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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第三章【戦う理由】
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29、十年前 Act Final 正義

 ようやく見えてきた家を見て、正男はほっとした。これで世界は救われた。滅びることのない世界に戻ったのだ。彼らの力を封じることで。正男は、後ろの席に寝ている我が子の姿を見やった。少しばかりの傷はあるが、世界の崩壊に比べればましなのだ。

「これで・・・・・・いいんだ」

一人、ぼそりと呟く。一人の少年の身が異変におかされるのと、世界が崩壊するのとでは、スケール自体が違う。どちらをとると世界中のものに聞けば、九十九パーセントが、少年の異変を選ぶだろう。だが・・・・・・。

「全員がそう思ってくれれば、ありがたいんだがな・・・・・・」

一人いる。少なくとも。この少年のことを誰よりも愛し、守ろうとしてきたもの。潤の母、洋子だ。彼女だけが、世界崩壊を望むだろう。

 だが、もう遅い。すでに彼は複合されたのだ。世界を脅かすことのない、ただの人間に戻ったのだ。だが、複合にはいろいろとリスクがかかるものだ。代償として、禁句を設定しなければならない。費用もかかる。だが、世界崩壊に比べれば、この程度、なんともない。

 三つの禁句を放てば、一歩、世界の崩壊へと近づいてしまう。三つとも放ってしまえば、世界の崩壊は免れない。三つの禁句が、意思の開放にもつながるかもしれない。

 正男は、駐車場に車を止め、潤を抱きかかえて家の中へと入る。電気のつけっぱなしの居間を覗く。そこには、意識を失ったままの洋子がいた。正男は、彼女を起こさないうちに潤をベッドに戻し、自分の物をまとめた。

 正男は、とうとう家を出て行った。


 一つの戦艦に、少年は降り立った。自分と同じくらいの少年を抱いたまま。

「ジャスト・キライス、帰艦しました」

少年の名はジャスト・キライス。少年を抱いたまま艦長室へと向かう。艦長室には、一人の女性が座っていた。

「失礼します。ジャスト・キライスです」

ジャストは艦長室に入る。そして、一人の少年をそばにあったソファにゆっくりと降ろした。

「ギルルとの戦闘中、頭を強打したみたいです」

「そう・・・・・・名前は? 聴いてる?」

「炎道 正義と言っていました」

正義はいまだに意識を失ったままだ。ジャストは少し顔を曇らせて喋った。

「俺・・・・・・いえ、自分の予測では、やはり記憶もすっとんでるんじゃないかと思います」

そのとき、後ろから少年の声が聞こえた。


 白い天井が視界に入った。ゆっくりと体を起こす。目の前には、自分と同じ位の少年と、二十後半くらいにみえる女性が、こちらに気がついて見ていた。

「あ、大丈夫?」

少年がこちらに向き直り、優しく、いたわるように話しかけてくる。

「僕は・・・・・・?」

僕は誰だ、一体? ここになぜいる? 僕は誰なんだ? 目の前の少年は? その後ろでこちらをみている女性は? 自分は誰?

「僕は・・・・・・」

「やっぱり・・・・・・」

少年が小さくため息をつく。なんのため? もしかして、こうなることを予測していたのか。

「君は、記憶がないんじゃないか?」

目の前の少年が原因とも言えることを聞いてくる。そうか。記憶がないのか。だからこそ、自分の名前も出てこないんだ。

「それは・・・・・・その・・・・・・」

でも、認めたくはない。記憶がない? いつからない? いつ、自分が記憶をなくしたというんだ。

「君の名前を、俺は君の名前を知っている」

「僕の・・・・・・?」

記憶がないのは、どうやら信じるしかないだろう。いったい、自分の名前は、正体はなんなんだろうか。

「君の名前は、ジャスティス・ファイアだ」

「ジャスティス・・・・・・ファイア」

ジャスティス。それが僕の名前。僕の姿。僕の記憶。これからは、この名前で、記憶のないままでも生きる。生きるために、守り抜く。全力で命を懸けて。守る? 守るということは、戦って守ること。迫り来る脅威から、人を、生き物を、世界を守り抜く。

 でも、なにか不思議な気がする。僕は、記憶をなくす前も、守るために戦っていた気がする。でも、あやふやな過去の記憶よりも、今目の前にあるはっきりとした真実の方が、僕に力が与えられる気がした。

「あなたも今日から、この艦の一員として、戦ってもらうわ」

ずっと後ろで僕と少年の会話を聞いていた女性が立ち上がり、まっすぐにこちらを見据えて話しかけてきた。

「この艦で・・・・・・戦う?」

僕は、いまいち理解できない。あやむやな質問を無視しているのか答えているのか分からないような言葉を向こうは放った。

「そう、この艦、ルナビートでね」

これから、辛く厳しい道が続いているのかもしれない。ひょっとしたら、戦いの中で死ぬかもしれない。でも、僕は守るために戦う。いつの日か、戦いのなくなる世界を夢見て。


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