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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第三章【戦う理由】
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28、動き出す鼓動

 三月三十日、「エイプリルベース」まであと二日。一人の少年を護衛に持たせながら歩いていた紅龍は、天高くに輝く月を見上げた。ここまでは全てが彼の計画通りに進んでいた。まもなく巨大な戦闘が起こるというのに、ここはかなりの静けさだった。ここはいい。うるさい虫や鳥は生息せず、肉となる豚や牛を大量に飼育している。さらには、地下に人工の小規模海を作り上げ、マグロやらなにやらを泳がせている。周りを森林に囲まれ、夏でも涼しい。龍にとって、これほど裕福な場所はなかった。力を見つけるまでは。その力を手に入れるまでは。

 静か過ぎる月を見るのも飽きた。龍は顔の角度を直すと、部下へ向かって言った。

「やつの状態はどうだ?」

「かなりぐっすりですね。さすがは龍様の薬です」

「製薬を褒めるとは、なかなかいいところをついてくるな」

「ありがとうございます」

深々と頭を下げる部下に、僅かに笑みを見せる。

「明日は戦闘前夜だ。飼育課と調理課のやつにはごちそうの準備を言い渡しておけ」

「了解」

部下は返事を返すと、「失礼します」と言って頭を下げ、何処かへと行ってしまった。

 クリエイター、ブレイカー、地球軍、我々、そして、ルナビートとソルビート。クリエイターと地球軍は協力するだろう。ビートの方はおそらく、我々やブレイカーだけを狙うだろう。各軍とも、味方と敵を判別して戦うだろう。だが、我々は違う。全員を狙う。表向きではブレイカーに味方するように地球に進攻する。だが、そのどさくさに紛れ、ブレイカーを殺していく。まるで相手の攻撃が当たったかのように。そうしていけばいずれ我々以外は全て戦死する。そして、誰も治められなくなった地球の支配権を、自分たちが握る。

 あの方の望む、世界人類の意思統一への第一歩が。

「間もなく訪れる・・・・・・ドラゴンの世界が」


 ブレイカーの地球進攻作戦。一昨日リエイトの掲示板でそれを知った僕は恐怖のあまり僅かなめまいを感じた。倒れこんだりはしなかったが、部屋に戻ってからも、僕は自分の足が小刻みに震えているのに気がついた。

 そういえば、そのこと以外にも、掲示板には報せがあった。「蒼い翼を持つ、ジャスティス・ファイアと名乗る少年には注意せよ」とあった。そして、そのすぐ下には、「矢倉、桜井率いるチーム・スレイヤーが撃退に成功。しかし、今後とも警戒を怠るな」とあった。つまり、あれだけの手紙が来ていたのは、この掲示板を見たからだったのだろう。僕は納得した。そうなれば、そりゃまぁあんなに手紙もくるわけだ。

「ジャスティス・・・・・・」

ジャスティス。なぜ戦闘介入をしてくるのか、この間まで知らなかった。全ての命を護るため、自分は力を使い、戦う。もし、ブレイカーの地球進攻作戦のとき、彼らがこちらについたときどうする? 彼らすら追い払うか、共闘するか。

「正義・・・・・・か・・・・・・!!」

突然、激しい頭痛が襲った。ここで倒れたら、地球進攻作戦ギリギリに起きることになる。僕は症状を起こした禁句を探した。

(正義か! 禁句は!)

だが、気づいたところで、僕はもうどうしようもなかった。僕の意識は再び深い闇の中へと沈んでいった。

 ルナビートは、月にその腰をおろしていた。地球進攻作戦、「エイプリルベース」まで、あと二日を切った。現在の日時は三月三十一日、午前一時十二分。月でこれからはブレイカーの監視を行うこととなる。ブレイカーの軍が発見され次第、ルナビートは宇宙でブレイカーに攻撃を開始する。地球への被害を少しでも食い止めるためだ。ジャスティスたちには宇宙用の装備をさせることになっている。もし、それでも降下を許してしまったら、地球軍とクリエイターで撃退してもらうしかない。生身の人間が大気圏を突破できるわけがない。一旦帰艦させ、それから突入しなければならない。

「ブレイカーは?」

「まだ発見できません」

「そう、警戒は怠らないでね」

「はい」

シーナはそうクルーに命じる。ジャスティス達には、いつでも出撃できるように言ってある。この戦い、なんとしても食い止めないといけない。この地球を守るために。帰る場所を失わないために。


 周りには月と、無限にとも思える宇宙、そして、そのなかで輝く星々がある。ジャスティスはその星を見上げながら、これから起こる戦いについて考えていた。

 何故、こんなことをしなければならない。どうして、戦わなければならない。戦う必要なんてない。彼らには世界がある。自分達が住める、自由にしてもいい世界がある。だが、実際はそれもかなわないのだろう。クリエイターが常にブレイカーを危険視し、基地を作ろうとすれば破壊し、軍があつまってくれば攻撃する。そんな彼らだけを見ていると、クリエイターも悪いように見えてしまう。だから、戦ってはいけない。争ってはいけない。

 後ろから足音がした。ジャスティスはそちらに振り返る。そこには、いままで共に戦ってきた親友がいた。

「ジャスト・・・・・・」

「もうすぐ・・・・・・始まるな・・・・・・」

「うん・・・・・・」

ジャスティスもジャストも、戦いたくないと思う気持ちに偽りはない。だが、向こうは話す口も持たなければ、話を聞く耳も持たない者たちだ。手加減をして、戦いを躊躇ってしまえば、こちらがやられる。殺される。

「だから、もうこれで、終わりにしなきゃ。全て」

「ああ・・・・・・」

戦いたくない。だが、戦わせたくない。誰にだって、守られる命、生きることのできる命がある。命は、どんなものにも、一つしか存在しない。全く同じ命なんてない。だから、力が必要なのだ。戦いをとめる力が。

 ――力を闇雲に振るうだけが、守る方法じゃない。

 あのとき、川沿いで少年に言われたことが浮かぶ。守ることは、ただ全てを沈黙させ、戦いを終わらせることではない。そう彼は言いたかったのだろう。

 ジャスティスは、自動販売機から缶ジュースを取ると、ふたを開け、それを口につけた。


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