしたって、僕が変わることなんてない。これは決められた運命なんだ。変わることなんてない。何一つも。

「やがてお前は、全てを、この世界を破壊する!」

いきなり正男は叫び始めた。そして、頭上に両手を掲げ、巨大な光体を作り出す。

「だから俺は! ここで貴様を破壊する!」

その光体から太いレーザーが放たれる。この大きさでは、さすがに僕も避けれそうにない。僕の中で、今まで消えかかっていた恐怖心が再び蘇る。

「うあぁぁぁっ!!」

僕は目をつむった。なぜか、体が僅かに軽くなったような気がした。でも、肉体的にではなく、気分、つまりは精神的に軽くなった気がした。僕は、ゆっくりと目を開ける。目の前には、僕の知らない少年が、レーザーの直撃を受けていた。

「君は一体・・・・・・!」

「俺の名はキーラー」

僕の質問に、彼は当たり前だろとでもいうかのように答えた。まさか、キーラーが自らの肉体を持つなんて・・・・・・。

 いや、それ以上に、僕の目の前に映る光景には、そんな気持ちをかき消すようにキーラーが叫び始める。

「ぐ・・・・・・ぐぁぁぁっ!!」

レーザーなら、本当は焼き尽くされるはずだが、キーラーはそれに耐えた。耐え続けた。恐らく、自身にレーザーを吸収すると同時に、多方向に分散させているのだろう。

僕を守るために。

「キーラー!」

僕が彼の名を呼ぶと、キーラーはこちらを見ながら、僅かな笑みを浮かべ、語りかけてくる。

「大丈夫だ。お前はもう、一人で戦っていける」

僕は、僅かに震えながらキーラーの言葉に耳を傾ける。僕は声も出せぬまま、ただその様を見ていた。

「お前には、力がある。お前は、強くなったんだよ」

そういうと、キーラーは徐々に光に飲み込まれていく。

「潤・・・・・・生き・・・・・・」

その言葉を最後に、キーラーは消滅する光と同時に、完全に光の中に飲みこまれた。僕はがくりと膝をついた。何もできなかった。ただ見ていることしかできなかった。実体はなくても、キーラーだって大事な仲間の一人だったのだ。僕はそれを見捨てた。

 キーラーは死んだ。もう生きていない。

 だが、かすかにキーラーの声が聞こえた気がした。キーラーは、今までも、そしてこれからも、僕の心の中で生き続けている。そんな気がした。

 涙が頬をつたって滴り落ちる。だが、その涙は一分も経たぬうちに枯れた。目の前にいる殺人者を睨みつける。僕は、今ほとんど感情を制御できずにいた。

 僕の中で、弾ける音が響き渡った。


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