30、破壊の始まり
ベッドに横になっていた僕は、ようやく目が覚めた。まだ僅かにぼんやりとしている。脳の思考回路が鈍っているかのようだ。いや、もしかしたらほんとに鈍っているのかもしれない。
「うーん・・・・・・今何時だ・・・・・・?」
僕は今にも転びそうな足で、日にちも表示されているデジタルの時計を見た。
「四月一日・・・・・・二時十二分・・・・・・」
ゆっくりとデジタルに表示された日にちと時間を読み上げる。
「・・・・・・ってええええぇっ!!!!」
僕は、自分でも驚くような大声を出してしまった。エイプリルベースは四月一日、つまり今日開始されるのだ。僕は急いで奈々の部屋へと赴いた。
ノックをして返事を待つ。寝ているのだろうか。返答がない。僕は焦る気持ちを抑えきれずに、ドアを開けた。奈々は部屋にいなかった。ということは、僕をおいて何処かへ行ってしまったのか。だが、諦めるのは早い。僕は全速力でチームルームへと駆け込む。ドアを勢いよく開ける。ここにもいない。僕は、掲示板の方へと急いだ。掲示板に、情報が載っているかもしれない。
あった。「ロント全軍は三時までに、ロント地球支部に集合せよ」
「地球支部・・・・・・!」
僕はいうがはやいが転送装置に向かって走り出していた。地球支部のデータを開き、すぐに転送装置を作動させる。あの焦った中でも、武器などはなんのまちがいもなく持ってこれていた、僕にしては奇跡に近いだろう。
転送装置が作動し、瞬く間にまわりに宇宙が広がる。かなりの速さで星々が流れていく。そして、地球支部が眼前に迫ってくる。いつもなら、その巨大さに圧倒され、流れる星に心惹かれるが、今僕は完全に時間に引っ張られていた。
転送装置が止まる。地球支部の中を見てまたも驚いた。人がごった返している。僕は人波に流されそうになりながらも、必死にその足を進めた。
流れから抜けれそうになった。その一歩を踏み出そうとしたとき、いきなり腕を掴まれ、グイグイ引っ張られた。
「え? うわっ・・・・・・うわぁぁっ!」
僕はまたも、人波の中に飲み込まれてしまった。僕はなんの抵抗もできないまま、ただその腕に引っ張られていた。そして、今度は反対側の方から流れを抜けれそうになった。どうやら今度は、人波から抜け出ることができたみたいだ。
「はひぃ・・・・・・はひぃ・・・・・・死ぬかと思った・・・・・・」
僕はようやく抜けられた安堵感と、またこっちにも人波が押し寄せてくるんじゃないかという恐怖感に包まれていた。
「大丈夫? 潤」
僕はずっと僕を引っ張っていた人の顔を見やり、僅かな笑みを見せながら言った。
「大丈夫なほうがすごいよ、これ」
「あはは・・・・・・ごめんごめん」
ずっと僕と一緒に戦ってきたパートナー、奈々だ。
奈々は僕の様子を確認しながらも進んでいった。着いた先には、チーム・スレイヤーの面々が揃っていた。そして、その中には新人である光も混じっていた。彼女も、ようやく居場所を見つけることができたのかもしれない。
「遅いですよ。隊長!」
修二がにこやかに出迎える。
「時間は守っていただかないと」
海がいつもながらの口調で僕を出迎える。
「初ミッションなんですから。よろしくお願いしますよ」
初めてあったときよりもはるかに明るい顔で光が出迎える。
「じゃあ。行こう。私たちの地球へ」
奈々が、強い意志のこもった目でこちらを見た。
「うん!」
僕は、彼ら一人一人への期待に応えようと思い、決意のこもった声で返事をした。
僕達は戦う。僕達の地球を、未来を守るため。
そのためにはどんなときも、どんなことも、乗り越えてみせる。
僕ら五人を乗せたシャトルRが、勢いよく地球支部を発進した。
潤達のシャトルRが発進した二時間ほどあと。宇宙ではブレイカーの艦隊が地球へ向かって突き進んでいた。
理由はもちろん一つしかない。地球侵攻作戦「エイプリルベース」を行うためだ。しかし、どんなことにも、反対者、そして阻止しようとする者はいた。
巨大な一隻の艦。情報はすでに入手済みだ。あれがルナビート。本部からは、なるべくあれとの戦闘は避け、できるだけ多くの艦隊を地球に送り込むように言われている。囮の無人艦を先行させ、本隊は敵機の後ろを回りこんで地球に降下するというものだ。降下位置は大気圏で合わせればいい話だ。最高総司令官、グール・ブレイは、高らかに宣言した。
「いくぞ! ブレイクの諸君!「エイプリルベース」開始!!!」
北暦二〇一〇年、四月一日、午前五時〇〇分。エイプリルベース開始。